第二十五話 ピロートーク

広いベットに体を沈める、二人どころか五人くらい寝ても余裕な広さだがデュオは遠慮しているのかベットに上がろうとしない。


「いえ、ボクその…もう大人ですので…」


そうは言うがデュオはどう見ても子供だ。十一歳か十二歳か…そんな年の頃にしか見えないが、元の世界でも「大人」の定義は国と時代によって随分変わっていた事を思い出す。

このあたおか異世界なら大人の基準も違って当然だろう。


「いいわよ、気にしないから。それにせっかくこんなに広いのにもったいないわ」


ベットは広いし私達二人が寝るのに全く問題はない。マットレスは程よい弾力がありふかふかで柔らかくシーツは優しい肌触りだった。これを私だけで味わうのは文明に対する冒涜だろう。


デュオの手を引いてベットに引っ張り上げると顔を真っ赤にしている。だが私達は旅の最中、私のクマの毛皮に包まれて寝ていたのだ。余程一緒の毛皮で寝ていた時の方が距離は近いと思うのだが…

それに私はいくら美少年とはいえこんなたいけな少年に手を出すつもりはない。

だからこの世界の常識であろう質問をした。


「大人の基準ってなんなの?」


その質問に対してデュオが息を飲んだのが分かった。


「その……」


デュオは言い出せずに言葉を選んでいるようだ、そんなに言い難い事なのだろうか?


「せ……精通したら…大人です」


未開の野蛮人情緒溢れる答えだった。私達を取り巻く空気が一気に悪くなるのを感じた。

そういえばメリッサも「処理をしてやれ」とか言ってたな…するとこれは「そういう知識」は持っているのか…確かにあの蛮族村は結婚とか出産は早そうだけど…

私は悪くなった空気を変える為に無理矢理別の質問をした。


「そうだデュオって何歳なの?」


前から気になっていた質問をする。モジモジして美少年は言いにくそうに答える。


「今年で二十です」


…え?まさかの数字が出てきて固まってしまう。聞き間違いかと一瞬悩んだがここは異世界、もしかして長命種とかそんなのがいたりする感じで成長が遅いとかそれとも単純に寿命が長いとか?デュオの耳を見ても特にとがっているとかはなかった。

私が困惑しているとデュオは逆に質問をしてきた。


「エリカは…何歳なんですか?」


女に年齢を聞くとは…と一瞬考えたがそもそもこの貞操逆転の異世界ではもしかして女が男に年齢を聞くのがNGなのか?そう考えて私は自分の年齢を答えた。


「……私は十七歳……だと思う」


この世界に来た時は一五歳でそこから冬を二回過ごした、だから多分十七歳くらいだろう。


「え!?」

「す、すいません!とても大人びているからてっきりもっと年上なのかと思ってました!」


なんだか無性に苛立ちを感じたが、デュオのこの反応に私はある可能性に思い至った。


「…デュオ、一年って何日かわかる?」


「一年は二二〇日ですよね?」


この世界には月が七つもある世界だ。星の公転周期と自転の速度も違うのだろう。

一日は二十四分割するだろうから単純比較は難しいかもしれないが、太陽の周りを一周するのにこの星が二二〇回、回転している事は分かった。

もし…一日の長さがたまたま地球と同じだと仮定するならば、デュオは生まれてから四四〇〇日、これを地球の三六五日に換算すると…だいたい一二歳くらい…?

私の見立てはそう間違っていないように思うが、それなら私が自称した一七歳というのは…地球だと一〇歳くらい…?

いやいやいやさすがに私は一〇歳には見えないでしょ…そして地球での一七歳はこちらでは…二八歳くらい…?私は花のティーンエージャーを全力ダッシュで飛び越して三十路間近ってコト!?

青春というものを完全に吹き飛ばしてしまった事に絶望し、一人言葉に詰まってしまっていた。


「十七歳…なんですか…?」


そしてデュオの言葉で私は我に返る。

私の胸は平坦だ、けれどさすがに一〇歳の幼女だとは思わないだろう。

だがこの世界の女はやたらと身体にメリハリがついている。蛮族のメリッサなんか出る所は出て絞るところは絞られていた。メガネ美人のユービィ町長さんは出る所は凄い出ているワガママボディだ。街道にスポーンするアイドル系盗賊も妬ましい質量を胸に抱いていた。

元々背は高くなかったが、長い森での生活では慢性的に栄養失調気味で二年経った今でも背はあまり伸びていない。それに伴い胸も少々慎ましやかだ。そして私と同じような慎ましやかなボディの女性は…本当に幼女くらいだという事実を認識してしまった。

私を見るデュオの視線が私の顔から胸にいってしまったら私は…私は……そう考えると次第に目から光が失せていくのを感じた。

だが彼の反応は予想と違っていた。


「じゃあ…ボクの方が お兄さんなんですね」


そう言ってデュオは優しく笑った。

反応に窮して固まる。否定しようにもぼっち生活が長かった私はコミュ障をこじらせていて長い説明など出来ないのだ。

そうしてデュオはベットの中で固まった私の頭を優しくなでてくれた。

混乱と困惑もあった上に油断までしていた、だがこんな年下であろう美少年に優しく頭をナデナデされてしまうと妙な気分になってくる。

混乱する頭が徐々に現在の状況を正しく理解し、脳が溶けていく。気を緩めると変な声が漏れそうで気持ちの悪いニヤケがおさまらない。私なんで喜んでるの…?ショタコンなの…?

この異世界の情報の混乱と自分の感情を整理も出来ない困惑の中で私は唐突に「オギャる」という感情が理解出来た気がした。


(パパァ…)


妖精さんが甘えるように、煽るように気持ちの悪い事を言う。だが脳がとろける私にツッコミをする余裕はなかった。

私は柔らかいベットの中、変な性癖に目覚める前に眠る努力をした。

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