第二十六話 エフワード炎上

サンディは隣国のナイアルラ王国からやってきたという「神子」で、転生者を自称しているあたおか女だ。

ナイアルラ王国というのは私が昔やっていた乙女ゲーム「ナイアルラ国物語」の中の世界だと思われる。彼女はどうもその主人公役だったようだ。


だが私の好きだった主人公ちゃんではない、断じてない。別人だ。

その容貌も私の知っている主人公ちゃんとは大きくかけ離れている。だがサンディの容姿は決して悪いのというわけではない、むしろ良すぎる。

陽光を反射する銀の髪に透き通るような肌、そして女神のような美しい顔に豊満な自己主張する豊かな胸、そしてそれを強調する引きしまった腰のライン。長い脚は彫像のように白く美しく私は羨望の眼差しを向けずにはいられない。

まさしく非の打ち所がない、幼児体系の私としては嫉妬するのもおこがましいが、天は完璧だからこそ彼女に欠点を与えたのだろう。


何度だって言う、彼女はアタマがおかしい。


「なんでアンタ私についてくるのよ!!」


私はデュオの手を引いて夕闇迫る街道を町を背に駆けていた。

そして私達の後ろをついてきていたサンディが息を切らせつつ叫ぶ。


「貴女についてきたのではありませんわ!!私様はデュオきゅんについてきたのですわ!!」


肩で息をするサンディの背後、夕闇迫るエフワードの町からは吹き上がる劫火が天を焦がさんとばかりに光々と燃え盛っていた。


◇ ◇ ◇


私達は街道にスポーンしたアイドル系盗賊共の美少年に向けた下心全開なお下品言葉を聞き、つい共闘してわからせた後に一緒に休憩していた。

サンディは格別にアタマがおかしいが、デュオを体を張って守ろうとする気概を感じられたからだ。


あのエフワードの町でこれからの旅の邪魔になりそうな奴隷を売っぱらおうとしましたのよ」


…なんだろう…私の知っている「ナイアルラ国物語」のゲーム知識だと「神子」は主人公ちゃんのはずなんだけど、その主人公ちゃんをさしおいて攻略対象キャラを攻略した挙句、奴隷商やってるとか偽物にしてももうちょっと品性を求めたい…そんな私の想いなどとは無関係にサンディの話は続く。


「すると私様の奴隷を捕まえて「あなた!?どうしてこんな所に!?この人は私の愛する夫よ!?」なんて権利を主張する馬鹿が出てきたのよ」


まぁあの町の住人を奴隷化したのならご家族もいるだろう…この世界女の顔面偏差値が須らく高いのだが男も相応にレベルが高いようだ。美男美女カップルか…そんな事を考えているとサンディバカは暴投を始めた。


「私様そんな言いがかりに応じるつもりは微塵もありませんのでその女の頬を叩いて倒れた彼女に向かってビシッと言ってやりましたわ」

「彼なら昨晩は私様の下で良い声で喘いでおりましたわ!貴女の愛とやらが乏しかったのではなくって?ち〇ぽごちそうさま!」


ク ソ か ?


私は大人しく彼女の話を聞いているが頭が痛い。正直どう反応したら良いのか分からないでいた。

サンディは一人ノリノリで語っているが、その内容に私の後ろのデュオが怯えているのを繋いだ手の震えから理解する。


「私様その場の空気が変わり臨戦態勢にある事を理解致しましたわ。なんと私様のスキルはその場の力量差が分かるというものなのです!」


しかもそんなぺらぺら自分の秘密のスキルとかを喋って大丈夫なのかな?それともスキルってわりと自己紹介くらいの軽いノリで語っちゃうものなのだろうか?

私はこの世界の人間の常識がよく分かっていないので判断が出来なかった。そして頭と股が緩過ぎる彼女が心配になるが、正直このあたおかが敵になる可能性も非常に高いので、とりあえず黙って話を聞き続ける事にした。

なんだかんだぶん殴ったのにピンピンしている彼女にはまだ何か秘密があるはずなのだ。


「その場にいる敵意全てを合わせても下に三百以上のクッッッッソ雑魚共ですもの、私様その場にいる全員を圧倒的な武力で速攻叩きのめして差し上げましてよ!」


弱い者にやたら強いなこのあたおか…


「そうして泣いて縋る奴隷商の女から代金を受け取って帰りましたところ町の民兵が私様を囲いましてよ!?」

「まったく町の救世主たる私様に盾突こうとは片腹痛いですわ!」


ナイアルラ国軍を追い払ったのは私でコイツはこの町にその軍隊を呼び込んだだけのような…だがノってきた彼女の言葉は止まらない。


「そうして私様の「正義執行の理ジャッジメントリージョン」が火を噴きましたわ!」


つまり…だ、このあたおか女は彼女が抱えていた三百人の奴隷を奴隷商に売り捌こうとして、それを町の家族に見つかって騒ぎが起き、魔法をぶっ放して町を燃やしてきた…そういうわけか。


ユービィ町長がエラい剣幕で胸とかを揺らして部屋に押し入ってきたから何事かと思ったけど私達は「サンディ一味」として捕らえられそうになったのか。

今理解したけど、


全 部 コ イ ツ が 悪 い ん だ な  


この女は今ここで処した方が絶対に世界の為になる、何故か私の拳を食らってもピンピンしている不思議ちゃんだが、昔見た映画で十二回殺さないと死なない化物は十二回殺せば良いっていうのを思い出した。


(大丈夫よエリカチャン!どんなに強くてもお尻の穴は弱いものよ!)


妖精さんは今日もいらない情報を私に教えてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る