第3話 地球の闇

 ジェットパックとビームサーベル。

 双方を利用して、ヘルメットの人物は優位に戦っていた。

 光夜も剣で応戦するも、劣勢は覆せない。


「……」


 ヘルメットの人物は、光夜を風圧で吹き飛ばした。

 そのまま彼の横を通り過ぎ、ガードの支部へ向かう。


「眼中になしかよ。舐めやがって!」


 光夜は慌てて追いかけるが、ジェットパックには追いつけない。

 バイクも壊れているため、近くの乗り物を探した。

 そこへ車に乗った優也が丁度到着した。


「ヘイ彼氏! 乗っていかない!」

「ナイスタイミング! 今日は俺が射撃だぜ!」


 光夜は車に飛び乗って、ヘルメットの人物を追いかけた。

 ヘルメットの人物は一瞬だけ背後を振り向くと、スピードを上げる。

 優也もアクセル全開で、ヘルメットの人物を追いかける。


「奴にはエネルギー弾が通用しない。もっと固い弾が必要だ」

「ダイナマイト以上の? そんなものあるのか?」

「さあな。ここを突破されれば俺らの負け。それは確実」


 光夜は窓から上半身を出して、銃で狙いを付けた。

 ジェットパックを狙い、射撃を行う。

 だがヘルメットの人物は、振り向きもせずにその銃弾を回避していく。


「あいつ後ろに目でもあるの?」

「いや、そもそも人間かどうかも怪しいぞ」

「お前の超能力で、なんとかならんか?」


 優也は運転中なので、超能力を使えない。

 光夜は再びエネルギーを込めて、ヘルメットの人物に発砲した。

 僅かにフェイントをかけた事で、ヘルメットの人物は少しだけ動きが止まる。


 その隙に優也がアクセルを踏み込み、一気に追いついた。

 ヘルメットの人物はチラっとだけ、車を見る。

 そのままキャノンの砲口を、車に向けた。


「あ、やばい……」


 キャノンは車のエンジンに向けられていた。

 優也がギリギリでブレーキを踏んだ事で、直撃は耐えられた。

 僅かに掠った事で、車から火が噴き始める。


「どうしよう! これ新車なのに!」

「バカ野郎! 車は火が着いてからが勝負だ!」

「了解! こうなれば当たって砕けろだ!」


 優也は炎を灯した車で、ヘルメットの人物に体当たりする。

 そのままガードレールに衝突し、2人は脱出した。

 光夜は2人の脱出と共に車は、爆発を上げる。


「優也、多分まだ倒れちゃいねえぞ」


 光夜の予想通り、炎の中からヘルメットの人物が出て来た。

 爆発の影響かジャケットは、ボロボロになっている。

 ジェットパックは破損している。


「いくぞ優也。久しぶりの白兵戦だ!」

「了解。やっぱり異能力者は生身で戦わないとね!」


 ヘルメットの人物が、立ち塞がる2人にキャノンを発射。

 光夜が剣で弾き返し、優也がテレポートで懐に入る。

 優也はヘルメットの人物に、光るカードを投げつけた。


 ヘルメットの人物は背後に吹き飛ぶ。

 剣を地面に刺して体勢を立て直し、再び砲口を2人に向けた。

 すかさず光夜が踏み込み、キャノン砲を剣で弾いて狙いを逸らす。


「この至近距離からならどうだ?」


 光夜はヘルメットの人物の胴体に、拳銃を突きつけた。

 その引き金を引き、ヘルメットの人物を再び吹き飛ばす。

 ヘルメットの人物は腹を抑えながら、膝をつく。


「やっと人間らしい部分が見えて来たな。このまま畳みかけるぞ!」


 光夜の掛け声を聞いて、優也は3つの分身を作った。

 4人の優也がヘルメットの人物の周りを、くるくると回る。

 十分翻弄した後、優也は一斉に蹴りかかった。


「終わりだ!」


 光夜は剣にエネルギーを溜めた。

 そのまま剣先をヘルメットの人物に向け、光線を放とうとした。

 だが突如地面から、黒い霧が溢れた。


 霧はヘルメットの人物を包み、2人の視界から消した。

 霧は徐々に濃くなり、やがて1つの闇へと姿を変える。

 闇は巨大竜巻の様に建物を巻き込みながら、2人に近づく。


「おい嘘だろ……。予想より1時間早いぞ!」

『リーダー違うよ。そいつは大陸に発生した闇とは別個体』

「瑠璃か? 一体どういう事だ?」


 瑠璃が通信機を通して、光夜達に伝える。

 彼女は何故3年も早く闇が目覚めたのか、解析出来た。


『ヘルメット野郎の中身は、本当に一部』

「アリスさんを追って来た闇は、他にも居たって言うのか?」

『そいつは欠けた部分を補うため、現代の闇と融合した』


 完全体になった後のあまりが、2人の目の前の闇。

 瑠璃の解析結果で、その事が分かった。

 闇は光夜達を飲み込もうと、進撃を始めた。


 周囲を一瞬で粉砕し、跡形も無く消し去る闇。

 2人はただ呆然と、闇が近づくのを眺めていた。


「冗談じゃない……。残りカスでこんな……」


 優也は無意識に途方もない強さを、感じ取っていた。

 これにはまだ本体となる、より強力な個体が存在する。

 光夜はなんとか正気を取り戻し、優也の手を引っ張ってその場から撤退する。


「一旦離脱する! 瑠璃! 何でも良いから乗り物頼む!」


 光夜の言葉に従い、瑠璃はバイクを自動運転させた。

 光夜は優也を強引に乗せてバイクにまたがり、ガード支部まで撤退する。

 闇はそれを追いかける様に、勢いを増して全てを飲み込む。


「冗談じゃねえ。俺はまだ滅びないぞ! 絶対にな!」


