最終章 夜を照らす光

第1話 絶望の未来

 太陽は闇で隠され、地表は氷で覆いつくされた世界。

 金髪ロングの少女と、黒いコートを来た少年が走っていた。

 防寒着で身を覆いながら、人が消えた都市を必死で移動する。


「ハア……。ハア……。ユウ。あと少しだけ、頑張りなさい……」

「姉さん……。頑張ってはいるけど、そろそろ限界だよ……」


 姉の方が手を引っ張り、無理矢理弟を走らせる。

 あの闇に追いつかれる訳にはいかない。

 人類の希望が2人に背負われていた。


 最後に現われし者が出現して、1年が経過した。

 人類は最大の準備で抵抗したが、全て無駄に終わった。

 全ての戦力は奪われ、人類は既に3桁程しか存在しない。


「駄目だ姉さん……。もう追いつかれる……」

「弱音を吐かないのではありません! 必ず生き残るのです」

「生き残るのは姉さんだけで良い。貴方はみんなの希望だ」


 闇は確実に2人に近づいていた。

 ユウと呼ばれた少年は、姉の手を無理矢理解いた。

 手にしたマシンガンを片手に、反対方向を振り向く。


「俺が囮になる。姉さんはその間に走るんだ!」

「無茶です! その怪我では生き残れません!」

「だから足手まといなんだろうが。ここまでの犠牲を無駄にするなよ!」


 少年はマシンガンを闇に発砲しながら、走り出した。

 闇はマシンガンの弾を飲み込み、押しつぶしていく。

 だが僅かに勢いが弱まり、近づく速度が下がる。


「人間を侮るなよ!」

「ユウ! 駄目です! 死にます!」

「振り返るな! 走るだ! 姉さん!」


 少年は死を覚悟して、闇に突撃した。

 その決意を無駄にしない為に、少女は足を進めた。

 苦渋の決断を下すのは、これが初めてではない。

 

