第十二話 閑話・デュオと首輪と手つなぎ

ボクはデュオ


バーバリアンというのは男を略奪して犯す事しか考えない文明外の蛮族というイメージの総称みたいなものだ。

そして彼女と数日連れ添った結果、エリカは少し距離感がおかしいが里の誰よりも獣性を感じさせない淑女であると思うに至った。そんな彼女に対して昂ぶりを感じるのは本当に失礼だと思っていた。

思っていたのだ。


森の夜は寒い。寒さを凌ぐ為に彼女の衣装である大きな一本角熊ユニベアーの毛皮に包まって寝るのが当たり前になっていた。夜の寒さは命にも関わる、彼女の好意を無下になど到底出来ないのだが…その…どうしても彼女と密着してしまう。

彼女の吐息がかかる距離では否が応でも意識してしまう。

濡れ羽色の髪に薄い唇、流れるようなまつ毛、バーバリアンとは思えぬ白い肌。

無防備な彼女の寝姿、夜闇の中でも伏せられた睫毛まで克明に感じ取れる距離だ。もう距離が近い、近すぎる…


里を出る時にエリカに言われた言葉がある。


「なるべく我慢しなさい!」


そう言われ、当然その言葉を守るつもりでいたのだが…それなのに彼女は距離をとにかく詰めてくる。少しボクより年上であろう彼女を意識しないはずがない。

そういうわけでここ数日…その…ボクは独りで発散する事も出来ず悶々としていた。

ボクを狂わす為にわざとやっているのではないのかとも疑ってしまう。

お陰で寝不足気味だ。



当初彼女はボクの主人らしくボクの首輪のリードを引いて歩いていた。このリードの距離こそが紳士淑女の距離のなのだが……彼女はそもそもこの首輪とリードが気に食わないようだった。

文明外の蛮族である彼女にはこの首輪がどういうものなのか理解できないようで、気が付くと視線が「首輪を外せ」とばかりに目が口程に物を言っている事がある。

ボクはその度に拒否をするのだが、厄介な事に彼女には悪意がない。信じられないことに里の皆のようにいやらしい意図が全くないのだ。

ただ文明に対して無知と無理解からくるものであって、彼女に本当の紳士と淑女の文化を理解してもらうには少し時間がかかるかもしれない。


だがそんな彼女がまた信じられない事をする。ボクのリードを持つのがそんなに嫌なのかそれを手放して渡してきた。このリードを持つ事がボクの所有権を表すハズなのに…ボクは何か彼女の気に障る事をしてしまったのだろうかと一瞬悩んだが、彼女はなんと手を繋いできたのだ!

いくらなんでもこのような暴挙があるだろうか!?

確かに首輪を外してはいないが…ボクはもう一応大人という年齢だというのに直接的な肉体接触をするなんて…

指と指とが絡み彼女との距離が近い、心臓の鼓動は跳ね上がり手汗が出る。鼓動も手汗も手のひらから彼女に全て伝わってしまうだろう。

だが当の彼女はバーバリアンだからなのか、それとも純粋に無垢だからなのか?悪意も下心もなく彼女は「何がおかしいの?」といった風に表情を崩さなかった。ボクの前を颯爽と歩く彼女の黒い流れるような髪から覗く白い肌、そして垣間見える凛とした表情からは知性すら感じる…なのにこの暴挙!

彼女との指と指とを絡めた手の繋ぎ方は想像以上にボクの心をかき乱す。

手のひらの柔らかい感触に白魚のような指の細さ…それに意識をしてしまい…ここ数日発散出来ていないからか自然と歩き難くなってしまう。

性癖が歪んでしまいそうだ…


彼女もボクの異変に気付いたようで気を遣ってくれたのか休憩をすすめられた。

そうして腰を下ろし、休みながらも彼女はボクの手を離さない。ボクの左手は彼女の手と指の感触と動きを敏感に感じてしまっていた。でも心の何処かで離してほしくないとも思っていたが、腰を下ろして休むだけでは何も解決しないのはわかっていた。

トイレに行くと言うとやっと彼女はボクを解放してくれた。


正直もう頭がおかしくなりそうだった。

メリッサ様が言っていた体調管理は無垢な彼女には絶対に気付かれないようにしないといけない!

絶対に……だ!

ボクは走った。



そうして…いつもより大変だった。



帰ってくるとエリカの様子がなんだか挙動不審になっていてよそよそしかった。

なんだろう?バーバリアン特有の情緒不安定かな?

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