第三十八話 ブランド
それはやってきた。私がこの場に敷いている常時警戒網の端、約五キロの距離にセイラムの街から馬に乗った人が二騎、走ってくるのを感じ取った。
私達を追撃するには遅く、戦うには数が全く足りていない。一体何の目的でやってきたのだろうか?理由は分からなかったがとりあえずサンディに警告しておく。
「馬…多分伝令かな?二騎走ってくるみたいよ」
常に見張りをしていた彼女より私が早く気がついた事に驚いたようだが、サンディは柔らかい笑顔を溢し、朗らかにのたまった。
「来ましたわね!絶対に逃がしませんことよ!!」
物騒なヤツだな…まぁどうも彼女らを待ってここで二日も野宿していたみたいだし当然の反応かもしれない。だが正直このあたおかがやる気になっていると悪い事が起こる予感しかしなかった。
「追手なの?」
私は『多分来るであろう可能性』をいくつかをサンディから聞かされていた。警戒をせずにスルーして良いのは歩いている旅人や荷馬車、そして盗賊団だ。ここいらにスポーンする盗賊は妙なダチョウに乗っていて馬に乗っているヤツはいなかった。警戒すべきなのは追手の兵を集めた軍、そして今回警戒網に引っかかった少数での早馬だ。大雑把に馬に乗って駆けてきたら注意してくれと言われている。
「多分違いますわ、ですが一人として通すわけにはまいりません!」
そうして彼女は神子としてモブ山賊共と格が違う蛮族性を見せつけるべく立ち上がった。
「光よ!」「浸透せよ!」「溶かし!」「昇華せ!」「光と化せ!」
彼女は街道に事前に敷いておいた半径二百メートルはあろう魔法陣を起動させる。
街道を走っていた騎馬は突如展開された光り輝く魔方陣の光に瞬く間に呑まれていく。
どうやら対象を光に浸食させ体表から徐々に体内のエネルギーを奪い昇華なのか消化し、光に溶かす魔法のようだ。二人の兵は光の奔流に呑まれ、当初こそ影を残していたが、次第に光が増し成す術もなく昇華されていった。サンディらしい陰湿なあたおか魔法だと思うけど光属性を曲解しすぎじゃないかしら…?
当初は光の中で転げるように暴れ、悲鳴や嗚咽を上げていた彼女達だったが、徐々にその動きを鈍くしやがて一切動かなくなった。
…や…やったのか?
どうやらこの魔法は解除すれば光の浸食は止まるらしく、効果は酷いものであったが、ともかく見た目はグロイ事になっていないようだった。
そうして二人のお嬢様兵士をサンディは物色し始めた。上から下まで身ぐるみ剥いで隅々まで、穴という穴まで調べている。股を大きく開帳させて調べている最中にびくりと体をはねさせたのでどうやら死んではいないようだ。
残念ながら私はもう文明人ではないと半ば諦めているが、まだ常識人ではあると自負している。私はそっとデュオの目を手で覆い、私も目を瞑った。
そうして全裸となり凌辱の限りを尽くされたお嬢様兵士共は捨て置かれ、彼女は目的であるブツを見つけその喜びを私にも伝えてくる。
「エリカ!ありましたわよ!!」
嬉しそうに私に目的のブツと思しきモノを振ってこちらに走り寄ってくるサンディ。まるで私が共犯者みたいにフレンドリーに声掛けるのやめてくれないかな…
そうして何処から取り出したのかわからない濡れた筒状の収納、そしてその中に収められた紙を私に見せつけてきた。
「何それ?」
「セイラムの街の代官ウィリアム名義による手配書ですわ!」
なるほど…この手配書が次の街に届くのを妨害して時間を稼ぐつもりだったのか…
サンディの手配書には生死問わず700ギリ―と書いてある。
「フン!金貨7枚ですか、私様もナメられたものですわね!」
日頃の行いの悪さを評価されていない事に対し文句をつけるとはサンディにしては殊勝な心掛けだ。
「私様はナイアルラ王国ではC800ギリ―の懸賞金がかかっておりましたというのに!」
正直金額の過多はよくわからないが、彼女は懸賞金の額を自分の価値と勘違いしているようだった。犯罪者のブランドイメージみたいなものだろうか?ともかくサンディは自らにかかった懸賞金の額に納得がいかないようで憤慨している。バカなんだなぁ…
そのC800ギリーがどの程度の価値なのかわからないが、サンディの首を持ってナイアルラ王国に出頭したらワンチャンハッピーエンドもあるんじゃなかろうかと考えてしまった。
デュオは私の後ろで怯えている。目の前のあたおかが凶悪犯罪者であると確認出来て良かったと思うことにした。
そうしてよくわからない濡れた筒からはもう一枚の手配書が出てきた。なんと私にも重要参考人として懸賞金が掛かっていた、その額50ギリ―。仕方がないとはいえ不本意が過ぎる…肉串五本分かな?大したことないからサンディの首を持っていって説明した方が良いかn…とも思ったが妖精さんが語りかけてくる。
(エリカチャン!食べ物で計算するのはよくないワ!あと十進法で計算したら銅貨八〇枚ヨ!)
私は故郷の十進法の世界が無性に恋しくなった。
◇ ◇ ◇
そうしてサンディは手配書を燃やした。
この兵が歩いて帰って事の次第を報告し、今度は早馬ではなく待ち伏せされている事を前提に兵を編成して慎重にやって来るかもしれない。だがそっちの道に長けたサンディから言わせると通常犯罪者一人の為に軍を動かすような事はせず、ほとぼりが冷め危険が無くなった頃に再度通達をするのが通例らしい。
どちらにしても街へ代官の認証を持った彼女らが到達し正式な手配書を渡すまで私達はお尋ね者ではないという事らしい。時間稼ぎが出来れば良いとの事だ。
「これで暫くは追手を気にせずクンヤンの街でダンジョンを謳歌できますわね!!」
溢れるような笑顔でそう
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