第4話 絶望の中に希望はある

 光夜とユウキと名乗る少年、仮面の人物の戦闘は続く。

 ユウキは非常に戦い慣れており、最低限の動きでビームキャノンを回避していく。

 ユウキに気が逸れている間に、光夜が懐に飛び込んで剣で切り裂く。


「オッサン。中々やるじゃねえか!」

「お前に比べたら拙い動きさ。俺ももう歳か?」

「ハハハ! 俺はコイツと何回も戦っているから、慣れているだけだよ!」


 仮面の人物は光夜に向かって、剣を振り下ろした。

 光夜はその攻撃を受け流して、そのまま蹴り飛ばす。

 仮面の人物はユウキのもとまで吹き飛ばされる。


 ユウキはそのまま剣を振り、仮面の人物を切り裂いた。

 仮面の人物は胴体を傷つけられ、その場で押さえる。

 

「ショーダウンだ」


 光夜は拳銃を取り出して、仮面の人物の胴体に発砲。

 仮面の人物は剣で弾を弾き返すが、それは囮だった。

 光夜はエネルギーを込めた拳銃を投げつけ、彼の足元で爆発させた。


 仮面の人物はフェンスまで吹き飛ばされる。

 その場で立とうとするが、足を怪我して膝をつく。

 その間に光夜とユウキは並びたち、剣先を向けた。


「お! 考える事は一緒か?」

「みたいだな。オッサン、遅れるなよ!」

「了解。お前の指示に従うよ」


 2人は異能力を保存した、カートリッジを剣に挿入する。

 爆発の力を剣に宿して、剣から火球弾を発射した。

 2つの火球弾は混ざりあって、巨大な火球弾へと変化する。


 仮面の人物に火球弾が直撃すると、その場で大きな爆発を上げた。

 真っ二つになった屋上が、完全に崩れる程の爆発だった。

 2人は爆風に乗って、隣のビルに移動した。


「中々やるじゃないか。まあ俺に比べれば、まだまだ格好良さが足りないけどな」

「まだガキだから、これから伸びるのさ」

「そいつは楽しみだ。将来の英雄さん」


 2人は拳を握りしめて、お互いにぶつけ合った。

 なんとか撃退した2人だったが、休む間はない。

 既に巨大な闇本体が、日本列島に上陸していた。


「それで。今後の予定はどうするつもりだ? 冬木光夜さん」

「俺の名前を? 俺って有名人なのか? 未来の人」

「こっちの事情もある程度知っているのか。なら話が早い」


 ユウキはアリスと姉弟である事を、光夜に話した。

 彼もまた未来のチームライトムーンのメンバーだ。

 初代リーダーの事は、名前くらい聞いてあった。


「無茶をする人だと聞いていた。だから直ぐに分かった」

「誉め言葉として受け取っておこうか」

「ああ。誉め言葉だ。俺にとっては最上級のな」


 ユウキはビルの屋上から、空を眺めた。

 過去に戻れば青空がまた見えると思っていた。

 だが自分の知っている歴史よりも、遥かに早く闇が復活していた。


 闇の気配は空を見れば、いくらでも感じ取れる。

 ユウキはこの世界に辿り着くと、直ぐに事態を把握した。


「今倒した奴は、本体の一部に過ぎない。だから俺達でも何とかできた」

「なるほど。経験がある奴が言うと、説得力が違うな」

「本体はこんなもんじゃ済まない。奴には人類全てが挑んでも、負けて来た」


 ユウキは過去の敗北を思い出し、拳を握りしめた。

 光夜は彼の苦悩が、不思議と自分の事の様に伝わって来た。

 同時にこれ以上悩ませたくないと言う思いが、拳に宿り始める。


「だがこの時代になら。一度奴を引かせた、英雄が居る」


 ユウキは目を輝かせながら、ジッと光夜を見つめた。


「不可能を可能にすると言われた彼が居れば、奴を倒す事が出来るかもしれない」

「かもしれないか……。だがやるしかねえようだな」

「俺達の未来は、完全に滅んだ。でもせめて過去を救えれば!」


 その先を口にせず、光夜の肩に手を置くユウキ。

 

