第三十九話 ダンジョン管理組合
「クンヤンの街ですわ!」
相変わらず街の広場で大声でポーズをキメるサンディ。顔面レベルのやたら高いこのお嬢様世界においてなお輝く美貌を持つサンディの大声にクンヤンの街のお嬢様は皆一様に彼女に注目した。
私は他人のフリをした。
「エリカ!!先ずはダンジョン管理組合に参りますわよ!!」
こっちは努めて他人のフリをしているのだからわざわざ大声で指を差して指名しないでほしい。バカの仲間だと思われたくない。お嬢様方の視線がこちらに向くのが分かる。
だがダンジョン管理組合とかいうロマン溢れる組織名もあってサンディから離れるのは躊躇われた。そうして私達は『クンヤンダンジョン管理組合』という建物にやってきた。私はしっかりデュオの首輪のリードを握りしめた…残念な事に私もこの世界に染まりつつあるようだった。
「それでは私様ちょっと交渉に行ってまいりますわ!」
サンディが動くとろくな事をしない気がするが、それより私はこの異世界情緒溢れる管理組合とやらにテンションが上がってしまっていた。
ユーティリティボードという掲示板にはダンジョンでの採集や人探し、遺失物の捜索やらの仕事の依頼の掲示、そして懸賞金の掛かった犯罪者の似顔絵付きの張り紙があった。
もしかしたら私も今頃ココに張り出されていたのかと思うと複雑な気持ちになる。
そして向こうにはこの管理組合の半分もの空間を締めている待機、休憩スペースで昼間から酒を飲んで騒いでいるお嬢様がダース単位でいらっしゃった。
前の世界だったらグラビアアイドルかと見紛う美女がその肢体を惜しげもなく晒して酒をかっくらっている。
彼女らの肌の露出の多い『金属鎧』は『なんちゃってビキニアーマー』と呼ばれるものだ。魔法のかかった布で作られていないこの『なんちゃって』装備は、攻撃行動と回避行動を取るのに体の動きを阻害せず、反面防御を全て捨て去っており、彼女達にとって女々しい装備らしかった。
(この場合の「女々しい」は元の世界で言う所の「雄々しい」に当たり、根性が据わっていて力強い様を表している)
頭の痛くなるバカの思考である。
この大して恩恵のない痴女装備を装着する理由として「そのうち本物のビキニアーマーが手に入ったら装備する為の予行練習」という高みを目指す高潔な精神に準じているらしいが、その実『映え』と『ただの露出癖』であるとサンディは言っていた。
ようするにこの酒場で騒いでいる半分はそういうバカという事である。
「あ、あの…このオトコのコ…お姉さんの彼氏さん…ですか?」
大きな眼鏡をかけローブで全身を纏ったいかにも魔法使いという装いに身を包んだ内気そうな少女がおっかなびっくり話しかけてきた。
被覆率が高いからと騙されることなかれ、サンディ曰くローブの下は全裸が当然らしい。何故そのような変質者プレイをしているかというと「魔法の行使に最大限影響が出ない為の努力」というのが模範解答らしいのだが、その実そういう『癖』らしい。バカしかいないなこの世界は。
もちろん彼女が下着をつけてないと決まったわけではなく『バカ』であると決めつけるのはよくない。
少女は頬を赤く染め、眼鏡越しに大きな瞳を潤ませて私に話を持ち掛ける。
「あの…わたし…20ギリー出しますのでその…彼を…その…こすらせて頂けませんか?」
彼女は手にわっかを作って上下に振っている。バカであった。
私はデュオを後ろに隠し首を振った。彼女くらいワンパンで吹き飛ばせるが、一応ここは街の中で言葉を介してする交渉ターンだ。そして私は交渉事がめっぽう苦手だったのでジェスチャーで明確に拒否を伝えた。
「で、でも私も嬉しいしおねーさんも20ギリ―手に入って嬉しいしこのコも気持ちよくなって嬉しい、三方嬉しいと思うんですよね!?」
なんだその謎の大岡裁きぽい理論は?内気でおとなしめの外見なのに謎の理論で食い下がってくる眼鏡の魔法使いちゃん。私の後ろに隠れているデュオはイヤイヤとばかりに震えている。
だがそこに美しいソプラノ声で割って入るお嬢様がいた。
「街中で嫌がる美少年に詰め寄るなんて不届き千万ですわよ!」
突如と表れたサングラスをかけていても一目でわかるブロンド美人、赤い衣装に身を包み、そして何より周りのお嬢様の推定三倍の質量をその胸に宿していた。三倍お嬢様、流星のシャーロットだった。
ちなみに彼女の片方の胸の大きさだけで私の頭より大きい。キレそう。
「な、なんですか貴女は!?」
メガネっ娘ちゃんの眼前に三倍胸の圧が展開される。
「街中には街中のルールが、街道には街道のルールが、そして娼館には娼館のルールがございますわ!!」
「で、でも!私カレに告白しただけでまだ何もしていません!自由恋愛の範疇だと思います!」
…デュオを買う気満々だったのでは?
「嫌がる美少年に街中で無理矢理迫るなんて淑女的ではありませんでしてよ!」
彼女はその暴力的な胸の谷間に魔法使い少女の頭を挟むとそのまま腰の回転で勢いをつけて吹き飛ばした。胸に吹き飛ばされた彼女は手裏剣のように吹き飛んで何人かのお嬢様を巻き込み机と椅子をなぎ倒していった。何を言っているのか分からないと思うがそのままだ。
大股開きで倒れる彼女は本当にローブの下には何もつけていなかった。
『胸に顔を挟んで投げ飛ばす』『手を出してはいない』という初めて見る異次元の蛮性に私は唖然としていた。
いい加減気が遠くなりそうである。
彼女はちらりとこちらを見ると「あら、貴女は…」と言いかけて自らの唇に指を当て言葉を止めた。
まぁ私は一本角熊の皮を被っているのだ、見覚えがあっても不思議ではない。
「た、助けて頂いてありがとうございます!」
デュオは盗賊にも挨拶ができる良い子だった。
前回彼女に「カワイイぼうや♡ショタ食いの専門家、流星のシャーロットがすぐにおまたの珍宝をぴゅっぴゅしてさしあげますからねー♡」とかセクハラ紛いのレ〇プのような言葉を受けたのだが覚えていないのだろうか?
「また何処かで会った時にはよろしく致しましょう」
そしてこちらに恩を着せるでもなく淑女的に挨拶をして颯爽と去っていった。
私はユーティリティボードの懸賞金を眺めると流星のシャーロットと思しき似顔絵の懸賞金が「C00ギリー」と書いてあった。いくらだろう?
どうやら彼女はサングラスをかけて変装をしているつもりのようだ。その変装のかいあって?誰も彼女に気付いていのかもしれないようであった。それがこの世界の知能指数の低さを示しているように感じた。
「淑女的で良い方でしたね」
「ん…んんん…?」
良い人は懸賞金なんて掛からないと思うんだけどな…
(エリカチャンも懸賞金掛かってるしきっと懸賞金の一つや二つ普通の事ヨ!)
妖精さんが痛い所をついてくる。わ、私はまだ重要参考人だし…
◇ ◇ ◇
「不味い事になりましたわ…」
戻ってきたサンディが珍しく深刻そうな声色で私達に語りかけてきた。きっと私は次の言葉を聞いて彼女の事を卑下してしまうのだろう。
「ダンジョンの健全で安定した運営の為にダンジョンの権利の全てを差し出すように迫りましたトコロ拒否されましたわ…」
バカか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます