第2話 最後に現れし者

 地球の中心部。人間が決して到達できない場所。

 ヘルメットの人物は、熱さにも気圧にも耐えてこの場所居た。

 そこに意思など存在しない。ただ自分の本能に従うだけ。


「……」


 地球の中心部に、黒い霧が発生する。

 ヘルメットの人物は、黒い霧を吸い込む。

 まるで死んでいるかのように、表情1つ変えない。


「……」


 その者に悪意など存在しない。

 あるのは只の破壊衝動のみ。

 あらゆる知的生命を消し去ると言うプログラムのみである。


──────────────────────────────


「ガイア理論か……。聞いたことはある」


 光夜はキョトンとしているメンバーに、説明をした。


「地球は1つの大きな生命体と言う理論で……」

「光夜、もっと分り易く頼む」

「俺らは地球と言うでっかい巨人の上に生きているって事」


 地球には意思があるという理論。

 今回の敵はその理論を裏付けるものであるとアリスは説明した。

 太古の人類が優れた科学力を持ちながら滅びた理由も、そこにあると。


「敵の正体は地球の意志そのものです」

「地球の意志だと? 環境破壊のし過ぎか?」

「違います。これは父の推論ですが、人類の目が宇宙へ移った影響です」


 既に月面の領域を、各国が取り合っている時代となっている。

 火星の開発が進み、同じ未知を辿ると予想されている。

 それ程まで人類は、宇宙へ進出しているのだ。


「この状況、人類は地球への興味が薄れた事を意味します」

「確かに。どの国も技術力を見せつける為に、宇宙を目指す時代だ」

「その感心の薄れが、地球の死への欲求を刺激しているのです」


 生物には生きたいと言う欲求があると言われている。

 その反対。死へ向かう欲求も存在すると心理学で言われていた。

 地球が死への欲求で満たされた時、最後に現れる者が出現する。


「知的生命が優れた科学力を持つと、それを滅ぼすのか」

「ムー大陸や他の古代人が滅びたのも、同じ理由です」

「進化し過ぎた生命を滅ぼす。破滅への欲求か……」


 その意思にはいかなる生命も抗えない。

 現代人は自然の摂理、『滅び』と言うものに直面していた。

 永遠の命など存在しない。必ず滅びが存在する。死への欲求がある限り。


「ちょっと待って! それなら敵の正体は……」


 巫女はその先が恐ろしくて、口に出来なかった。

 みんなが息を呑み、電流が流れるような重い沈黙が続く。


「地球の意思って事になるな……」


 誰もが飲み込んだ言葉を、光夜が口にする。

 『滅び』の摂理はどんな生命にも訪れる。

 自然と言うあまりにも強大な敵に、人類は今まで無力だった。


「でも『ある人物』は勝てたんでしょ……! まだ希望は……」

「勝ってない。撤退させただけだ。滅びの欲求を沈めただけだ」


 巫女へ光夜は冷静に厳しい言葉を口にした。

 クイスト人ですら支配出来ない、地球と言う巨大な意思。

 彼らの言った通り、あらゆる生命が滅びに抗えずに負けた。


「光夜……。今度の相手、どう思う?」

「勝率は五分五分と言った所か」

「え? そんなにあるのか!?」


 意外な言葉に優也は思わず、口を開いたままにした。

 途方もない相手だが、光夜には勝算がある。

 それが上手く行くかどうかで、人類の運命は決まる。


「『ある人物は』10年以上も封じたんだろ?」


 そのある人物は歴史に影響するため、アリスも口には出来ない。

 正確にはアリスも知らないのだ。

 『彼』の存在はガードで機密扱いであり、母親も決して口にしなかった。


「そいつに出来て、俺に出来ねぇ理由がねぇ」

「凄い自信だな……。でもなんかやれそうな気がして来たな」

「解決は先延ばしになるけど、結果は分かっているんだ」


 同じ道を辿らない様に、歴史を進める。

 光夜は10年以上もあれば、勝てる道が出てくると考えていた。

 その為にも3年後に復活する、最後に現れし者に備える必要がある。


「どっちにしろ。後3年ある。考える時間だけはあるって事さ」


 光夜が一息つこうとした時。

 瑠璃のパソコンにあるメッセージが届く。

 その後パソコンを操作した瑠璃は、目を大きく見開いた。


「こんなバカな事が!?」

「どうした瑠璃? 状況を報告しろ」

「リーダー。3年もないかも……。たった今、ユーラシア大陸が消滅した……」


 その報告に全員の脳が、処理が追い付かない。

 ただ意味が分からないと言う事だけは、理解出来た。

 瑠璃は冷静さを必死で取り戻そうと、パソコンを弄った。


「今人工衛星からの映像を出すよ……」


 瑠璃はパソコンの画面を、皆に見えるようにした。

 そこにはユーラシア大陸だったものが、黒い何かに覆われていた。

 そのなにかが移動する度に、大陸が消滅していく。


「コイツは……。私達の世界を破壊した闇です!」

「これが『最後に現れし者』? どういう事だ?」

「私を追って来た闇だけでは、これ程巨大なものを作り出す事は不可能なはず」


 闇はあまりにも巨大過ぎて、時空の狭間にすら入れなかった。