 例え身内が犠牲になってでも、誰かがやり遂げなければならない。

 そうしなれけば、人類に未来はないのだから……。

 これは少し未来の話。最後に現れる者が滅ぼした、地球の話だ。


──────────────────────────────


 徹夜の報告書を書き終えて、巫女は眠りについていた。

 ディスクに顔を伏せて眠る巫女。既に夢の世界へと旅立っている。

 不思議な夢が巫女を包み込んでいた。


 見たこともない金髪の少女と、黒髪の少年の手を握っている。

 2人にママと呼ばれて甘えられ、巫女も可愛がっている。

 3人は宇宙から、地球を眺めていた。


「ママ! 早く早く!」

「はいはい。今行きますよ」


 少年の方は好奇心旺盛で、はしゃぎっぱなしだった。

 少女の方は落ち着いているが、感動をメモに取っている。

 3人は美しい青い星を、外から眺めていた。


「お母さん。もう直ぐ、大きな闇が地球を包み込む」

「え?」


 急に少女の声が大人びて、不吉な事を口にした。

 巫女は思わず最後に現れし者の事を、思い出す。

 少女の言葉に反応して、地球が影に覆われた。


 影はそのまま地球を飲み込む。

 そのまま女性らしき、不気味な笑い声をあげた。


「地球が……! 闇に飲み込まれていく!?」

「この運命を変えられるのは、お父さん。貴方の夫だけ」

「夫? でも私まだ結婚して……」


 少女の言葉は何処か真実味があった。

 だが巫女には理解が追い付かない。


「お願い! 未来を変えて! このまま待つのは、破滅のみ……」


 徐々に少女の姿がぼやけて来た。

 巫女は頭痛を感じながらも、目を覚ましたのだ。

 気が付けば黒いコートが、布団代わりにかけられてある。


「暖房があるとはいえ、風邪ひくぞ」


 光夜が温かい飲み物を、ディスクの上に置いた。

 コートをかけたのは、彼だった。

 巫女は目を擦らせながら、鮮明に覚えている夢の事を思い出す。


「ちょっと頭がぼやけただけだよ」

「その割には気持ちよさそうに、スゥスゥ言っていたけどな」

「う~ん。疲れが溜まっていたのか、急にぼや~っとしてきて……」


 眠かったのは事実だが、巫女自身も何故寝たのか分からない。

 報告書を書き終えた後、気が付いたら眠っていたのだ。

 随分長い夢を見ていた気がするが、実際は1時間も経過していない。


「凄く変な夢を見た。地球が闇に覆われる夢を」


 巫女は夢の内容を光夜に話した。

 光夜は特に笑ったりもせず、黙って話を聞いている。


「そいつは予知夢かもしれないな」

「はあ? アンタそんなの現実にあると思っているの?」

「異能力がある世界で、その言葉はセンス0だな」


 この世界にはどんな不思議も、起こりうる。

 その為未来予知が珍しくもない。

 巫女が見た夢に、光夜は不吉な予感を抱く。


「クイスト人の言葉のせいで、頭がこんがらがっているんじゃないか?」

「どっちにしろ、正夢にはしたくないものね」


──────────────────────────────


 巫女が夢を見ていたのと同時刻。

 日本上空に時空の歪みが生じていた。

 そこから金色の光と、黒い闇が地面に落下する。


 闇はヘルメットを被った男性に変化する。

 光は剣を持った金髪の少女へと変化する。

 ガードはこの異変に気が付き、直ぐに落下地点へと向かった。


「こちら異能犯罪対策部隊ガードだ!」


 特殊部隊は銃を構えて、男性を取り囲んだ。

 少女の方は直ぐに両手を上げて、確保された。

 だがヘルメットの人物は、剣と銃を向けて抵抗を示す。


「……」


 男性は無表情のまま、剣で特殊部隊の銃を切り裂いた。

 一瞬の出来事で、全員が反応出来なかった。

 直ぐに新たな装備を取り出そうとしたが、それより早く男性が引き金を引く。


 青色のレーザが発射され、特殊部隊の1人が吹き飛んだ。

 崩れた陣形に向かって、男性は走って行く。

 すぐさま陣形を整えて、対抗しようとした。


「追ってはいけません! そいつは現代の技術では勝てません!」


 少女の言葉に気を取られ、特殊部隊は男性を取り逃がした。

 少女は相変わらず両手を上げて、無抵抗を示す。


「この時代のガードの皆さん。始めまして。私は工藤アリスです」

「この時代? 君は別の時代からきたのか?」

「はい。今より少し未来から来ました。所属はチームムーンライトです」


 少女アリスはこれから起きる事を説明した。

 今から3年後に巨大な闇が、地球に出現する事。

 1度はある人物によって退けられるが、16年後に復活を果たす事。


 ある人物は相打ちによって、闇を退けたため存在しない事。

 未来では闇に対抗する術がなく、人類は破滅している事。

 信じられない事ばかりだが、少女の言葉を特殊部隊は真面目に聞いていた。


「先程のヘルメットの男は何者かね?」

「奴は闇が死体に乗り移った姿。私を追って、この時代までやってきました」


 先程の人物の正体は、闇に精神を乗っ取られた未来人だとアリスは語る。

 彼女の言葉は信じがたいが、否定する材料も持っていなかった。

 特殊部隊の隊長はこの事を上司に報告して、対応を待つことにした。


「にわかには信じがたいが、時空の歪みが発生したのは事実」


 特殊部隊の隊長は、一個人として彼女の話を信じた。

 だがガードとして鵜呑みにするかは、上司の判断に任せている。

 現場判断で決めて良い事ではない、重要な選択だからだ。


「君の身柄はこちらで預かる。この時代に戸籍もないだろうし」

「分かりました。私の情報をどう扱うかは、貴方達に任せます」

「そうだな……。この一件はムーンライトに任せるとしよう」


 アリスの身柄をムーンライトに預けて、捜査を担当してもらう。

 彼女の所属を信じた、隊長の配慮だった。

 アリスはお辞儀をして、その配慮に感謝した。


──────────────────────────────


「と言う訳で、うちで未来少女を預かる事になった」

「工藤アリスです。宜しくお願いします」


 光夜に紹介された少女を見て、巫女は驚いた。

 夢に出て来た少女に、そっくりだったからだ。

 苗字から考えて、自分の娘かもしれないと彼女は思っていた。


「色々聞きたい事はあるけど、3年後に現れるんだな?」


 混乱する皆をまとめる様に、優也が口を開いた。

 アリスの出生など、聞きたい事はあるがそれは置いて。

 重要な事項の確認と、今後の対策を重要視した。


「はい。ですが私がこうして皆さんと接した事で、歴史が変わりました」

「一緒に出て来た事の奴も気になる。案外復活が早まるかもな」


 光夜は深刻そうな表情で、その言葉を出した。

 巫女の予知夢の様なものが、気になっていた。

 

「しかも3年後に現れたとしても……」

「撤退させるのがやっとでした」


 アリスの言葉に、全員がショックを受けていた。

 最後に現れる者に、皆で力を合わせれば勝てると希望を抱いていた。

 だが未来の状況が、その希望をへし折っている。


 とても信じがたい事だが、不思議と皆信じる事が出来た。

 彼女が嘘をついていない事は、クイスト人の言葉からも理解出来た。

 最後に現れる者は3年後に現れる。そして全てを飲み込むと。


「ねえ。みんなどうするつもり?」


 瑠璃の質問に、全員が口を閉ざした。

 未来での出来事は、それだけ彼らに衝撃が大きかったのだ。


「人類はこのまま黙って滅びるのを待つ、生き物じゃないさ」


 光夜の言葉に、全員が何処かホッとする。

 彼の言う通り、滅びが分かっていて回避しない理由がない。

 どうするかの答えは、あっという間に頭をよぎる。


「戦おうぜ。今はその為の準備をするんだ」

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