第七話 逃避行
「ちぇえすとおおおおおおおお!」
森の中にお嬢様の雌叫びがこだまする。
里の中は法の支配する「治安の良い場所」であり里の外に法はない。
どいつもこいつもアイドル並みに顔が良いのに全力で未開の蛮族ムーブかましてくるのなんなの?
本来なら深い森の中で穏やかな文明を持ち
だが慣れ親しんだ森ならまだしもここは土地勘の無い場所、その上こちらは少年を一人抱えて木々、枝葉を気にしつつ無理をしない程度の速度しか出せないでいる。
対して雌叫びをあげて追ってくるお嬢様方も一応デュオを怪我させてしまうのは本意ではないのか、あまり弓矢等投擲武器は使ってこない。
逃げ切る事自体はそう難しくはないな…と考えたその時、私の眼前に突如として突然高さ五十メートル程度の崖が出現した。
どうやら私はここにまんまと誘導されてしまったようだ。三人程度の追手お嬢様共も後続が続々と到着し、逃げれぬよう包囲の輪を厚くしていく。
蛮族なのに知恵があって驚いた。
「追い込んだわ!!」「殺せ!!」「女は多頭蛇の餌よ!男はまわしてから餌よ!!」「いや、あたしが飼うわ!!」「身体をみたいわ!その子の裸を見せて頂戴!」
その小さな可愛らしい口からは知能の低い低劣発言が飛び出す無駄に顔だけは良い蛮族お嬢様共。下卑た笑みに舌なめずりをする姿も可愛いから脳がバグる。
あとデュオを取り返しに来たのではないだろうか?「殺せ!!」とか穏やかじゃない、こいつ等何の為に私達を追ってきた…?
そうして私もこの程度の高さの崖なら飛んでしまうのだが、今はデュオを抱えている。流石に落下の衝撃を一切彼に伝えずにこの高さを飛び降りれる気がしない。
私が異世界の森で培った
そんな事を思っていると初手でいきなり弓矢が五本飛んできた。
人質のつもりはないがこちらにはデュオがいるというのに…いとも簡単に目的を見失った彼女らに問いたい、本当に何の為に私達を追ってきた……?
だがそんな程度では、魔物のパワースポットをいくつか取り込んだ私の体にカスリ傷一つとしてつける事は出来ない…はず。
人間相手に試した事は余りないのだが多分わりと私は強いはずなのだ。たぶん。
(今ヨ!パワーをメテオに!!)
妖精さんは今日も良く分からない事を仰っている。
私は弓矢を毛皮で軽く弾き、そうして片腕を振るい後方の弓矢をつがえるお嬢様方に意識を集中させる。メテ…いや脳裏に描くのは白い変な馬に食らった魔法っぽい攻撃「落雷」だ。意識し瞬きの後に閃光と共に轟音、威力は私が食らった雷の百分の一程度のものだがそれでも弓持ちお嬢様方はその場に倒れ伏した。
うーん加減が難しい。
「なに!?」「魔法!?」「面妖な!」「しゃらくさい!」「やっちまえ!!」「晒し首にしろ!!!」
少し雷の派手な光と音でお嬢様方の戦意を削ぐつもりだったが、どうやらまだまだ戦意旺盛のようだ。見よう見まねで使ってみたがこの魔法もそう珍しくはないのだろう。
そうしてお嬢様方の戦意と蛮性は変わらず旺盛で槍や手斧を手に手に振りかぶり襲い掛かってきた。
「キエエエエエエエエエエ!!!」
彼女達のミニスカから伸びる健康的な白く美しく長い脚は魅力的の一言だ。つい目が流れてしまう、女としてスペックで確実に負けていると感じる。そうして繰り出されるのは蛮性味溢れる一撃必殺の剣を大上段から斬りかかってくる。色気を蛮性が掻き消して脳をバグらせる。
それでも一応はデュオの里のお嬢様だ、顔見知りもいるだろう。…顔見知りにこんな事するのか…と私は眉を顰めるが、降りかかる火の粉は手加減して払っておいた。丁寧に払っても二十秒もかからない。
みねうちだ…全員生きている……多分。
周囲に他の追手がいないかを確認して私達はその場を後にした。
「エリカ様…その傷…」
十人のお嬢様の一斉攻撃を前に私は少しかすり傷を負っていたようだ。戦闘中は気分が高揚してこういう細かい傷を無視してしまう傾向にある。
「ああ、この程度の傷そのうち治るわ」
私の言葉を遮り彼は私を引き留め、傷に手をかざした。
「大いなる命の流れよ 我が祈りを聞き届け其の傷を癒したまえ
私の傷を何かが優しく温かく包んでいくのが分かる。
え、魔法!?
驚いた事に傷を負っているのに治るのが気持ち良いとすら感じてしまう。これがきっと正しい「回復魔法」なのだろう。
私はこの程度の傷に自分で回復魔法?を使うのは面倒なので意図的に放置、無視をしていた。
私の回復魔法?では傷からうぞうぞと傷口周りの筋肉と皮膚が一斉に蠢き、痛くて痒くなる不快な感覚が長時間残るのだ。
前に腕がもげた時に腕を生やす回復魔法?で治した事がある。具体的にはアニメで緑色の人が頑張ったら生えてたのを思い出して真似してみた。正直腕が生えてくる感覚はめっちゃ痛いし気持ち悪いし不快だった。生えた後も暫く強烈な違和感が残ってしまいこのテの回復魔法?は出来るだけやりたくなかった。だが一応回復の実績もあり、最悪の事態は避けられるという自信があったのだが…これは凄い!痛くないし…なんだか妙な安心感すら覚えた。
「あ、ありがとう…」
困惑する私はお礼を言うとデュオはニッコリと素敵な笑顔を返してきた。眩しすぎて直視できない。なんだか顔が熱くなりつい顔を背けてしまった。
美少年な上にこんな特技があるから里の連中はデュオを取り返しに来たのかしら?そう考えて先ほどのお嬢様らの言葉を思い返す。
「追い込んだわ!!」「殺せ!!」「女は多頭蛇の餌よ!男はまわしてから餌よ!!」「いや、あたしが飼うわ!!」「身体をみたいわ!その子の裸を見せて頂戴!」
うーん…やはりただの
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