第四十五話 ダンジョン出納帳
「なんなんですのこれは!?!?!?」
ダンジョンの出納帳を見たサンディが叫んでいる。
「この数字じゃ理論上とっくにダンジョンはこちらに顕現していて「溢れ」を起こしてますわよ!?」
どういう事なのかは分からないが、彼女の前世の知識と照らし合わせると数字に何らか問題点があるのだろう。
だが忘れてはならない前提がある。サンディはバカである。だからコイツの前世チート知識は半分アテにならないと考えて良い。
「ヴァロライトの買取量がこれだけあるのなら産出量は確実にそれ以上ですわ!それにヴァロライトの産出量だけが特化している訳ではなくアガパイトもヴェライトも相当量出てますわ…」
「確実に顕現規定値を大幅に超えて算出されておりましてよ!?」
なんだか突然難しそうな単語を並べるサンディ。ダンジョンに詳しいアピールだろうか?私をけむに巻こうとしているのかもしれないので黙っておく。
横に座っているデュオの手を少し握る。デュオは私の突然の行動に驚き私の顔を見やる。美少年の顔はいつ見ても良い心を落ち着かせてくれる。私も彼を笑顔で見つめ返す。デュオは顔を赤くして目を背けた。だが指の動きから彼が私の掌を握り返してくるのが分かる。
こうしておけばダンジョンの事が全く分からず置いてけぼりにされているのではなく、イチャイチャして話を聞いていないよう誤魔化せるかもしれないと思った。
「それでも「溢れ」は起きていない、我々は「友好」を以て均衡は保たれている」
だが姫様はこの優良なダンジョンは危険ではないとサンディに実績を以て示した。
どうもサンディはダンジョンを「生かさず殺さず」運営する事で「溢れ」の可能性を排除しつつ資源を採取するべきとの話だが、対するティーラ姫はこのダンジョンに対して「友好的」なようだ。比較的自由に出入りを許可し、大量の高品質なダンジョン産資源を産出している。その分サンディの目から見ると「溢れ」の危険性が上がってしまっているようだが、ティーラ姫のデータから見て今まで「溢れ」の兆候は無いらしい。
素人としてはどちらが正しいのか全くわからない。だがティーラ姫の運営は結果としてサンディの想定以上にダンジョン産資源を産出しているようであった。それならティーラ姫の運営が正しいのでは…と思ったがサンディの癖に聞き捨てならない数字を指摘してきた。
「このダンジョンの中で果てたと思わしき連絡のつかない探索者の数……なんなんですのこれは!?」
「この一月で三桁…四桁近い人数が連絡つかなくなってるじゃありませんの!」
「本当にダンジョン管理組合はダンジョンを管理されるつもりがございまして!?」
行方不明者…ようするに死者だろう。四桁近いは…命の軽いこの世界でも大問題だろう。一年もすれば街そのものが消滅しかねない数字だ。
「それはクンヤンの代官とも話し合って憂慮はしている。でも産出されるダンジョン資源の量と噂を聞きつけて街にやって来る探索者の数からして問題ないとの事だ。人口の増減についてはこちらとしては口出しが出来ない。」
この世界は淑女的といって肌の露出が多い装備を好んで着る傾向にある。初心者には教育を施して鎧を着る事を推奨したり出来ないだろうか?
「鎧を買う金が無いからと「女なら裸一貫で成り上がりですわ~」とか言って文字通り裸でダンジョンに突っ込むんだよあいつら!」
バカである。
「…せめて入り口に衛兵でも配備して止めません事?」
「止めてるよ!そして酒が抜けてからダンジョンに入ったと報告を受けてる」
いや止めようよ…
この世界のお嬢様方は全身に魔力?が巡っていて異様な筋力と耐久力がある。裸でもそれなりに戦える。武器を持ったまま垂直ジャンプで五メートルは飛ぶし、ペットボトル一本分くらいの出血がある傷もツバをつけて治す。原始人でももう少しまともな医療行為をするのではなかろうか?
私見では素で元の世界のレンジャー部隊くらいの身体能力があるのではないかと思っている。いやレンジャー部隊を見たことないから適当だけど。
元の世界にこの世界での
話が逸れた。
そんな彼女らも無敵というわけではない。水着のお姉さんは巨大ロボの頭突きを食らっても裏拳を食らってもレーザーブレードを食らっても簡単に消失する。
ようするに死ぬ時は死ぬ。
「でもそういうのに限ってレアアイテムを掘り出してきて本当に成り上がって吟遊詩人に成功譚として広められたりするから始末に負えないんだ」
裸一貫お嬢様死んでなかった。
「第一この毎日新人の探索者が三十人以上登録されてるってなんなんですの!?」
満員御礼が過ぎる。
この答えだがその「探索者」とやらは野盗と同じで無限湧きする可能性があるのではないか?鎧云々、死亡率云々を啓蒙したとしてもバカ枠として無限に湧く。湧いてダンジョンに突っ込む、そういう仕様なのではなかろうか?
私がサンディのゲーム脳感覚に汚染されてしまっているのか、それともこの世界はサンディのゲーム脳並みのリアル低劣な世界なのかちょっと判断がつかないが、まさかの
ティーラ姫はサンディの言葉に返す。
「ダンジョン管理組合は登録をしてその新人の教育だってやっている!でもいくら教育をして適切な鎧を勧めても「そんなもの映えませんわ~」とか言ってダンジョンに突っ込むんだよ!」
管理する側も頭を抱えている。現場は色々と想定以下だった。
「でも「溢れ」が起きてないならいいんじゃないの?」
「ハァ―――――――――!これだから素人はッ!!」
訳知り顔で呆れたドヤ顔を決め私のクマの鼻をうにうにと指で押してくるサンディ。とても上から目線で人をイラつかせる顔をしている。
「想定される変換効率はとっくに最大、そして溢れを起こさないだけでティンダー共が保有するエネルギーは日々増えている事だけは確かですわ!!」
お姫様は苦い顔だ、自らの失態を指摘されているようなものだ。だが私はとばっちりじゃない?
「私たちは適切に管理されて延々とエネルギーを供給できる設備を望んでいるのであって、大爆発寸前で大量のエネルギーを撒き散らしている設備なんて望んでおりませんのよ!!」
なんかサンディのくせにまともそうな事を…
(逆に考えるのよエリカチャン!)
逆に考える妖精さんだ。
(一度くらい爆発してもいいじゃない…って)
…いいのかそれ?
「いいですこと?このエネルギー量で一度「溢れ」が起きた場合、国ごと滅びますわ!!」
全然良くなさそうだった。
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