第四十三話 閑話・転生者ティーラ・下
バーベキューパーティーでボクはこの世界に転生して初めて「男」をみた。
小柄で色白で線が細い…そういう男が好まれているのかは分からないけれど筋骨隆々で逞しい…という男は意外にもいなかった。
どうもこの世界の「男」は体内の魔力の通りが悪いのか「女」よりも身体能力が数段劣っているようだった。
思った事は「男に生まれなくてよかった…」だった。
男は皆首輪をつけてリードを引かれていた。正直絵面からして引く。それに対して我が侍従長が彼らに「挨拶」をする。
「あらこれは活きの良いなまこですわね」
侍従のアーガイルは彼らの大切ななまこを取り出すとおもむろにテイスティングを始めた。
食事中だぞ!?
脳が理解を拒んだが、アーガイルはかつて彼女が言っていたように素早くテイスティングを済ませ上品にハンカチで口を拭った。
まるで自生している木の実でもつまむかのような自然な動きに心の中で「私でなければ見逃しちゃうね…」などとツッコミを入れながら頭は宇宙ねこの心境だった。
男は膝から崩れ落ちた。
「お加減如何でございますか」
陸のお嬢様がこの行為を茶道か何かと勘違いしたかのような発言をする。
「大変美味しゅうございましたわ」
名状し難い蛮行が行われた現場では淑女の会話が繰り広げられていた。
…ボクはこの世界に「女」として転生して本当に良かったと思った。
種族の差によってどうしても存在してしまう壁や溝。そして「男」というリソースを奪い合いからお互いが理解を深めて双方が納得出来る場所に落ち着かせた結果が今のテイスティングなのだろうか…?
…でも前に言っていた「男を略奪」という蛮性と比べると数段文明的ではあるように思えた…思えたが…
「これはティーラ姫!」
クンヤンの街の代官スレイは赤髪で人懐こい笑顔の女性だ。固まっていた私を心配して声をかけてくれたようだ。
「ちょ…ちょっと子供には刺激が強すぎますよね」
彼女は困り顔で自然にボクとアーガイル達の間に入ると目の届かぬところにエスコートをしてくれた。淑女だ…
「ソ、ソウデスネ」
「しかしいくらなんでもこんな所で…と思いましたが、実際に見てみるとあれは芸術の域ですね」
…何言ってんだおまえ?
「人魚の方はテクニシャンというのはよく聞く話ですが、アーガイルさんは特にその道を極めた方なのだと思いました」
自分がそんなドスケベ生物だなんて初耳だよ!
「あはは…でもぐったりしていて可哀想でしたね」
ボクは元男として腰から崩れ落ち、今もまだ満身創痍然とした彼らに同情を禁じえなかった。
「あ、大丈夫ですよ。余裕がなさそうに見えますけどピンチはチャンスとも言って、彼らの竿の根元の辺りの筋の方をこうですね…グッと力を入れてあげると…」
なんだか彼女はパントマイムのように中空に何か妙な仮想おにんにんを設定しているのか…おい、汚いろくろまわしてんじゃねーぞ。あとさっきおまえ子供に見せるものじゃないとか言ってなかったか?
「これは実演した方が早いですわね」
ボクの手を引くな!!実演しなくていい!!
「そして男のメス穴にこれを装着するとあら不思議!括約筋大活躍ですわ!」
そしてポケットからナチュラルに穴るプラグを取り出すタヌキ女。あら不思議じゃねぇ!この世界の技術レベルはどうなってんだ!?あとなんだか面白そうな事言った気でいるんじゃねぇ!
今まで転生の神様とやらがいるのなら、ボクのおにんにんをリストラした事に文句を言ってやりたかったけれど、この体は卵生で子孫を残すのに男と恋に落ちる必要も交尾をする必要も無い。このバカの世界において実は相当温情ある立場に転生をさせて貰えたのではなかろうか?
ボクは自らの恋愛観がかなり歪んでいると自覚して出来るだけ「男」に関わらないように生きる事を心に決めた。
だがその認識を一変させる事態が起こった。
◇ ◇ ◇
ドアが控えめにノックされた。
「どうぞー」
ボクが気軽に声をかけるとドアはゆっくりと開き、今日の主役、圧倒的な力を見せつけたあのヤバい一本角熊装束の女がひょっこりと顔を出した。正直先ほどボクの魂に触れた「
だがそれに続いて顔を出したのはボクの恋愛観、生死観、貞操観を一変させ…狂わす存在だった。一連の騒ぎの中で彼女の影に隠れ、守られていた金髪の美少年。
「にゃああああああああああああああああ!?!?!?」
その叫びを自分から発せられたものなのか疑った。まさに絶叫だった。自分はここにいてはいけなかった。だが後戻りは出来ない。彼を一目見て自分は「違う生物に転生した」とわからされた。
下腹部から熱いものが滑り落ちる。本能で理解した「ボクは卵を初めて産み落とした」
どうしてそんな事になったのか、端的に言うと「発情した」からだ。
自分は姫という立場のある強者である。この世界の男は搾取される為に存在する、か弱い存在でありそして元男のボクは男なんかに興味は無い。男を拒絶する理由がありながらボクは生物の本能から「メス堕ちした」
ボクの頭は真っ白になっていて…カラダは小刻みに震え、顔を真っ赤、頭のなかはぐしゃぐしゃで目の焦点は合わなかった。涙がとめどなく溢れ視界が滲む。
…それでも本能が体を動かした。何をするべきか、何を成すべきか。例え頭は真っ白でも、今しがた卵を産んだ下腹部が理解していた。倒錯した性の衝動に突き動かされる。
(かけてかけてかけてかけてかけてかけてかけてかけて……)
呼吸は荒く、自分で聞いても意味不明な言葉を呟きながら今さっき産み落とした卵を手で掬い、あのボクを壊した金髪の美少年に向ってゆっくり歩みを進めた。
「お………おね…がい………」
少年の目が引いているのを理解しても止められない。最早脳に理性など存在し無い、ボクを動かしているのは下腹部を苛む狂気だった。どんなに無理無茶でも自分は彼に乞い願う。
「た……たま…たまご……に」
自分の愛のカタチを、差し出す。
「せ…せ……精子……かけ…て…………」
ぱしゃーーん!
無慈悲なクマ娘のビンタが炸裂し愛のカタチを床の染みに変えた。
「にょわあああああああああああああああああああああ!?!?!?」
彼女の一撃はボクの狂気を吹き飛ばし、そして運良く意識は正気へと振れた。
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