 アリスを追って来た闇は、ほんの一欠けらに過ぎないものだ。

 その闇が混ざっても、2年以上は余裕があるはずだった。


「リーダー。これを見て。内部に強力な生体反応が……」

「生きている闇……。これが地球の意志、『滅び』か」

「こいつは今までの敵とは桁外れの化け物だよ!」


 瑠璃は必死で巨大な闇を、解析しようとした。

 だがどれだけ優れたコンピュータでも、地球の意志を計測する事は出来ない。

 人知を遥かに超えた崇高な意思。それが地球なのだ。


「奴の進路はどうなっている?」

「真っ直ぐ日本に……。東京に向かって来てるよ……」

「宇宙人も異世界人も、本当にみんな日本が好きだよな!」


 闇は猛スピードで日本へ向かっていた。

 このままでは後3時間で上半分が消滅。

 東京へ到達するとの計算だった。


「恐らく未来で闇を止めた人物が、日本に居たからでしょう」

「なるほど。未来の意志と融合して、真っ先に厄介者を退治って訳か!」

「申し訳ございません……。私が過去に来たばかりに……」


 未来を救うため過去へやって来たアリスだったが。

 その結果過去の状況を、悪化させた。

 自責に囚われる彼女に、光夜は肩に手を置いて励ます。


「いずれ戦う相手だ。速いか遅いかの違いだ」

「でも……。この状況で! まだ準備も出来ていないのに!」

「勝つさ俺達は。今までどんな相手にも、勝利してきたからな」


 宇宙AIや異世界の魔王。古代人の支配者。

 どれもスケールの大きい敵だったが、光夜達は勝利して来た。

 だからこそ今回も勝たなければならないと、心に刻んでいる。


「異能力、火薬、ビーム砲。使えるものは全部使うぞ!」


 光夜は全員に、リーダーとして演説をした。

 彼は先頭に立って、闇と対峙するつもりだった。


「これが俺達の最大の戦いだ。あの異能に絶対に勝つぞ!」

「ああ。お前にそれを言われると、不思議と立ち向かえる気がするぜ!」

「古代文明もぶっ壊したしね。地球の意思くらい、爆破させてやるわ!」


「インフレの力を甘く見ないでよね。私の処理能力は地球を超える!」

「勝つよ私達は。今までも日常を守る為に……!」

「チームムーンライト! 出撃準備だ!」


 皆はこの途方もない戦いの、準備を開始した。

 ここで負ければ人類は確実に滅亡する。

 その未来は1度実際にやって来たのだから。


「スーパーマキシマム砲、装甲列車の使用許可を取る!」


 光夜はリーダーとして、ガードの情報部に事情を説明した。

 敵の正体。今起こっている出来事。

 信じがたいが信じざるを得ない事態が、今起きている。


「サテライトレーザーも使用許可が出た! 瑠璃、頼む!」

「了解! 何処にでも撃てるようにセットしておく」


 緊張感が高まる中、時間は流れていく。

 既に闇は日本海域に侵入している。

 ここでガード日本支部に、異常を伝えるアラートが鳴った。


「リーダー! この場所に急速接近する存在が!」

「何者だ? 識別を確認しろ!」

「データ照合。昨日の夜に現われた、ヘルメットの奴だよ!」


 ヘルメットの人物は、背中にジェットパックを付けて飛んでいた。

 現代科学ではありえない速度を持った、未来の技術だった。

 ヘルメットの人物は、ガードの反撃を阻止しようとやって来たのだ。


「まだ迎撃態勢は整っていない……。俺達が出るぞ!」


 光夜達は装備を整えて、外へと向かった。

 ヘルメットの人物は、ガード支部の近くで着陸する。

 そのまま手のキャノンを発射しながら、辺りを破壊する。


「いきなり近所で暴れやがって! 郷に入っては郷に従え!」


 バイクで走りながら、光夜はエネルギー弾を発砲した。

 ヘルメットの人物は、剣でその攻撃を弾く。

 彼はそのまま光夜に向かって、キャノンを発射した。


「そうだ! こっちに向かって来い!」


 光夜はバイクを反転させて、そのまま走らせた。

 ヘルメットの人物が光夜の事を、追跡する。

 彼には意思がないため、本能的に動く事しか出来ない。


「よし! これでもくらえ!」


 光夜はミラーから、敵の位置を確認した。

 そのままスイッチを押して、地面に埋めたダイナマイトを起動する。

 仮面の人物の足元で爆発させる。


「どうだ。これなら……」


 光夜が背後を確認すると、無傷なヘルメットの人物が煙から現れる。

 彼は剣を振り、風圧で煙を飛ばした。


「嘘だろ……。全然効いてねえ」


 ヘルメットの人物は、再び剣を振った。

 その風圧で光夜のバイクが飛ばされる。

 光夜は脱出して体勢を立て直すが、バイクが壊れる。


「一欠けらと言えども、地球の意思と言うだけあるのか……」

「……」

「へえ。地球って言うのは、案外不愛想なんだな」


 光夜も剣を引き抜いて、ヘルメットの人物と向かい合う。

 ブルーヒートを発動して、最初から全力で戦いに挑む。


「さあ勝負だ! 地球!」

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