第十五話 エフワードの町
私達は街道の横道を進みながら稀に出てくる人さらいをボコりつつエフワードの町までやってきた。
私がこの町を目指したのは文明を求めての事である。町で沢山の人と交流をしアルバイトのようなものをやったり、たまには元の世界の進んだ知識を使って人助けや商品開発をしたりして…そうしてあわよくば日本に戻る手段がないかを探したり研究したり…ふんわりとそんな事を考えていた。
やりたい事はふんわりとはしているが、やりたくない事は森で魔物をボコってしりふき紙に困りながら言葉を交わす者もなく一人寂しく朽ちる、そんな人生は嫌だった。そういうわけで私は町を目指して来たのだ。
だが正直なところ里や街道を数日歩いてみてこの世界には
「エフワードの町」
町の名前を読むデュオ。既知の情報を話したのではない。彼は門に書かれている文字を読んでそう言葉に出したのだ。
それは私の目からすると前の世界の中東の文字のような…それよりもう少し崩した感じの…模様のようなものが並んでいた。
あのへにょへにょ模様が文字?それは文字のような記号が確かに看板に書いてある…あるハズなのだが私には文字ではなく何かの装飾か…私の頭では記号としてしか認識できなかった。頭から血が引いていくのを感じた。
「デュオ……あれが…読めるの?」
「読めますよ?」
デュオは事も無げに言った。衝撃だった。
私はこの異世界で言葉は通じるのに文字は読めないようだ…考えたら言葉が通じるのも相当に不可思議だが…ともかく文字は無理なようだ。
どうやら門には「エフワードの町」と書かれているようだが文字の数を数えても三文字か…四文字にしか見えなかった。表音文字ではないのかもしれない…
そしてなにより名前もないという里が出身のデュオが文字を読めて……私は読めない…この事実が私の文明人としての尊厳にひびを入れた。
「デュオ……あの里の人でどれくらいの人が文字を読めるのかしら…?」
…私は何を問うているのか?きっと二度と会わないであろう彼女らと比べる事の無意味さ、知性なく理性が乏しい彼女たちより優れていると思い込みたいだけの頭の悪い質問を彼に投げてしまっていた。
そんな私の内心の葛藤を余所にデュオは軽い調子で答えてくれた。
「大体の人は読めますけど書ける人は半分くらいです」
この答えに私は文明人…いや文明人と自称する私にとって敗北感しかなかった。
この世界にとって文字を読むというのは一般的な教養だった事に衝撃を覚え…そうしてその一般的な教養もない私は文明人ではなく正しく蛮族である事をわからせられたのだった…
「あぐ…!」
思わず変な声が漏れてしまった…知識人とは遠い場所にいる事を自覚して眩暈がする。私の目から光が失われていくのを感じる。
私は皆が言うようにバーバリアンだった…?いや、そんな事は絶対に認められない…認めたくない…
(エリカチャン、文字なんて所詮飾りヨ!そんなもので貴女の価値は減ったりしないワ!)
…なんだか妖精さんが珍しく私にとって都合の良い事を言ってくれている気がする。
耳障りの良い優しさ…けれど今の私の心にどろりとした優しさがぬるりと染み入ってくる…
(でもワタシは読み書き出来るから舎妹にしてあげてもいいわヨ?)
私は色を失った瞳で妖精さんに乙女心に中指を突き立てた。
そうしてやってきたエフワードの町は混乱しているようだった。
お祭り騒ぎのような喧騒ではなく慌てて家財道具を持って出ていく人…避難か何をしているような印象を受けた。
「…この町っていつもこんな賑わいなの?」
私はデュオに尋ねたがなんとも頼りない答えが返ってきた。
「いえ、ボクも初めて町に来たので驚きました」
呑気なものである。
賑わいの理由が知りたいがコミュ障気味なので知らない人に話しかける気にはなれなかった。話かけるならば門番かと思って軽く探してはみたももの、それもいないようなので私達はエフワードの町にそのまま入る事にした。村にも門番くらいいたのに…何か緊急事態でも起きているのだろうか?
町の中心には大きな広場があり、そこに人が集まっていた。
右を見ても左を見ても美形ばかりである。ホントなんなのこの世界?
だがその中心にあるひな壇にはひと際目立つ女が立っていた。町の人の顔面偏差値は高い、高いのだがそれとは隔絶した美しさだった。
薄い白いベールの下には太陽の光を受けて輝く長い銀の髪、伏せられたまつ毛は遠くからでも確認できるほどに長く、白く透き通る肌は女神を模した彫像のようだった。
胸は大きく膨らみがあるのにも関わらず、手足は細く腰のくびれは胸の大きさを一層強調している。
嫉妬も出来ない程に洗練されたプロポーション、それは神の奇跡か女神そのものか…同じ女から見てもつい目に留めてしまう、そんなカリスマを放つ女だった。
この世界の「聖女」という単語は「勇者」とか「武を極めた者」みたいな使われ方をするが、彼女の纏う雰囲気は私が元の世界のイメージからくる「聖女」そのものであった。
そうして私はこの
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