第十八話 魔法禁止
「ハァーーー?私様がヤギを討伐をした時にはアレだけ戦力出し渋ったクセにふざんけんじゃねーですわ!」
サンディ嬢が眼前に迫るナイアルラ国軍一万に憤っている。
私は何故に推しのマーベルくんを調教した馬鹿と一緒にナイアルラ国を相手に戦わなきゃならんのか…
しかし一万の軍とは…サンディ嬢は「神子」なんていわれるからにはそれに匹敵する力があるのだろうか?
事情をサンディ嬢からしか聞いていない私からすると王太子以下側近候補を調教し、奴隷娼館にうっぱらおうとした馬鹿をボコるには過剰戦力に思えた。
「ちょっと味見しただけですのに…私様あんまり悪くないですし、先っちょだけだった気もしますし、ああそうですわ!チートを駆使して写真技術を開発して脅せるようにしておくべきでしたわ!」
美しい銀髪をなびかせ長いまつ毛を伏せ物思いに耽る耽美な唇からクソワードがスラスラ出てきて感心する。ここまで清々しい異次元のアホだとスマートに絞首台に送りたくなるわね…
そうしているとナイアルラ国軍から馬に乗った一人の女騎士が町の入口付近にやってきた。
画になる勇壮美麗で凛々しい赤髪の女騎士だが違和感が拭えないのは露出過多なビキニアーマーを着用しているからだろう。
隠すべきところすら隠せているか怪しいその姿は正しく痴女だった。そうして痴女騎士は町に向かって美声を張り上げた。
「神子サンディに縄を打って引き渡せ!さもなくば王軍一万がこの町に攻め入るぞ!」
よし。引き渡そう。私は後方にいるユービィ町長を見ると凄い勢いで首を縦に振っている。だがそうは問屋が下ろさなかった。
洗脳町兵三百が手に手に武器を掲げ威嚇を始めた。そうしてその中心でサンディ嬢がのたまう。
「はっ!何を仰ってますの?この町は私様と一蓮托生ですわ!私様が貴女方の汚い手によって捕まるのはこの町の住人全てが絶死の抵抗をし、たっぷりとナイアルラの民の死体を山と築いた後ですわ!!」
洗脳町兵が鬨の声を上げる。
ユービィ町長が苦い顔でメチャクチャ何か言いたそうだが私はコミュ障なので黙っている。
「交渉は決裂か、降伏をする時は白旗を掲げろ」
そう言い残して痴女騎士は戻って行った。
前から見ても不安になる装備だったが、その背中は全裸にしか見えなかった。
一万の軍隊の最前列には槍を持ち馬に乗った騎士?が並んでいた。この距離でも分かる肌色の多さからビキニアーマーの女騎士集団だというのが分かる。馬鹿しかいないのかこの世界は。
ジャーン!ジャーン!ジャーン!
銅鑼と思しき音が場にけたたましく響く。ホントなんなんだこの世界…
そうして彼女らは雄々しく…いや女々しく?吶喊してきた。横一列に並び走る痴女騎兵共が雄叫び?雌叫びを上げて町に向かって騒然と襲いかかってくる。頭バグりそう。
そうして突撃してくる騎兵に向かってサンディ嬢が丁寧に魔法の詠唱を始めた。え!?魔法?魔法なの!?
「天よ」「神霊よ」「光を」「力を」「我が手に」「顕現せよ」「我が敵を挫け」「迸れ」「収束せよ」「穿て」「貫け」「神の槍よ」
「
白が似合う光の神子といっても過言ではない彼女の掌から収束した七条の光の奔流が放たれる。質量すら感じさせる光線に充てられた騎兵はあるものは落馬し転げ回り、あるものはそれを盾で防いだ。
だが金属製であろうその盾も光線の熱量からか一部融解しているのが見て取れた。すごい…魔法すっごい!
私は興奮していた、というのも私はこの世界に来て初めてまともな魔法というものを見たのだ。
実は魔法っぽい現象にはお目にかかった事はある。魔物の使う魔法的現象は目から光線を出したり、角に浮かぶ魔法陣から誘導するレーザーを放ったり、切り落とした腕や触手がみるみるうちに生えてくる…などなどそれは魔物の固有の魔法的現象であって、人が詠唱をもって魔法を行使する姿を見るのは初めてだった。私は戦場だというのにその神秘性に心ときめいてしまっていた。
「か…かっこよ…」
魔物の特殊攻撃の中には私でもマネしたら出来たものもあった。ビームでろでろー!とか念じたり、腕を切り落とされて腕はえろー!とかマネをしたら出来たりもした。
だがこれは同じ人間が言葉を紡いで成す技術、魔法だ!私だってきっとやってやれない事はないだろう!
そんな事を考えているとサンディの魔法の照射が終わった。照射時間がもっと長ければ完封も出来るのではないかと思うが、きっと魔力とかを消費して限界なのだろう。
三十騎ほど騎兵を叩き落としはしたが、まだ五十騎ほどが盾を犠牲にしつつも女々しく吶喊してきている。
そうして私も彼女の真似をしてみようみまねビームを撃とうと試みる事にした。
えーと…なんか詠唱を…確か手のひらの前に突き出して…
「神よ」「我が手に」「力を」「吸収せよ?」「…収束せよ」「……収束…せよ」
勢いで唱え始めたは良いのだが少々語彙が足りない感じがする。そうして残念な事に私の手のひらの前には彼女のような純白の輝きを持つ光の塊ではなく雷を纏う闇の塊のようなモノが生まれた。
そして何より熱い、めっちゃ熱い。自慢じゃないが私はかなり炎熱耐性結構高いはずなのに熱い。
「あっっっっっっつああああ!?!?」
私はそのアツアツの闇色の玉を迫りくる騎兵に向かって投擲する。だがそれは大暴投、騎兵隊の頭上を悠々と越え、敵軍すら越え場外ホームランコースで森の奥に吸い込まれていった。
そうして着弾した瞬間、辺りの光が吸収され一帯がまるで夜のように暗くなった。遅れて振動が伝わる、しかし不自然な事にそれでいて全くの無音だった。大地の震える音も馬の蹄の音も兵士の雌叫びも、なにもかもが吸収された。そうして更には周りの樹を土を丘を馬を人を、無差別に吸い込むように引き込まれた。それなりに距離が離れていたこちらに向かってきている騎兵すらも落馬し…そして轟音と共に大爆発が起きた。
「ちょぉおおおおおお!?!?」
サンディ嬢が悲鳴にならない悲鳴を上げるがプロ?なのか即座に魔法の詠唱を始めた。
「精霊よ!」「我らを」「護り給え!」
「
収束した後の爆風は落馬した騎兵を巻き込み、町の防壁をも吹き飛ばした。
急いでサンディ嬢が魔法の盾っぽいものを作ってなかったら大惨事になってたかもしれない。
爆発の熱量は上へ上へと昇り、やがて空気の層に阻まれたのか雄大に横へ横へと広がる。
それは光を吸収する魔法で出来た黒いキノコ雲だった。
「はーーっはーーっはーーっはーー…」
サンディ嬢が噴き出る汗を拭い、荒い息を吐いていこちらを睨んでいる。
なんか悪い事したな…と思ったけど私の推しだったマーベルくんを世界一美しい花瓶とかいうわけのわからないものにした挙句奴隷娼館にうっぱらおうとした馬鹿に謝るのもシャクなのでコミュ障の風格で気付かぬフリをして黙っておく事にした。
でも魔法こっわ…
暫く魔法を使うの止めとこ…
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