「勝つさ。俺達は」


 光夜の言葉を聞いて、ユウキは重い荷が外れた感覚がする。

 未来を聞いても、敵の力を見せつけられても。

 光夜の目はまだ死んでいない。彼は勝つ気でいた。


「あの闇が地球の意思だと言うなら、もう1つの意思を使えば良いだけの話だ」

「もう1つの意志?」

「生への欲求。それは俺達の滅ぼされてたまるかって思いだ」


 地球が1つの生命体だとすれば、当然生への欲求も存在する。

 光夜は人類の抵抗こそが、地球の意思の一部だと考えていた。


「一応聞いておくけど、アンタに勝算はあるのか?」

「スーパーマキシマム砲を使う。現状出来る抵抗はそれだけだ」

「無理だ。未来で一度試したが、人類最強の兵器でさえ闇には通じない」


 より改良されたスーパーマキシマム砲でも、闇は傷1つつかない。

 その話を聞いても光夜はまだ、絶望したりしない。

 通信でみんなと連絡を取り、スーパーマキシマム砲の準備を行う。


「何をするつもりだ? アレは効かないと言ったはずだが」

「俺の異能力で出力を限界ギリギリまで上げる」

「発射口が放出エネルギーに耐えきれず、爆発するぞ?」


 光夜は笑って、その言葉に返した。


「だからもうひと手間かけるさ」


──────────────────────────────


 闇は既に都市部に到着。全てを包み消滅させている。

 ガードはスーパーマキシマム砲の準備をしていた。

 闇は既に目前まで迫っている。だがこの場から逃げ出す者はいない。


「行くぞ! スーパーマキシマム砲、チャージ開始!」


 虹色の光が砲口へと集まっていく。同時に砲台が青く光り始めた。

 チャージと光夜のエネルギーが混ざり合い、出力が上がっていく。

 チャージが完了する直前で、光夜はエネルギー供給を停止した。


「いくぞ……。これで最後だ!」


 光夜は砲口から離れて、剣にエネルギーを溜めた。

 同時にスーパーマキシマム砲が発射され、虹色の光線が闇に向かって飛ぶ。

 光夜はその光線に混ざる様に、剣から青い光線を放った。


 エネルギー放出口を別にする事で、負荷を下げる作戦だ。

 高出力の光線が混ざり合って、闇に衝突する。

 闇は勢いが弱まり、徐々に押し返されているように見えた。だが……。


「な……! に……!」


 その光線は闇の動きを、僅か止めているだけだった。

 光線は闇に吸収されていき、徐々に打ち消されていく。

 光夜はありったけの力を出し切るが、徐々に押し返されていく。


「くっ……。負けられねぇんだ!」


 必死に押し返そうとする光夜の背中を、ユウキが押した。

 彼は手から青い光を出して、光夜の体に吸収させる。

 

「おっさん! でかい口叩いて、この様か!」

「へっ! 俺はまだ諦めちゃいねえよ! 諦めの悪さが俺の取柄だからな!」

「そいつを聞けて安心だ。俺の異能力で、アンタに俺のエネルギ―を分ける!」


 ユウキは自らのエネルギーを、光夜に分け与えた。

 光線の出力が更に上がり、闇を再び押し返していく。

 2人は持てる全ての力を、剣先の光線に向けた。


「諦めの悪さはな! アンタの専売特許じゃないんだよ!」

「未来は安泰だな! このまま押し切るぞ!」


 2人の光線は闇を押し返し、その場で大きな爆発を上げた。

 青い光が強く発光し、その場で皆が目を瞑る。

 巫女が目を開けた時には、既に大きな煙が上がっていた。


 誰もが息を呑んで煙が消えるのを待った。

 黒煙はゆっくりと上昇しながら、強い風に吹き飛ばされる。

 

