第二十四話 回転ベット
お風呂からあがるとベットでデュオが回っていた。ベットの上で正座をして回っている。回転移動して私を目が合うと顔を赤くして目を逸らせた。
ははーん?ベットを回して一人遊んでいたのがバレて恥ずかしいのかな?男の子はこういうのつい延々と遊んじゃうもんね。デュオも男の子だなー。うーん文化的…いや牧歌的なのかな?
「デュオもお風呂入ってきなさい」
私はベットで回っているデュオにお風呂を勧める。
「ーーーーーーーーーーーー」
デュオが停止した、いや回っているが。その空気になんだか私も固まってしまう。
「は…はい!」
そしてなんだか強張った反応が返ってきた。何やらデュオは随分緊張しているようだ。私から目を逸らつつお風呂場に向かった。
今の私はさっきのメイドさんが用意してくれたであろうガウンを着ている。肌の露出はいつものクマ皮より少ないハズだが変な所でも露出してしまっていただろうか、正直この世界の謎の変態性は侮れない…と内心焦りを隠しつつ顔に出さないよう壁に一面に張られた鏡で自分の服を確認する。
パウダールームには本来守るべき所を守れていない
この世界の服飾技術は一体どうなっているのか。
魔道具?なのかコンセントを必要としない電気とは違う動力で動くドライヤーは思った以上に早く長かった髪を乾燥させる事が出来た。
そういうわけで身嗜みに関しては大丈夫なハズだ。軽くチェックしてみても胸も尻もしっかりガウンで覆われている、なんなら脚や腕、露出している部位はいつもより少ない。変な所はない…と思うのだがデュオのこの反応は一体なんなのか?
そんな彼が脱衣所へ入っていく姿を見るともなしに見ながら考える。
(首輪…外さないのかしら…?)
するとデュオは何かに気付いたようにこちらに向かって軽く会釈をしてドアを閉めた。
…え、つい呆けてしまっていたけどココは世界は男女の貞操観念が逆転した世界、つまり今のは年頃の女の子がお風呂に入る為に着替えをしようとしているのをガン見している変質者…?
「大丈夫よエリカちゃん。エリカちゃんは気持ち悪くなんてないわ…」
妖精さんのどこか呆れた薄っぺらく生温い同情の言葉が私の心をくじる。
「ぐおお……」
私はベットにダイブして頭を抱えて回転した。
◇ ◇ ◇
町長さんに案内されたのは噂にだけ聞いた事があった、女と男が愛を育む事の為に作られたであろう部屋だった。ボクは部屋の異様さから町長さんの表情を窺うと「ニチャァ」という擬音が似合いそうな下品な笑みを浮かべていた。この悪意…間違いないだろう。
ボクはエリカがこの部屋をどう思っているのかが気になり、彼女の表情を観察した。だがその表情はこれでもかというほどに目を輝かせキラキラしていた。
一歩部屋に入り床の絨毯を踏み驚いて何度も絨毯を踏んだり寝転ぼうかと葛藤したり、壁面の鏡に怯えたりしている。目を離したら走りだしていても驚かない、その姿はまるで小動物のようだった。その仕草に、年上の女性に対して失礼だと思ってもカワイイという感想しか出てこなかった。
そして彼女は回転する円形のベットを見て更に目を輝かせていた。
どうやら純粋な彼女はこの部屋の下品な意図には気付いていないようだ。それならボクも気づいていないフリをして楽しんでいるように振舞おう…そう決めた。
そしてお風呂からはシャワーの音がしていたが今は静かになっている。エリカがお風呂に入って随分と時間が経った。
彼女が毎日のように水浴びをしていたのは知っていた、多分きれい好きなのだろう。けれど彼女が温かい水に浸かるなんて事を知っているとは思わなかった。もっと驚くかと思ったが…あの魔の森の奥には温泉でも湧いていたのだろうか?
彼女と同様に楽しんでいるように振舞う…そう決めたハズだったが、卑しくもボクは彼女のお風呂での姿を想像してしまっていた。
彼女に対してやましい感情を抱かぬよう一人手早く処理を済ませた。暫くしてエリカがお風呂からあがってくる。
だがお風呂からあがった彼女は見違えて見えた。
いつもは恐ろしい巨大な一本角熊の皮を被っている彼女だが今はガウンを着ているだけ、肌の露出もいつもより少ない。
だが彼女はまるでお話しに出てくるお姫様のようだった。風呂で磨いてきたのだろうトレードマークである濡れ羽色の長い髪は美しく整えられ輝いていた。お風呂に浸かった肌は熱を帯び、ほのかに頬は上気させている。そんないつもと違う彼女は眩しく、まともに見る事が出来なかった。
下卑た妄想であろうとしっかり想像をして覚悟を決めておくべきだった、ボクは不意打ちを食らったように固まってしまい、そして顔が熱くなっていった。
そんなボクにエリカが声をかけてきた。
「デュオもお風呂入ってきなさい」
エリカのその言葉でこの部屋が一体何をするための部屋なのかを思い出してしまった。もちろん彼女にそんなやましい意図はない、でもそれだけでボクの脳は固まってしまった。そして白くなった脳が反射的に応えを返す。
「は…はい!」
ボクはふしだらな考えを払い、彼女に悟られないよう目を合わせずにお風呂場へ向かった。
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