第三十六話 淫売代官ウィリアムズ

「セイラムの街を支配するのは汚らしい淫売代官ウィリアムズ。強欲で民衆を扇動するのに長けた彼女はデュオきゅん♡を一目見てその魅力に脳をやられ、どうしても手籠めにしようと画策するのですわ!」


デュオを見るとなんともいえない表情をしている。起きたかもしれない、起きたかもわからない事件が詳細に語られていく。始まりの街というイベントにしてはアタマがおかしいな…そうしてサンディの説明はウィリアムズという代官に移る。


「設定でウィリアムズは男不足が甚だしい昨今において大台に近い四十八歳処女!年を弁えぬ恋愛至上主義者で『初めてのえっちは好きな人としかしたくない』と考えておりましてよ。それなのに処女である事に強いコンプレックスを抱いており、デュオきゅん♡を見て一目惚れをするのですわ!淫売代官は『これが運命、この運命を逃したら私は一生処女のままだわ!』と固く心に決め、住人を扇動しマリーを抹殺するという凶行に走るのですわ!」


四十八歳……えっと…元の世界だと二十九歳くらいかしら…?なんだか思わぬ崖っぷち話に代官さんに少し同情してしまう。でもどうせめちゃくちゃ美人なんだろうな…


「まぁ私様も女!もし同じ立場でしたら焦る気持ちもわからないでもないですわね!!」


だがこのあたおかと同じ気持ちとは心外だ。私は眉をしかめた。


「本来のシナリオでしたらセイラムの街に童貞しかその背に乗せないという聖獣一本角熊に悠然とまたがる清らかな童貞のデュオきゅん♡ですがその首輪にはリードがついておらず、童貞の美少年が所有者…庇護者不明と街では大きな噂となりましてよ!」


デュオは童貞連呼されて顔を赤くしてうつむいてしまっている。私は彼から少し視線を外した。

だがこのあたおか女はデュオをガン見して舌なめずりをしている。コイツの変態性にはついていけない、口を開かなければ絶世の美少女なだけに残念が過ぎる。

そうして上気していやらしい笑みをたたえるサンディが言葉を続けた。


「この街では親子であっても所有者を明示する為にリードが必要なのですがド田舎からやってきた聖女マリーはその事を知らずデュオきゅん♡は街の女共の好奇の視線に晒され視姦の限りを尽くされるのですわ!」


本当に低劣な世界だな…


「街の公衆オナペットとなったデュオきゅん♡の噂は淫売代官ウィリアムズの耳にまで届くのですわ!事の真偽を確かめる為、聖女マリーとデュオきゅん♡の前に淫売代官は現れるのですが子宮にキたのか前かがみでその場を無言で去るのですわ!」


私は真顔で聞いている。コイツの異次元の下品な表現、なんとかならないだろうか…


「ですがあの淫売は裏では邪な謀を巡らしましてよ!代官屋敷に招いて二人を分断した後に、髪の色が実の親子ではありえないと難癖をつけマリーから実母ではなく養母であるという言質を引き出すのですわ!」


「…髪の色って遺伝なの?」


私はここにファッションピンクとかターコイズブルーとかありえない色のお嬢様を見かけたのだがあれは親の遺伝だったのか…


「もちろん遺伝なんて嘘っぱちですわ!ただの難癖に無知から口を滑らせ養母であり血縁ではないと自白してしまうマリーの落ち度です」


くっ…ひっかけ問題かよ…


「そうしてデュオきゅん♡は庇護者不在となり、その所有権を巡って武闘大会を開く事になるのですわ!」


その大会どこかで聞いたような…?


「マリーは私の知る限りかなりの高次の聖女ですわ。順当にいけば優勝してデュオきゅん♡の身柄を確保出来るだけの実力者ですが、運の悪い事に大会途中で当たり所を悪くした街のお嬢様参加者を死なせてしまうのですわ」

「参加するにあたって怪我と命は自己責任というサインをして参加しているのですが、それをチャンスと捉えた淫売代官は民衆を煽って暴動を起こすのですわ!」


サンディのいう『ニグラート国物語』のシナリオはなかなかえぐいが、私は変な既視感に眉をひそめた。


「マリーは四方八方から襲い来るお嬢様共を相手にちぎっては投げちぎっては投げ獅子奮迅の働きをしますが多勢に無勢の敵地、何人かを返り討ちにするも哀れマリーは捕らえられ磔にされるのですわ!」

「ですが童貞の守護者、一本角熊はマリーの声に応じて窮地のデュオきゅん♡を咥えて数多の矢傷を負いながらも街から逃げ出すのですわ!」


それもどことなく既視感があった。私の今までの行動もその元となったゲームのシナリオに影響を受けている…?

私はどことなく居心地の悪い感覚を覚えていた。


「あ、もちろん咥えるといってもち〇ぽじゃありませんわよ?」


しね。


「…とまぁそのようなシナリオですので淫売代官が数週間程度病院にインしていればデュオきゅん♡にコナをかける事もないと思いまして先手を打つべく颯爽と代官屋敷に忍び込んで代官をボコったのですが…」


コイツ代官屋敷に押し入って狼藉を働いたなんてとんでもない事件を起こした事をまるでスナック感覚で言い放つな…


「彼女をボコる私様を一生懸命に静止させようとする若い夫がおりましたのよ」


「…どういうこと?」


「ええ、なんとウィリアムズは若い婿をとっておりましたわ」


行き遅れのハズの代官が結婚していた…?


「私様が存じえない設定でウィリアムズは既に結婚していて、それとは別にデュオきゅん♡を見初めて愛人が欲しくなったのかもしれません」


でもサンディは代官は設定では恋愛至上主義者で処女だと言っていた。愛人を作るとは思えないのだが…私は一つの可能性を言葉にする。


「…デュオがここに来るのが遅くなったから彼女は別の男と結婚した…?」


「私様もその可能性に思い至りました。真実は分かりませんが、とりあえず彼をベッドに押し倒しひん剥いて手籠めにしようとしたトコロ、無粋にも部屋に乱入してきた兵に取り囲まれたのですわ!そうして代官屋敷を爆破して逃げ出してきたのです!」


…今回のセイラムの街での騒動を要約すると、サンディが代官屋敷に押し入って代官をボコって夫である少年をレ〇プしようとして、兵に取り囲まれたので屋敷を爆破し街に火を放って逃げてきた…か。

毎度サンディはバカの下限を超えた新鮮な驚きを提供してくれて頭が痛くなる…だがまだ言い足りないとばかりに彼女は言葉を続けた。


「あのち〇ぽ十七歳とみましたわ!!ホントアイツ最低のショタコン女郎ですわよ!!」


「もう…しゃべるな…」


遠く、セイラムの街は夜の闇を焦がし赤々と燃え盛っていた。

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