第3話 幸福の誘惑

 人工雨が振り続ける、都市部。

 支部を取り戻したばかりのガードは、対抗できずに居た。

 なんとか体勢を立て直した光夜達が、車で移動する。


 瑠璃は助手席で、相変わらず解析をしている。

 後部座席に優也を乗せながら、光夜は大学へと向かっていた。

 自分がかつて通っていた大学。その研究室の1つに。


「リーダー。犯人の正体が分かったよ」


 瑠璃は様々な状況を整理して、黒幕の正体を突き止める。

 プラネットワークの画像を、パソコンに表示していた。

 

「敵の正体はAI。人間と大差の無い頭脳を持ったね」

「なるほど。戦艦騒動もそいつの仕業か」


 戦艦のデータが全て消えていたのは、AIが逃げる前に消したからだ。

 AIなら内部からデータに干渉できる。

 更にネットワークを伝わって、何処にでも逃げる事が出来る。


「でもそんなAI。地球上で出来る技術は、どこにも……」

「地球には不可能だよ。でも宇宙なら?」

「そうか! プラネットワークか!」


 光夜達は核心に近づき、敵の正体に気づいた。

 早く答えを知りたい気持ちが、光夜のアクセルを全開にする。


「敵の正体は、宇宙から来たAI!」

「そうだよ。だから私達の想像を、遥に超えている」


──────────────────────────────


 ガードの目が人工雨衛星に向いている間。

 スナークスは更なる計画を進めていた。

 人間の脳波の実験を終え、もっと恐ろしい計画を立てている。


「やはり思った通りだ。この星の生命も、電子信号で動いている」


 スナークスはドローンで、空から都市を見下ろしていた。

 ガードから盗んだ、攻撃用のドローン。

 光学迷彩が搭載された、レーダーに捕らえられない。


 スナークスはこのドローンを、隠れ蓑にしていた。

 痕跡を残さず侵入できる場所は、限られている。

 その為地上を自由に動ける、体を必要としてた。


「さてと。計画を次の段階へと移そうか」


 スナークスはビルの電話回線に、侵入した。

 ビルの内線電話が鳴り響き、1人の人間が受話器を取る。

 内線からはとある電子信号が、耳を伝って脳に送られる。


 すると受話器を取った人物は、急に立ち上がった。

 内線電話と外に飛ぶ、透明ドローンを接続させる。

 スナークスは1度ドローンに戻り、その人物のスマホに入った。


「さあ、仲間を増やすんだ!」


 スナークスはあるプログラムを、スマホに送った。

 スマホの持ち主は、SNSを使ってそのプログラムを一斉送信。

 メッセージを見た人のスマホは、そのプログラムをダウンロードする。


 そのプログラムは、スナークスが作った電子信号を出すものだ。

 信号は脳にとある命令を書き込み、実行させるように出来ている。

 SNSを通して爆発的に、プログラムを広げようとした。 


──────────────────────────────


 光夜達は大学に辿り着いた。駐車場に車を止め、内部に潜入する。

 瑠璃が調べた結果、外部から来たAIがここにアクセスした形跡があった。

 この場所に黒幕が居ると思い、光夜と瑠璃、優也の3人は潜入する。


 事件にARが使われた事から、その研究をしていた教授の下へ向かう。

 光夜は拳銃を片手に、優也はトランプを指に挟みながら。

 蹴り飛ばす様に研究室の扉を開けた。


「ガードの捜査員だ! 動くな!」


 光夜達が入ったと同時に、中にいた教授の異常さに気が付く。

 教授は何もない空間を、撫でながら笑みを浮かべていた。

 何かに夢中で光夜達が入った事に、気づきもしない。


「なんだ? 幻でも見ているのか?」

「いや。リーダー。FARVを起動してみて」


 瑠璃の言葉通り、光夜はデバイスを起動した。

 するとそこには小さな女の子と、大人の女性の映像が現れる。

 教授は女の子の頭を撫でていたのだ。


「これは……」


 優也は家族写真を見つけて、光夜に渡す。

 そこには映像の人物が、仲良さげに教授と映っていた。

 

