第四話 所有権

デュオという男の子は私が所有権を放棄すると里のお嬢様方に仲良く…もしくは殺し合いの末に回され不和を振り撒くオタサーの王子様的存在らしい。

それならこの野蛮人の里を離れ、まともな町を探す旅に出る私の話し相手にはなってくれないだろうか…一人は寂しいからな…


「メリッサ、デュオって里の子じゃないの?」


私はそんなぶしつけな質問をしてしまった。

いや、ホントは旅に出して親族の方とか心配しないかと確認するつもりだったのが、変な所でコミュ障を発揮して大失言をしてしまった。口に出した後にデュオの暗い表情を見て「しまった!」と後悔した。

そうしてメリッサからは更に辛い答えが返ってきた。


「ああ、それなんだが…デュオの母親はこの里で私と双璧をなす聖女だった。だが先日狩りの最中に凶暴な魔物の手によって…な」


私は完全に地雷を踏み抜いてしまった、居心地が悪い。


「それは…ご愁傷様…」


なんと声を掛けたらよいのか…傍らのデュオを見ると殺された母親の話題を避けるかのように目を伏せていた。長いまつ毛、白いうなじ、弱々しく下がった肩からはまるで寡婦のような妙な色気すら感じられた。

…少し人恋しさの余りこの狂った里に影響を受けてしまっているのかと思い、茹った頭を振って自重した。


魔物は大地の魔力を吸った巨大な獣だ。私もここに来て何度も彼らに殺されそうになった。不思議な力を操り初見殺しのような事もする。私が生きてここにいるのは本当にたまたまだ。

そんな恐怖の存在と対峙し戦った彼の母親というのは英雄…この世界でいうところの聖女?だったのだろう。「聖女」は「勇士」とか「勇者」みたいな扱いなのだろうか…?

そしてまだ年若い彼は母親を突然魔物に殺され心を痛めているのだ、よそ者の私が土足で踏み入って良い話ではなかった。


「それで彼女の形見分けにデュオの童貞…所有権を巡って近隣の里も含めて争奪戦になった」



あ  た  ま  お  か  し  い



男女の貞操の概念が逆になっているだけでなくそもそもの人間の質が低劣過ぎて意思の疎通が難しい…そうして気が遠くなりそうな私の内心を無視してメリッサは続けた。


「デュオ坊の母親はそれは女々しい聖女だった、その武威を以て睨みを利かせていたからこそデュオ坊に手を出そうとする馬鹿はいなかったのだが…」

「彼女の死が近隣の里にも伝わり、幾つかの里がデュオ坊の身柄を求め里を包囲した。とうとう全面戦争になる…その時、我々は門扉を開き武闘会の開催を宣言した。その勝利者こそがデュオ坊の貞操の権利を得ると宣誓して」


バカめ、人が大人しく聞いてるからって話を理解出来ていると思うなよ…?

近隣の里も含めてデュオを慰み者にしようという強い蛮性、どうしてこんな野蛮な連中に私はバーバリアン呼ばわりされないといけないのか。

ズキズキと頭が痛む、早くこの里を出たい。

だが一つ、私はその武闘会開催の意図に気が付いた。


「…それで貴女が優勝をして彼を保護しようとしたワケね」


唯一の救いは目の前にいる決勝で私と戦ったデュオの母親と双璧を成すという聖女?メリッサだった。彼女がこの野蛮な里では比較的温和で知性があり、淑女であろうという事は理解出来た。死んだ友人の息子の為に武闘会であの野蛮なお嬢様方を相手にその武威をもって引き下がらせたのだろう。


「いや?当然犯すが?」


常識人なんていなかった。そう言い放つ彼女に私はこの狂った里からデュオを連れて一刻も早く出ようと心に決めた。



「この付近に街道はないかしら?」


メリッサに聞くと里を出て山を下った先に街道があり、その街道を日が昇る方に五日も進めばロクデという村があり、更に七日程進むと賑わったエフワードという町があるそうだ。


森で一人、人恋しくてたまらなかったけど本当に運良く…なのか悪くなのか、この蛮族の里を見つけ文明の低さと文化の低劣さに絶望しかけたが、まだ見ぬ人間の生存圏が広がっていると聞いて嬉しくなった。世界は広い…きっとまともな文化圏もあるはずだ。

私は人間の可能性を信じ未来に希望を持った。


(まともなニンゲンと違ってワタシはいつでもエリカチャンの味方ヨ!)


「まともじゃないニンゲン」に心当たりが無いものか聞き返したかったが、メリッサから蛮族発言が飛び出した。


「もしかして奴隷の卸しのある町を探しているのか?」

「男娼館ならエフワードの町にもあるが奴隷の卸しのある町はもっと先になるぞ」


聞いてねぇよスカタン。いい加減この蛮族の思考にも慣れてきたけど私は令和の文明人でしかも年頃の乙女、これでも一応異性の目は気になる。

ちらりと横目に見たデュオはその顔を悲痛に歪め、世界の終わりのような表情をしていた。

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