第二十七話 路銀マウント
「お待ちなさい!エリカ!貴女も旅に出るのでしょう?旅には路銀というものが必要でしてよ!」
私はピュアあたおか女のサンディから文明的な発言が飛び出して少しひるんでしまった。
「ろ…ろぎん……?」
私は目を泳がせた。路銀の概念は知っている…しかし私は当たり前のように無一文での旅に不便も疑問も感じていなかった。
魔力?のソナーで獣でも地下の水源でも感知出来るし、動物や化物に対しての威圧なんてお手のものだ。この世界の人間との交流が無かったからかどうも人間に対して効きが悪いが、それさえかけておけば寝ている時でも大体安全なのだ。蚊にも効く。そしてこの身に纏っているクマの皮があれば夜でも温かい。だがこれらは全て文明圏外での話だ。
「バーバリアンの貴女には分からないかもしれませんが町に逗留し生活を営むにはお金というものが必要でしてよ?」
「お、おか…ね…?」
私は挙動不審になる。
彼女が言っているのは文明圏外の森で生きる話はしていない、文明を持った人間の集落で生きる時の話しているのだ
勿論お金は知っている。だが私はこの世界で流通しているのが貨幣なのか紙幣なのか、その現物すら見た事はない。
そしてこの「
私は野山でいくらでも毛皮を狩ってこれる、だがそれをお金に換える為には途方もない溝があるのだ。「
私はつい最近まで獣を狩り、木の実と草を食む原始人生活を営んでいた。清々しいほどにノーマネーである。文明人のつもりだったが私は立派なバーバリアンとなり果てていた事に絶望する。
挙動不審になった私にマウントを取れたと確信したサンディがドヤ顔でたたみかけてくる。
「ご心配には及びませんでしてよ!なんとここに私様が奴隷を売って得たお金がございますわ!」
お金が沢山入っているであろう布の袋を見せびらかしのたまうサンディ。綺麗な顔をして黒いお金を胸張って自慢をしてくる、どうしてコイツはこんなにアタマがおかしいのだろう…
いや、法的に奴隷売買は問題にならないみたいだけど、合法でも奴隷商の女の人が泣いて縋っているのを強奪したのならそれは強盗なのでは?そしてもしかして私はこのあたおか女と共犯という事になるのだろうか…?
だが既に町からはこのあたおか女と共犯者の扱いされている事を思い出して気落ちする。
そしてサンディが言っていた「言いがかり」をつけてきた女の人の「この人は私の夫よ!」という言葉が思い出される。奴隷売買が本当に問題無いのかも疑問が残る言葉だった。それと「ち〇ぽごちそうさま!」ってなんなんだよ…
とにかく私は知識不足といらない情報を思い出し、コミュ障らしく言葉に詰まってしまい大人しくなった。
私が黙った事を良い事にサンディはあたおか発言を続ける。
「これだけありましたら余裕で次の町に入って娼館で豪遊出来ますわ!」
「娼……」
私はドン引きしているのだがサンディはその美しい顔でドヤ顔をしている。マウントをとっているつもりなのだろう。そして一見にこやかに伏せられた長いまつ毛、だがその奥の瞳は得物を狙うケダモノの目そのもの。そしてその瞳は私の後ろのデュオをしっかりとロックしていた。
私は頭が痛いが背後のデュオの怯えを感じて気をしっかり持つ。そりゃこんなホームラン級の淫獣に貞操をロックオンされたら怖気づくのも無理はない。
(大丈夫よエリカチャン!このあたおか女よりエリカチャンのが百倍強いわ!イザとなったら奴隷にしてうっぱらって路銀を増やしましょう!)
建設的な意見を提示してくれる妖精さん。なるほど?でも私は奴隷売買に手を染めるつもりはないし、このあたおか女と同じ穴の狢にはなりたくないよ?
(エリカチャンと同じ竿の穴姉妹を狙ってる不届き者には相応の末路よ!!)
ああもう妖精さんは黙ってようね。
「それともエリカは今からあの町に戻りますの?」
「それは…」
私は思い出した。町からの脱出の際に見た燃え盛るエフワードの町、その劫火の中で虚空に中指を立て声高にFワードを叫ぶユービィ町長…その表情を思い出す。どう考えても私は悪くないし誤解だと思うのだが、あんな表情をした彼女と今から戻って話し合いをして溝を埋められる気はしなかった。私達にエフワードの町に戻るという選択肢はなく、この街道を前に進むしかなかった。
こ の あ た お か 女 の お か げ で
サンディは私の苦渋の表情を見て、私が彼女と一緒に旅に出るしかないと理解したと考えたのか更にドヤ顔を深める。
やっぱりこの女もう一回ぶん殴っておきたいが、財布役として役立って貰わないといけない。
そうして私達はこの絶世の最低最悪最低劣のあたおか女と一緒に旅をする事になった。
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