第六話 閑話・デュオと破廉恥な一本角熊

ボクの名前はデュオ。

この世界に生を受けて二十年になる。大体この位の歳になると精通が始まり、里では大人とみなされる。

ボクの母様はマリー、里の長である。母様は近隣の里を含めても頭一つ抜けた武威を誇る聖女だった。美しく賢く、そして強い。ボクの自慢の母様だった。

そんな聖女の子だからかボクは男であっても里の皆には良くしてもらっていた。特に母様の側付きだったコニー様とキトナ様は実の姉のような存在だった。


そんな平和な日常は突然終わりを告げた、母様が死んだのだ。

グランドキャリアーと呼ばれる百年程前に目撃されたという二十対の脚を持ち熱線を吐く伝説の魔物と女々しくも一人で戦い、聖女らしく相打ったのだと聞いた。


葬儀には近隣の里の者までもがやってきて母様がいかに慕われていたのかを感じさせるものだった…のだが、その中にはボクを値踏みするような目もある事には気が付いていた。

その後、近隣の里からは母様がいなくなったボクの事を守ってやると連日使いがやってきた。いまや母様の後を継ぎ、里で一番の聖女となったメリッサ様はその対応に追われていたようだった。


だが近隣の者との交渉は上手くまとまらず、里は無頼姦共に囲まれあわや戦となった時、メリッサ様は里の門扉を開け放ちボクの身柄を賭けて武闘会の開催を宣誓したのだった。

これによって当面の戦を回避する事が出来た。そうしてこれは更なるメリッサ様の計略の内であった。対戦者の勝ち上がり先を誘導し、余所の里の実力者を潰し合わせ効率良く排除していった。

それに気が付いた余所者が里の者を殺したが、乱闘に見せかけその者も排除した。全てはメリッサの掌の上のように思えた。


一見順調に進んだ武闘会だったが、その中に何故か近隣の里でも見かけない出所不明のバーバリアンの姫が混じっていた。

有名な伝説にある童貞を好み童貞を略奪しキンタマクラで眠るという破廉恥な童貞食いの象徴である一本角熊ユニベアー。非童貞が視界に入るだけで血の雨が降るという理不尽と力の権化。その一本角熊ユニベアーの皮を恥ずかしげもなく被ったバーバリアンの姫がしれっと参戦していたのだ。


彼女は近隣の女性には珍しい美しい漆黒の髪をなびかせ、まるで踊るような所作で里の戦士を伝説の一本角熊ユニベアーの如く蹂躙していった。

彼女の武威は里の女と明らかに一線を画していた。


里を取り巻く戦の懸念に意識を奪われていたとはいえ、これだけの異物バーバリアンに気が付かないなどあるだろうか?しかし彼女が示した女々しい武威は目を見張るものでまさしく聖女のそれだった。いつしかボクも里の者も近隣の者も彼女に夢中になっていた。

そうしてバーバリアンの聖女と相対したメリッサ様は一番得意とする槍を選び彼女に挑んだ。だが彼女はそんなメリッサ様をも易々と吹き飛ばし、その場にいる全てに驚きと衝撃を与えた。



彼女は自らをエリカと名乗った。

メリッサ様と共に近くで見た破廉恥な一本角熊ユニベアーの皮を被ったエリカ様はその強さと美しさとは裏腹に、思ったよりも若く見えた。なんと自称十七歳だという。ボクよりも年下だと言うのだ。

これは何か理由があって嘘をついているのか、それとも彼女が未開の地にあって歳を数えられないか?どうも年齢を明かした時に疑問符がついていたようなのできっと後者なのではないだろうか?


エリカ様はメリッサ様と話をしていたが、文明に慣れていないからか言葉数は少なく、そして一本角熊の伝説のように羞恥の概念が欠落しているように思えた。

彼女はこの里に留まる事を望まず、ボクを連れて出ていくつもりのようだ。そしてそれをメリッサ様も渋々ながら認めた。ボクをこの里に置いておくと今後また近隣の者と諍いになるのも理由の一つだろう。里を預かる者として当然の選択に思う。


「いや?犯すが?」とは言っていたが多分メリッサ様流のジョークだと思う。

ですよねメリッサ様?


そうしてこの里から出ていく事が決まり、ボクは森の奥の未開のバーバリアンの里で慰み者として一生を過ごすのではないかと不安であったが、意外な事にエリカ様は村か町へ行きたいようだった。

男娼館に売られるのか奴隷市場に行くのかは分からないが、森の奥深くのバーバリアンの里に沈められ羞恥を知らぬ彼女によって滅茶苦茶に蹂躙される未来を考えれば、例え奴隷落ちをしたとしても文明の庇護下に置かれる可能性が出てきたと前向きに考えることにした。


貞操の神アポロニア様、どうかボクに人間の尊厳を持たせ辱めないでください。

そうしてボクは一本角熊ユニベアーの伝説の通り彼女に略奪されたのだった。

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