第十七話 国軍一万

私達の眼前にはナイアルラ国軍約一万が轡を並べていた。


「ハァー…?」


対峙するこちらエフワードの町は町民兵が三百。その兵も皆サンディ嬢の魔法?呪い?にかかって何処か目の焦点があっていない。トロンとした目とよだれを垂らす美少女軍団と考えればエロく見えないことはない。だが一万の軍隊を相手にするには少々戦力不足と感じた。


私は何故かサンディ嬢と共にそんな戦場の最前線に立っていた。


◇ ◇ ◇


目の前にはメガネ美人が土下座をして頭を床にこすりつけていた。エフワードの町の町長ユービィさんだ。何かうっかり変な性癖に目覚めそうな感覚を覚える。


「何卒!何卒この町をお救いください!!」


絶望をその綺麗な顔に貼り付けて町の存続を乞い願っている。

正直このサンディ嬢をナイアルラ国に引き渡せば解決する気がするが、そうはいかないクソのような理由があった。現在この町の住人三百名ばかり彼女の洗脳魔法にかかっているのだ。

ようするに町長さんは人質を解放してナイアルラ国に投降してくれと言っているのだが、このビッチは大人しく投降をするつもりなど毛ほども無いようだ。


「ハァ?何を寝ぼけた事をおっしゃってますの?そんなのムリムリのかたつむりに決まってますわ」


私がサンディ嬢に腹パンすれば解決するとは思うがそこまで積極的にこの町を守る恩も義理もない。私とデュオはただの旅人でたまたまこの町に来ただけなのだ。

だがもしこの町長さんと上手く交渉すれば何か利益になるかもしれない…が、持ち前のコミュ障を発症して知らない人達の会話に入ろうとも思えず黙って見守るつもりだった。


「そんな事するくらいでしたらこの三百人で町の男を一人残らず捕らえてギリギリまでブチ犯し尽くしますわ!」


サンディ嬢は頭のおかしさだけは安定して極まっていた。これだけ美しい容姿を持っていながらどうしてそんな蛮行に走ろうとするのか、ほとほと理解出来ない。


「…ならアンタ町の人を集めて何するつもりだったのよ?」


私は当然の疑問を口にしたつもりだったが彼女は美しい声色でクソのような言葉を吐いた。


「町の人には踏ん張って頂きまして私様は戦術的に王都に助けを求めに向かう予定でしたわ!」


うーわ、コイツ町の人を洗脳して盾にした挙句逃げるつもりだったのか…邪悪が過ぎる。私がドン引きしているとユービィ町長の「私達」を見る目が剣呑なものになっている事に気が付いた。えっ?ちょっとまって、私をこんなクズと一緒にしないでもらえます?


「でも大丈夫ですわ!彼女さえいればナイアルラの軍など木っ端も同然ですわ!」


だが突然彼女はワケわからん自信をもって私をプッシュしてきた。コイツ私を盾にする気か?正直私はただの旅人で、さっきこのアホをぶん殴って町民を盾にして逃げる計画を挫いただけで感謝されても良いと思うんだけど?


「いや…私関係ないし…」


コミュ障気味なので言葉少なくやや控え目な私の本音だった。私はサンディをぶちのめした縁で何故かこの席に同席はしていたがとっととデュオを連れて逃げるべきだろう。

だがバックレようとする私に対してユービィ町長の目力が強くなる。食い気味にこちらをガン見してくる。メガネ美人で出来る女っぽい町長のマックス目力はコミュ障の私には少々刺激が強かった。そっと目を逸らす。いや、本当に私はただの旅人でこのクズとは無関係なんだけど…


そうしてそんな私に対してサンディ嬢は優しく諭すように言った。


「私様これでも人を見る目がありましてよ…大丈夫、貴女は出来る子よ!」


何の根拠があるのか分からないが厄介な事にコイツ顔も良いが声も良かった。その声で優しく…私を認めてくれるような事を言われると…二年間森の中で一人寂しく生きてきた私の心に刺さってしまった…この女がクズである事を頭では解っていてもそれならちょっとだけやってみようか…?という気になってしまっていた。私も大概チョロいな…そして美人は得だと思う。


(エリカチャン!?浮気!?浮気なの!?アタシというものがありながら!一夜の過ちなの!?姦通罪なの!?)


妖精さんが怒涛の浮気をなじる宣言をしてくる。心外だ。あとこのそんじょそこらで男を襲ってそうな蛮族ワールドに姦通罪なんて概念がある事に驚いた。


(でも仕方ないからワタシは寛大なココロで許してあげちゃうワ!貸し一つヨ!!)


どうやら妖精さんはどうでもよい心の寛大さを見せる事で私に恩を売った気でいるようだ。

もちろん私は妖精さんに心の中指で天を衝いた。




そうして私達の眼前にはナイアルラ国軍約一万が轡を並べていた。

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