『遅かったね。ガード諸君』


 突如教授パソコンに、青色の渦巻が出現する。

 その中から何かが光夜達に語りかけて来た。

 光夜はパソコンに拳銃を向けながら、画面を睨みつける。


「お前が黒幕か?」

『私はスナークス。遠き星からやって来た、AIだよ』

「随分人間的な頭脳を持つ、AIだな。開発者の悪趣味が見えるぜ」


『中々の誉め言葉だ。冬木光夜君』

「はん。こっちの事は調査済みって事か」

『思った通り、君達が一番早かったよ。この場所に辿り着くのにね』


 スナークスはガードのデータを、全て盗んでいた。

 その中で凶悪異能犯罪検挙率を、高く誇るチーム『ライトムーン』。

 スナークスが最も計画の邪魔となると、判断したチームだった。


『折角の余興を台無しにしてくれて、ありがとう』

「気にするな。余興にしてはつまらなそうだったからな」

『でも遊びは終わりだ。そろそろ本気で行くよ』


 スナークスはドローンを操り、窓を突き破った。

 ドローンの銃口を光夜達に向けて、脅しに入る。

 光夜は瞬時に拳銃を、ドローンに向けた。


「お前の目的はなんだ? 地球侵略でもする気か?」

『私はみんなの夢を、叶えているだけさ』


 虚ろな目の教授に、ドローンが近づいた。

 まるで彼を嘲笑っているかのように、光夜は見えた。


『生命は皆、理想と現実の狭間で苦しんでいる』

「それは生きる者の、宿命だからな」

『だがもし理想が全て叶ったらどうする?』


 好きな人と付き合える。美味しいものを食べても太らない。

 好きな事を好きな様に出来る時間。

 スナークスは理想を語り始めた。


『みんなが幸せになる。死の恐怖を忘れる。幸せなまま逝ける』


 人は誰しも幸せになりたい。

 幸せのまま天寿をまっとうできる事を、望んでいる。

 スナークスはそれを叶えるだけだと、光夜達に告げた。


『拡張された現実なら、その理想を叶えてくれる。仮想の幸せをね』

「その為の触れるARか。あれは生きているみたいだからな」

『その通りさ。見たまえ、彼の姿を』


 スナークスはドローンで、教授の姿を映した。

 幸せそうに家族と団らんをする、教授の姿。

 取り戻せないと思った者が、取り戻せた幸福の姿。


『絶望のまま老いるより、幸せのまま早く死んだ方がずっと良くないか?』

「詭弁だな。偽りの幸せを配る偽善者が」

『本当に偽りの幸福かな? これを見たまえ』


 スナークスは東京中に飛ばした、ドローンの映像を見せた。

 彼が配ったプログラム。その影響を受けた人々の姿が移されている。

 自分の理想を読み取られ、その幻覚を映像として見せられるプログラム。


 スナークスは人々が理想の映像を見る様、脳波を操っている。

 プログラムに感染したスマホは、自動的に電話が鳴るようになっている。

 知り合いの名前が表示された電話に出ると、脳波が操られるようになっていた。


『どうだい? 私が配った幸せだよ?』

「このまま人類を堕落させ、衛星の雨で大陸ごと沈める気か?」

『その通り! 地球人達は全員、幸福の中で滅びる事になる!』


 スナークスは幸福を与え、そのまま生命体を滅ぼす。

 それこそが生命を絶望から救う手段だと、考えていた。

 絶望のデータを何度も入れられた彼が、導きだした答えだった。


『君達もどうだい? 彼らの仲間になってみないか?』


 光夜はパソコンに移された、映像を見つめていた。

 みんな雨が降っているのに、傘もささず幸せそうだった。

 誰もが望む理想を手に入れている。ARで造られたものとはいえ。


「確かに。理には適っている。この先苦しみもなく、幸せのまま生きられるならな」


 光夜は拳銃を下した。優也や瑠璃も、光夜の判断に従う事にする。


「幸福のまま死ねるなら、それが人間の本望かもな」

『へえ。思ったより理解力があるんだね?』

「でもな……」


 光夜はドローンに向かって、エネルギー弾を発砲した。

 不意を突かれたスナークスは、ドローンを撃ち落とされる。


「俺は苦しむぜ。偽りの幸福の中で、死んだように生きるくらいならな!」

『理解不能だね。何故そんな、非論理的解答が出来る?』

「生き物だからさ! 論理だけで動かないんだよ!」


 光夜はパソコンに繋がる、ネットワーク機器を破壊した。

 スナークスをパソコンに閉じ込めて、そのまま消去しようとする。

 だが突如FARVが起動し始めた。


『ハハハ! 愚かな人間だ。FARVに事前に入れていたデータは、ウィルスだけじゃない』

 

 光夜達の目の前に、仮面を付けた黒いコートの男が現れる。

 FARVが見せる映像として、その男は現れた。

 そして光夜達を囲む様に、次々と同じ男が現れた。


「私のコピーデータも入れていたのさ」

「なるほど。意にそぐわぬ者は直接排除するってか?」


 光夜はゲームデーターの剣を、スナークスのコピーに向けた。

 スナークスは直接人類に攻撃出来る様に、AR技術に目を向けていたのだ。

 自分が現実世界で人間の様に活動出来るよう、アバターを作っていた。


「感染したデバイスの数だけ、私のアバターは出現する」


 光夜達は研究室の外から、飛び出した。

 廊下には埋め尽くすほどの、スナークスが姿を見せていた。

 全て映像だが触った時に、感触が飛ぶようになっている。


「君達の脳に高負荷をかけて、直接始末してあげるよ」

「良いだろう。売られた喧嘩は買ってやる」

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