第九話 ナデナデ

私とデュオは森で夜を明かした。一人というのは気楽であったと思い知る。だが結局無いものねだりなのだ、一人ぼっちは寂しいし話し相手は欲しいからな…


(寂しい夜の慰みにズット付き合ってたワタシをワスレナイデ!エリカチャン!!)


誤解を生むような発言は止めて頂けませんか妖精さん?名誉棄損で訴訟案件ですよ?


現在私達は夜の寒さから身を守る為、私が纏う大きなクマの毛皮に包まれ寄り添うように寝ている。この寒空の下で寝ると軽装のデュオは命の危険があったからだ。


このクマの毛皮を彼に貸せば良い気もするが、これは一応一張羅なワケで…これを脱いでしまうと私はボロボロの元の世界のブラウスとクマ腰巻、そしてクマ靴という女として非常に心許ない姿になってしまうのだ。

一応私は炎熱耐性やら氷結寒冷耐性とかがナチュラルに高いハズなので夜の寒さ程度では風邪ひかないと思うのだが、他人に一張羅を貸して自分はあられもない姿で寒空の下寝る…それは何か違う気がして結局デュオと一緒にこのクマ毛皮に包まる事になったのだ。


うら若き乙女()としては美少年が近くにいる事に気が気ではなかった。近いとかそういうレベルではない、呼吸が顔にかかる、心臓の音がうるさい。

だが暫くするとすぐに小さな寝息を立てるのが聞こえてきた。私にとって森の散策など日常でデュオ程度の重さの荷を担えて往復二十キロとか大した運動にもならない、だが彼は慣れない事をして疲れていたのだろう。

少し安心したが私は一睡も出来なかった…と見せかけていつのまにか寝てしまっていた。



そうしていつもの通り、日の出前に目が覚めた。だが彼はまだ疲れているであろう起きる気配がない。まだ空が白み始めたばかりという時間に布団代わりにしているクマの毛皮をひっぺがえして彼を起こすのも忍びない。


「母様…」


彼は夢の中で母親を見ているようだ。

寝ている間にデュオは私の腕にすがってきていたが…そんなに嫌な感じではない。むしろ平坦な薄い胸ですまない。

里で見かけた同年齢位だと思しき蛮族お嬢様共でも私ほど貧相なカラダの娘はいなかった。それこそ明らかに小学生位の女の子でないと勝負にならなかった…

この世界の女性は顔も良いが皆スタイルも良い。おかしいでしょこの世界…

メリッサみたいな筋肉だるまであっても出るところは出ていたし細いところは細かった。里の聖女?であったという彼の母親もきっとそのような恵体であったであろうことは想像に難くない。

何食ったらあんなスタイル良くなるんだろう…


私が少し発育が悪いのには心当たりがある。

私のテリトリー内に魔物が湧き続ける穴が幾つかあって迷惑だから潰したのだ。少し大きな蜂の巣駆除の感覚である…いや前の世界では素手で蜂の巣を駆除しようと思わなかっただろうが…

とにかくその穴の奥には魔物の発生源になっているであろう悪く言えば瘴気の塊、良く言えば経験値の塊のようなものがあり、何度か取り込んだのだ。

それを取り込めば身体能力の大幅な向上があると知っていたので喜んで取り込んでしまった。み健康上に問題は無いとタカをくくっていたら副作用か罠なのか体の代謝が落ちた…というか固定化に近いコトが起きて体の成長が遅くなっているみたいなのだ。体の変調が加齢や老化だったら気付けたかもしれないが、ともかくこの罠に気付くのが遅れてしまった。

まぁヘアサロンのないこの森の奥で髪が伸び難くなっているのは助かる。でないと今頃もっさもさだったかもしれない。

そういうわけで私の体はこの世界に来てから大して変わっていない…ようは歳の割に少々発育がよろしくない。

この平坦ボディは私の元いた世界の民族性とはいえ…私はもう少し、もう少し時間があれば…もっとぼんきゅっぼんとワガママしていたハズなのだ…ホントこの世界の人何食ってるんだろ…私は悪くないでしょ。


(そんな幼児体系のエリカチャン大好きヨ!!)


ありがとう妖精さん、私を元気づけてくれているのか貶しているのか判断が難しいところね。


話が逸れたがデュオは小学四年か五年か…高く見ても中学一年生くらいの幼さの残る美少年である。それが私にくっついて夢の中で母親の温もりを求めている。

これはもうお姉さんとして…というか母親として?母性全開でナデナデしたくなる。

そういうわけでこの美少年の少しくせ毛のある金色の髪の毛を手で梳く。何故だろう?この蛮族世界に風呂なんて高尚な文化があるとも思えないのにデュオの髪はさらりとしていて髪の一本一本がはらりと手から零れる。これが異世界の美少年の持つスキルか何かだろうかと考えながら調子に乗って頭をナデナデしているとデュオの瞳が開いているのに気がついた。彼はまだ微睡んでいるようで目はとろんとさせている。

そうして頭を撫でているのが私だと気が付くとその翠の目を大きく見開いて顔を真っ赤にして言った。


「あ…あの……エリカさま…エリカ?」


彼が戸惑うのも仕方がない、自らが母と思って抱きついていたのはなんと見知らぬ平坦女で更に頭をなでられていたら戸惑いもひとしおというものだ。

もし私が美少女であったなら今のこの状況はギャルゲのちょっとしたご褒美シーンかもしれないが、ああ残念!私だよ!!


◇ ◇ ◇


デュオは考える。


子供の頃、年上の女の子から頭をなでられたと母様が知り、


「ウチの息子にマーキングするな!この雌犬が!!」


と里の女の子をボコボコにしていたのを思い出す。

確かにあの時の彼女はいやらしい目つきでボクを見ながら、息づかいも荒く、なで方もどこか性的であった。

そもそも人目のつかない場所に呼び込んで頭をなでたのには彼女にも人に見られると不味い事をしているという認識があったのだろう。

それ以来頭をなでるという行為は破廉恥なものだと思っていたが、エリカのそれは違った。彼女の行為には文明を持たないバーバリアンだからなのか、里の女と違いそのような邪念も下心も感じられなかった。

まるで聖母が慈しむような…慈愛に満ちた行為だった。

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