第十話 エンカウント
森を掻き分け三日目にして存在が噂されていた街道というものに出た。ちょっと都市?里?伝説かと疑ってしまっていた。
私が全力で走れば数時間の距離だったとは思うが今はデュオを連れていての森歩きだ。一日で進める距離なんて数キロ程度だ。
ただ彼を連れていなかったら気付かずに通り過ぎていたかもしれない。なんというか「ああ、いわれてみれば獣道ではないな?」という程度の人や動物に踏み固められたつつましい道だった。だがこの道には間違いなく文明の痕跡があった。
問題はこの街道に思ったより人が多かった事だ。人通りではなく人が多かった。なんと数時間毎にエンカウントする。まだ日は中天、なのに本日三回目のエンカウントだ。
人との交流を求めてやまなかった二年間だが街道をちょっと歩くだけでこんなに湧くものなのかと驚きを隠せない。
「ヒャッハー!」「ここは通さねぇぜぇ~!」
目の前にいるのはダチョウのような大きな鳥?に騎乗し、肩パッドをつけた際どい格好の五人の世紀末お嬢様盗賊。それぞれ色の違う服を身に着けており、色とデザインとでキャラ付けまでしている。全体的に被覆率が低い、水に入るでもなく誰に見せるでもなくファッションとしてやっているのだろうか?
彼女らは謎の奇声を上げてこちらを威嚇?している。もちろん皆美形、頭痛い。
「ヘイヘイ彼女ー!カワイイ彼氏連れてんじゃねーか!」
「坊やーそんな女よりアタシ達と遊ぼうぜー?」
「グヘヘ…彼氏―可愛いねー?さや剥いてあげようかー?」
何言ってんだこの女共…彼女らは下卑た高笑いをして私たちを取り囲む。言動は下等も下等なのに皆アイドルみたいな可憐な顔をしていて頭がバグる。ホントなんなの…
彼女らの視線はもっぱらデュオ…更に言うとデュオの体の一部分に固定されていて言葉の意味が分からなくても欲望の方向性だけは理解できた。頭おかしいんか?性欲の塊か?この世界に羞恥心とか恥じらいの概念はないのか?
彼女らと同じ女として生まれてきている事に恥ずかしさと後悔の念すら感じる。
当然ロックオンされたデュオは怯えている。
しかもどうも先にぼてくりまわした盗賊お嬢様共とは無関係のようでお礼参りとかではない、純粋な略奪目的のようだ。
先の盗賊とそう距離も離れていなというのにナワバリとかどうなってんの?盗賊はリスポーンでもするのかな?それくらいのゲーム感覚で盗賊が湧く。正直ゲームである事を願う、そうでないなら野蛮が過ぎる、狂ってる。
メリッサが言った通り里は治安が良かったという言葉が真実だったのだと痛感した。
そうして先の五人の
「身体をみたいわ!その子の裸を見せて頂戴!」
「姐さん!」「ヒュ~淑女~!」
周りの
(よくエリカチャンが中指立ててファック!って叫んでいるのと同じヨ!)
ああ、そうなんですね。でも私はそんな事叫んでいませんし中指を立てるのも心の中だけですからね?私と彼女を同列に考えないでください妖精さん。
「へっへっへ…姐さんがああおっしゃってるんだよ?」
「観念しなさい、坊や?」
「蕾見せてみぃやぁ~?」
馬鹿かな?どれだけ頭が悪かったらそんな要求が通ると思えるのか本当に謎だ。
私はデュオに近づいて来たお嬢様を三人ほどワンパンでぶっ飛ばした。これで残りは半分。
この蛮族世界であっても人が野球のボールのように吹き飛ぶのを見る事は稀なようで野盗共は明らかに浮足立っていた。
「な…この破廉恥なバーバリアンめ!何をする!?」
今までの言動の何処に私に対して文化的優位性があったのか一切理解出来ないのだが、とりあえず私が見下されているのは理解した。
いや本当にどうして私を破廉恥だと思った?まぁクマの毛皮は少々アンタッチャブルが過ぎる感じはするが、なにせ着替える服がない。
転がってるアイドルの服をひっぺがしてもいいかもしれないが令和の文明人の私にはそれもちょっと気が引ける。
…というか他人の服に袖を通すのも気が引けるがボンテージファッションで肌の露出多すぎる。どうしてハイレグTバックにお気持ち程度にヒラヒラがついてるような服をチョイスするのか。夜も温かいしこのクマの毛皮の方がマシと思える。決して体型が合わないとかが理由じゃない。
そうして無言で
「ごめんなさい!!勘違いだったわ!許してちょうだい!!」
一瞬気を緩めてしまうすなお私、彼女の言葉を吟味する為に動きが止まってしまう。何が勘違いだったというのだろうか?
だが彼女にとってそれは反撃の為の大きな隙だった。太い釘バット?こん棒?が鋭く私の顔にカウンター気味に刺さった。
私はそれをあえて避けずに顔で受け止めるが…一体彼女の細い腕の何処からこんな膂力が生まれたのだろう?釘こん棒は私の鼻っ面に当たり…そして粉々に砕けていく。いや、こん棒を砕くパワーってなんなの!?コレ普通に当たったら危なくね?
そうして釘こん棒は彼女の手に収まっている柄の部分だけになり、腕に残っているであろう痺れと共にその動きを完全に止めていた。
彼女の顔色は明らかに悪くなっていた。
「も、申し訳ございませんでしたーーー!!」
彼女は綺麗な土下座をしてきた、こっちにもあるんだ土下座文化…美少女から繰り出される頭を地面にこすりつけての全力土下座は気まずいの一言だが、久々の文化的な行為に私は気を良くし、謝ったからよしとした。
私は見開きで廬山昇竜拳をお見舞いした。
綺麗な彼女は綺麗な星になった。
一発は一発だからね!
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