 太陽の光が黒い雲で覆われても、光夜は希望を捨てなかった。

 彼の強い意志を感じ、優也もようやく正気を取り戻す。

 2人はガードの支部まで撤退した。


 直ぐに自分達の部屋に戻って、現状を確認する。

 出撃準備をしていた残りのメンバーが、2人に状況を説明した。


「2人を襲った闇はその場で静止。このままだと本体と合流するよ」

「迎撃準備が間に合わない。総員に退避命令。装甲列車に乗れるだけ乗せるぞ!」


 上層部に代わって光夜が判断した。

 上層部もこの状況で断る理由もなく、退避のアナウンスを流す。

 ガード支部のメンバーは、持てる武装を全て持って退避を開始した。


「闇の本体は後30分で日本上陸。1時間で東京まで来る」

「それまでに残りカスを消さないと、ダブルパンチか……。全然余裕」


 光夜は冗談を口にしながら、焦りの汗を流した。

 退避は事前準備のおかげで間に合う。

 だがこのまま2つの闇が合流すれば、勝機は失われる。


「ヘリを用意したよ。私達も……」


 巫女が屋上のヘリを、準備し終えた。

 残すはチームムーンライトのみとなった、ガードの支部。

 静まる建物と近づく巨大な闇を見る光夜。


 ここで静止していた闇が、再び姿を変えた。

 黒い仮面をつけたコートの人物に、闇は吸収されていく。

 仮面の人物の背中には、ジェットパックが取り付けられていた。


「そう簡単に逃がしちゃくれないみたいだぜ」


 仮面の人物はガード支部の、ヘリポートに降り立った。

 キャノン砲をヘリに向けて、彼らの離陸を阻もうとする。

 光夜が咄嗟に飛び掛かって砲口をずらし、ヘリへの直撃を回避する。


「行け! こいつは俺が食い止める!」

「光夜! 無理だ! お前を置いて行ける訳ないだろ!」

「大丈夫だ! コイツをぶっ倒して、必ず追いつく! だから絶対にヘリを落とすな!」


 光夜の怒声に戸惑いながらも、巫女はヘリを発進させた。

 彼の方を振り向きながらも、信じてヘリの安全を確保する。

 必ず迎えに行くと心で誓い、他のメンバーは脱出をした。


「よう! 無表情野郎。顔に付けたものが、お洒落になったじゃないか!」

「……」

「愛想は変わらない訳か。この野郎!」


 光夜は異能力を発動させて、剣で斬りかかった。

 仮面の人物も同じく剣で、その攻撃を防いだ。

 つばぜり合いが発生し、お互い一歩も引かずに押し合い続ける。


「さっきよりパワーが上がっても、それで俺に勝てる訳ではないぞ!」

「……」

「口喧嘩なら俺の勝ちだな!」


 光夜が剣を押し返して、仮面の人物を弾き返した。

 仮面の人物と光夜は、即座に相手の体に飛び道具を密着させる。

 同時に発砲をして、2人は背後に吹き飛んだ。


「思ったよりやるじゃないか。だが本戦はここからだぜ!」

「……」

「お前変装でもしているの? 表情変わらな過ぎ」


 仮面の人物は即座に体勢を整え、ビームキャノンを発射。

 光夜は側転で回避しながら、仮面の人物に近づいていく。

 仮面の人物は次々とビームキャノンを発射し、光夜を牽制していく。


「なんだそりゃ? 球数なしか? ズルいぞ!」


 光夜は体力を削られて、近づけずに居た。

 このまま連射されれば、先に限界が来るのは彼の方だ。

 だがビームキャノンも、先程の戦いより威力を増している。


 剣で弾き返す事は、もうできないと光夜には分かっていた。

 彼は額から汗を流しながらも、歯を食いしばって笑った。


「持久戦なら得意だぜ。それだけが取柄だからな」

「……」


 仮面の人物は高出力のビームキャノンを、地面に放った。

 地面が真っ二つに割れて、光夜は体勢を崩した。

 仮面の人物はジェットパックを使って、間合いを詰める。


 光夜の心臓を目掛けて、剣を突き刺そうとした。

 光夜は体勢を立て直せず、その攻撃に反応出来ない。

 気づいた時には剣は既に、防げない位置まで近づいていた。


「……!」


 仮面の人物は刃先を光夜から外した。

 仮面の人物目掛けて、黒い剣が回転しながら投げつけられる。

 彼はその攻撃を弾く為に、光夜から狙いを外したのだ。


「主役は遅れてやって来るってね」


 剣が投げられた先に、光夜と同じ服装をした少年が居た。

 投げられた剣も光夜が持っていた剣と、全く同じものだった。

 少年は黒い髪の毛の前髪を跳ねながら、ニヤリと笑っていた。


「俺はしぶといのとしつこいのが、取柄なんでね」

「誰だ? なんで俺と同じ格好を? オーダーメイドだぞ」

「形見らしいぜ。親父は俺が小さい頃に死んだから、知らないけど」

 

 少年は剣を拾い上げながら、再びニヤリと笑った。

 その刃先が仮面の人物に向けられた事で、光夜も多くは問わない。

 今やるべき事は、目の前の相手を倒す事だからだ。


「俺の名前は工藤ユウキ! オッサン。助太刀するぜ」

「あっそ。ガキに取っては22歳はオッサンか?」

「22歳にとって、15歳はガキだな!」


 2人は一瞬だけ目を合わせると、お互い二ッと笑った。

 そのまま構えて、仮面の人物と向かい合う。


「行くぞ。全てが闇に包まれる前にな」

「肝が据わっているな。将来が楽しみな15歳だな」

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