第五話 旅立ち

「それと男の体調管理は分かるな?」


「え?」


男の体調管理とか初めて聞いた。この世界じゃ男はほっとくと死ぬのかな?


「お前おぼこだと言っていたからデュオ坊を連れて行くのなら知っておいた方が良いと思ってな」


おまえが勝手に言っただけで私は言ってねぇよ、そうだけど。

こういう下ネタに対して何か言い返したいけど、どうにもこの二年でコミュ障を発症してしまったのか顔を赤くしてごにょごにょと口ごもるだけで言い返せなくなってしまう。


(エリカチャン?指は雄弁に物語るわヨ!)


妖精さんの力強い中指が私の心を代弁してくれている。

ありがとう、でもそれを私がやるのはそれはそれで令和の乙女として少し抵抗感があるのよ?


「男は搾り過ぎる簡単に死ぬが、それでも適度に搾ってやらないと体に悪い、きちんと管理してやんだよ」


……は?搾る?

突然男の体の謎の生態を聞かされ困惑する。私はこの野蛮人のいう「おぼこ」とはいえ、そういう知識が無いわけでない。困惑しているのは無駄に言葉をぼかしたわりにばっちり低劣な表現だからだ。

私は視線をデュオに向けると彼は頬を赤らめ視線を私から外しさ迷わせた。


「い、いえ…じ、自分で…できますから!」


この様子からどうやら嘘ではないらしい。


「で、出来るだけ我慢しなさい!!」


「は、はい!」


デュオは顔を真っ赤にして私の言葉に答える。多分私の顔も似たような事になっているだろう。


「主人としてお前が気を遣ってやるんだよ、管理放棄は無責任だぞ?」


メリッサはまるで幼児やペットの世話をするのはさも当然だと説くように私に言い放つ。まるで「モラルの低い」私を咎めるような言いぐさである。アホか!ペットでも子供でもないだろ!なんでそんな事を上から目線で諭されなきゃならんのか!!


「ひ、一人でできるわね!?」


「は、はいい!!」


プライベートな時間を作ってやるから勝手にやれ!!

そんな私の様子を見てメリッサは語る。


「ふぅ…やれやれ、バーバリアンは人間の高尚な文化を理解しないのだな…」


ドヤ顔で肩をすくめる蛮族。コイツ顔だけは無駄に知的な美形で仕事が出来そうに見えるから余計イラっとする。

そしてこれは意味不明な蛮族ルールをドヤ顔で言い放つ流れだ。お前らの低劣な文化から二千年以上は進んでいるであろう令和の文明人の私に対して上から目線で押し付けようとするな、いい加減脳がバグりそうだ。


「ミルク搾りは女の嗜みだ」


「しね」


ついクチに出して言えてしまった。

その日、里の長の物と思われる竪穴式住居は私達の膂力により崩壊した。


◇ ◇ ◇


竪穴式住居を破壊し、メリッサを昏倒させた私とデュオは里から旅立った。

そんな我々を見送るべく顔面偏差値だけは無駄に高いお嬢様方が群れとなり里の柵に集っていた。里の人気者であったであろうデュオとの別れを惜しみ、皆思い思いの言葉を柵越しに投げかけている。


「あんのバーバリアンにわたしのデュオきゅんがああああああああ!」

「お願い!さきっちょだけ!さきっちょだけでいいからああああ!!」

「私の愛しいソーセージちゃあああああああああああ!!!!」


彼女らは柵越しに一生懸命…というかわりとガチめに必死の形相で腕を振るっていた。彼女らはさながら咎人が牢獄から腕を伸ばしているように見える。ちょっとこの里今すぐ神の炎とかで滅びないかな?

そしてその中心であるデュオが向けた視線の先には明るいオレンジの髪と茶色の瞳をした美少女がその大きな瞳いっぱいに涙を湛え雌叫びを上げていた。


「ちくしょおおおおお!あの時デュオ君の童貞食べておけばあああ!!」


「キトナ様……」


デュオはその雌叫びを上げているであろう女の子の名を呟き遠い目をしている。彼女が里でデュオが信じていたというお嬢様の一人のようだ。終わり良ければ全て良しということわざがある。だから全て良くない、最低だ。

彼の横顔は歳に見合わぬ大人びた憂いを湛えていた。

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