「そ、そんな!?」


 巫女の目の前に広がっていた光景。

 それは今だ健在となっている闇だった。

 闇は僅かに勢いが減ったが、依然巨大で周囲を包み込む。


 闇は周囲に稲妻を発生させた。

 その稲妻によって、スーパーマキシマム砲が粉砕される。

 光夜とユウキにも残された力はもうない。


「まだだ……。まだ終わらねぇ!」


 光夜はブルーヒートを発動させて、剣にエネルギーを込めた。

 そのまま剣を持って、闇に向かって特攻を仕掛けようとする。


「駄目です! 行ってはいけません!」


 その様子を見ていたアリスが、咄嗟に光夜を止めようとした。

 

「行けば貴方は……」


 その先を口にしようとした時、ユウキに制止された。

 ユウキは首を振りながら、アリスの前に手を伸ばす。


「ユウ! どうして止めるの! だってあの人は……」

「分かっているさ。だがあの人は止まらない」


 光夜は闇に向かって、飛び込んだ。

 闇の中でありったけのエネルギーを放出して、食い止めようとする。

 闇は光夜を飲み込もうとするが、膨大なエネルギーに阻まれる。


「止まらないからあの人は、闇を止められたんだ……」

「しかし! それでは私は何の為に……」

「あの人の戦う姿を見届けられたんだ。俺はそれで十分だ」


 闇は再び青い光を灯し始めた。

 内部から高エネルギーを放出され、徐々に崩壊を始める。

 それはかつて英雄が闇を封じ込めた時と、同じ光景だった。


「行っちゃヤダ! お父さん!」


 彼女の叫びと共に、闇は青い爆発を上げた。

 その爆発で周囲の人間は大きく吹き飛ばされる。

 光が消えた頃には、既に闇は姿を消していた。


 闇が消えた先に光夜の姿は存在しない。

 代わりに彼が握りしめていた剣が、地面に突き刺さっていた。


「そんな……。光夜!」

「リーダー!」


 優也と瑠璃が慌てて闇が存在した場所を捜索する。

 美里と巫女も合流し、自分達のリーダーを必死で探した。

 だが何処にも存在しない。生体反応すらその場には存在しなかった。


「あいつ……。自分を犠牲に、闇を倒したのか! バカ野郎……」


 優也は何が起きたのか、ようやく受け止める事が出来た。

 光夜は体を爆発させて、膨大なブルーヒートのエネルギーを放出。

 その衝撃で闇を内部から崩壊させたのだ。


「私達は光夜を犠牲に……」


 巫女は地面に膝をつき、強い喪失感を抱いた。

 幼い頃からずっと一緒だった存在。

 自分達のリーダーが消えたとは、彼女には信じられなかった。


「嘘……。でしょ……?」


 瑠璃は震えながら、自分の解析結果を疑った。

 体を硬直させながら、それでも結果を言わない訳にはいかない。

 悲しむ暇すらないまま、瑠璃はその言葉を口にした。


「闇が再生を始めている……」


 闇は崩壊しただけだった。消え去っていない。

 地球の死への欲求は、再び闇として姿を現わそうとしていた。

 

「後15分で完全体になるよ……」

「そんな……。じゃあ光夜は無駄死にだって言うの!?」

『勝手に殺すな。まあこの状況じゃ、仕方ないけど』


 耳元の通信機から聞こえた声。

 その声を聞いた瞬間、皆に強い希望が宿った。

 驚きを隠せないながらも、彼の生存に喜びを抱いた。


「光夜……! 無事だったのか……」

『事情は後で話す。こうなったら最後の賭けだ』


 光夜は離れた場所に居て、何処かへ走る音が聞こえて来た。

 彼はきっと希望を持って、この場所に戻って来る。

 誰もがそう感じていた。


「何をするつもりだ?」

『地球の中心部に向かって、ちょっと生への欲望を刺激してくる』

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