第三十三話 身体強化

私達は今日も堂々と街道を歩いて幾度も盗賊に襲われていた。


「ヒャッハー!ここは通さないですわよー!」

「!? ショタですわ!犯せ!!」

「まわせぇぇぇぇぇぇぇ!!」


すっかりお馴染みとなったワンパターンなお嬢様バカ共のイキる声が街道にこだまする。何を回すのか。


「おーっほっほっほっほ!身の程を弁えなさい!女郎!!」


私は辟易としていたが、トレントに遭遇して心に傷を負ったサンディは襲い来る盗賊団お嬢様をボコボコにする事で調子を取り戻していた。

どうやら彼女は自分より弱い者を吹き飛ばすと元気が出る性質らしい。そんなあたまのおかしい彼女の心のケアやらリハビリを兼ねて街道を歩いて無限湧きするのであろうお嬢様盗賊共を片っ端からボコボコにしている。

そう、なんとこれは医療行為なのだ、私のアタマの方が痛くなってくる。


「ぐぇあーー!」

「ぎょわーーー!!」


サンディの魔法やら物理やらを食らい、文字にすると酷いが驚くほど可愛い嬌声をあげて半裸か全裸になりあられもない姿で吹き飛ばされるお嬢様共。私の感覚では顔面パンチで十メートルも吹き飛ばされれば死ぬか良くて重傷だと思うのだが、この世界のお嬢様共はアタマが悪い代わりに身体が丈夫なのか、わりと問題なさそうだった。


「知性も品性もなさすぎます!唯一残ったものが痴性とは呆れますわ!」


太陽を背に長い髪を手で梳いて勝利のポーズを決めるサンディ。透き通るような髪に陽光が浸透し煌いて…まるで一枚の荘厳な宗教画にも見える…が、おまえが言うな…

だが相変わらずあたおか女のくせに陽光を受けて輝くその姿はムカつくほどの美少女である。

「ち◯ぽ!」とか叫んでたくせになまいきな…


そんな彼女に彩を添えるように全裸やら半裸で股を見苦しくおっぴろげているアイドル系お嬢様盗賊団が背後に転がっていて眉をしかめざるをえない。


「調子が戻ってまいりましたわ!!」


普通は戦ったら体力とか魔力だとかが削れるものじゃないのかしら…?本当に元気を取り戻していく彼女を確認しながら訝しむ。


サンディは私の知っている『ナイアルラ国物語』の主人公ちゃんと似た光と癒しの力を持っている。だがどうも私の知っている知識と隔たりがあった。

一番の問題点である下品で低劣でアタマがおかしい存在なのはこの際おいておいて、魔法の発動方法だ。『ナイアルラ国物語』での魔法はコマンドを選択してMPを消費する事で発動する一般的なRPGの形式だった。


だがサンディを観察すると彼女は薄くて見えにくいのだが、大気?に含まれるエネルギーを詠唱の言葉で包み、魔法を行使している事に気が付いた。今まで薄過ぎて気が付かなかったが、どうやらこの世界の大気には「不可視の力」と同質の成分が含まれているようだ。


私はこの「不可視の力」を生物固有の能力だと勘違いしていた。トレントはこの力を腕のように伸ばして相手を直接握ったり、私はそれを固めて殴るとか少々即物チンパン的な使い方をしていた。

どうやらこの「不可視の力」を詠唱の言葉で包む事で、そのエネルギーを変換して「魔法」らしく火を灯したり、水を出したり…自在に効果を発現させる事が出来るようなのだ。

サンディはそうやって魔法を使っているようだった。


だが問題はそこではない。この世界の住人はどうもそのエネルギーを魔法の詠唱も無しに直接身体の強化にも使っているようなのだ。

サンディもお嬢様盗賊団共も多分自覚なしに身体を強化している。この世界の住人は無自覚に世界に蔓延するエネルギーを体の中で変換し、身体能力を向上させて活動している。細腕で大きなこん棒を振るったり、顔をぼてくりまわされても比較的無傷だったり、日差しが強くてもやたら色白で綺麗なのもこの身体能力の強化に依るものだろう。

だがこの恩恵を魔法の詠唱をしないにも関わらず無自覚で行っている。彼女らはこの身体強化込みでのスペックを生来の身体能力と勘違いしているのかもしれない。

要するに多分魔法を無詠唱で使うこと自体は可能で、そしてそれを理解していない可能性がある。


実は私も今でこそ無意識的にこの身体強化をしているが、当初は虫や小動物が「不可視の力」を纏って驚くような身体能力を発揮しているのを見て、その真似をするべく相当練習して出来るようになったのだ。だから私は彼女らが無意識でやっている事を知って内心、少なからずショックを受けていた。

ただ無意識でやっている彼女らと違い技術として習得した私だからこそ彼女らの身体強化に気がつけたのだと思う。そしてその練度と「不可視の力」…「魔力?」というべき力の強度で私は彼女らの一歩先をいっている自信がある。


正直あたおか女がこれ以上厄介な生物になっても困るしこの事は私の心の内に秘めておくことにした。


(エリカチャン、小さい胸に納まりきらない大きなヒミツならワタシに漏らしてもイイノヨ…?)


キレそう。


◇ ◇ ◇


私達は街道を歩いている。既にエフワードの町を出て七日、たいした目的もなかったがさすがに湧いてくる疑問をサンディに投げかけた。


「それで…何処を目指してるの?」


ハッ!と流し目でこちらを見遣り、髪を梳いてポーズを決めるサンディ

うざいのに美少女だから画になっている。うざい。


「始まりの街!セイラムですわ!」


なんと私の旅はまだ始まってもいなかったようだ。

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