第二十話 閑話・神子サンディ(中)
「エフワードの町」なんて原作にも出てこない聞いたこともない町でしてよ。
ようは歴史にも残らない木っ端の町、虐殺の現場になろうがクレーターになろうがどうでも良い町でしたが、私様の逃亡への一助の捨て石にでもなれば歴史に名が残せる。無名無益な彼らにそんな誉れを与えてやろうと考えましてよ。
そうしてスナック感覚で私様の神子の神気で啓蒙を試みましたところ、なんとその中にその方はいらっしゃいました。
「デュオきゅん!?」
ゲーム本編と同様に清純の象徴である
(ち〇ぽ!!)
私様テンション爆上がりで悦び勇んで彼に駆け寄りましたわ!その時の私様は悦びの余り少々情欲が駄々洩れになっていたかもしれません。
そしてその悦びから「ソレ」を完全に意識から外しておりました。
死を目前にすると時が遅く感じられるといいますが、まさかそれを本日体感する羽目になるとは夢にも思いませんでしたわ。
突如として眼前に出現した、例えるなら高速で飛来する灼けた大質量の塊、隕石の如き不条理な暴威。当初はその特大の脅威が人の腕であると誤認したと感じましたが、とにかく私様に走馬灯を見せるに相応しいものでしたわ。
その圧倒的な驚異を体現するのは一本角熊ではなくその皮を被っている異質な黒い少女、流れる黒髪が美しい…まだあどけないといっても過言ではない年の彼女は刹那の時の中でその深く昏い吸い込まれるような漆黒の瞳の中に静かに私様を映しておりました。
それが人だと認識した瞬間、一気に全身に怖気が走りました。…が、それでも残酷にも動く世界を止める術はありません。ゆっくりとですが確実に流れる時の中で生き延びる為に情報を搔き集め…そうして私様の権能を用い確認せずにはいられない彼女との力の差。そして時の流れと相反するように高速に回る思考から導き出される彼我の戦力差は…
「多分」上に千二百から五千…以上。
智と力の象徴である幻獣「ドラゴン」と比肩される恐怖と絶望の象徴である神獣「ヤギ」
私様が過去ナイアルラ王国の王子以下騎士数人と共に相対し討伐した神獣「ヤギ」ですら上に百十「程度」の脅威だったといえる隔絶した絶望。
嗚呼、この人の姿を模した神話級の化物が半径十キロ以内にいる事を知っていたのならその場から全力で逃げるという選択以外は考えないですのに…その絶望は余りにも私様の傍に在りました。
周囲を自動で護っていた五層の魔法防御結界はまるで夏の薄氷のように儚く丁寧に砕かれ、そうして無限に伸びた時間の中で漆黒の瞳と目が合った気がしましたが、私様何もできぬままに振るわれた彼女の拳は無情にも最後の盾、身代わりの首飾りを粉々に砕き吹き飛ばしましたのですわ。
しばらくの浮遊感の後に私様の全身を襲う衝撃、その衝撃は建物を伝ってその上に鎮座していたであろう鐘が絶望の不協和音の叫びを奏で轟音を轟かせ落下してまいりました。
建物が崩壊し土煙が晴れた後に見た彼女の表情は、私様など塵芥かのように無関心…ですがその無関心な瞳にこの死地からか逃げ延びる事が出来るのでは…と一縷の希望を見出しましたが…私様はそれを見てしまいましたわ…!
一本角熊の少女はデュオきゅんと手を繋いでいたのですわ!しかも恋人繋ぎ!?!?白日の下、衆人環視の中で堂々とペッティングなんて…恥知らずにもほどがある!!デュオきゅんの表情もほのかに頬を染めて…なんてうらやまけしからいやらしい!!指を搦めてニギニギにしやがってからに…!まるで情欲に無関心かの様を装ってのこのムッツリ!スケベ!!いやらしいですわ!!!!
そうして私様の股座はまた盛大に濡れましたわ。
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