第2話 現実かゲームか

「よし。この辺りなら、広いから良いだろう」


 光夜と瑠璃は2人で、拾い公園に来ていた。

 現実を舞台とするARMMOなので、あらゆる場所がフィールドだ。

 だが傍から見れば、変な動きをしている集団になる。


 光夜は白い目で見られるのが嫌で、人が少ない場所を選んだ。

 瑠璃の方は特に気にする様子もなく、デバイスを装着する。


「運動不足解消に、丁度良いゲームだね」

「俺はお前と違って、運動不足じゃねえよ」

「酷い! 私だって2カ月に1回、ジムに通っているんだよ」


 光夜は瑠璃の言葉を、軽く受け流した。

 自身もFARVを起動して、ARを堪能する。

 手には剣が握られており、実際に触る感触がある。


「いつ見ても凄い技術だな」

「リーダー、リーダー。早速下から来るよ」

「え? うぉ!」


 瑠璃の言葉通り、下の地面が割れてモンスターが飛び出して来た。

 映像でリアルに再現されたモンスター。

 痛みも僅かながら再現されたものになる。はずだった。


 だが光夜は下から出てきたモンスターに、本当に吹き飛ばされた。

 地面に着地するも、その衝撃波リアルそのものだった。


「なんだ? この痛み……。この衝撃……。本物だぞ?」


 光夜は早速ゲームに違和感を持つ。

 いくらリアルに再現された映像とは言え、本物の物理衝撃が来るものかと。


「リーダー、何かおかしいよ。私の知っている、ゲームじゃない」

「感じれば分かるよ。何だあれ?」


 地面から飛び出したモンスターは、空飛ぶサメだった。

 サメは飛び回りながら、ビルに体当たりをする。

 サメがビルを貫通すると、ビルは光夜達に向かって倒れて来る。


 2人は慌てて倒壊するビルの瓦礫を、回避する。

 その衝撃波本当に倒れたかのような、衝撃だった。


「瑠璃! これはマジの奴だ!」

「そんな事あり得ないよ! アレはARの映像のはず……」

「ならFARVを外して、直視しろ!」


 光夜は目の前の光景が、現実か確かめようとした。

 だが拡張現実をオフにする、ログアウト機能が失われた。

 知らぬ間に装着されていたFARVも、姿を消していた。


「どうなっている? 何が起きているんだ?」


 光夜は目の前の光景を信じられない。

 巨大なサメが本当に表れて、街を壊している様にしか見えない。

 サメは光夜達を無視して、積極的に街への攻撃を開始した。


──────────────────────────────


 ガード東京支部のネットワーク管理課。

 ネットに繋がっているあらゆる装置を管理する部署だ。

 エキスパートが揃ったこの部署で、タイプ音が鳴り響いていた。


「何が起きている!? 状況は!?」

「外部から猛スピードでハッキングを受けています!」

「第2、第3ブロック突破。物凄い速度で、侵入してきます!」


 エキスパート達が対応しても、間に合わない侵食度。

 ガードの施設が乗っ取られようとしていた。

 

「日本中のFARSと言う、端末から攻撃を受けています!」

「そんな! あり得ない!」

「課長! スーパーマキシマス砲がチャージ開始!」


 ガードの施設が一部乗っ取られ、兵器が勝手に動き始めた。

 その中でも最大威力のスーパーマキシマム砲が、乗っ取られた。

 それだけではなく、隔壁が勝手に閉じていく、


 通信機も乗っ取られて、現状を報告する事も出来ない。

 急いで回線を取り戻そうとするも、物凄い数のハッキングで対応できない。

 

「駄目です! 完全に乗っ取られました!」

「スーパーマキシマム砲発射まで、後5分!」

「砲口は都市部に向けられています!」


 小惑星を消し飛ばす威力の、スーパーマキシマム砲。

 地上に打てば、都市部が消し飛ぶ。

 それを阻止するには、回線を取り戻すしかない。


 だが回線を取り戻すには、隔壁を超えた先の施設に行く必要がある。

 そこに一流のハッカーが行く事で、初めて施設を取り戻せる。

 異能力者の力を通さないシャッターを、通り抜ける術はない。


「一体誰がこんな事を……」


──────────────────────────────


「お前、酔うぞ」


 光夜は車のアクセルを踏みながら、瑠璃に指摘した。

 瑠璃は車の中で、パソコンをタイピングしていた。

 2人は空飛ぶサメから逃げながら、状況を確認しようとしていた。


「やっぱり。私達のFARV、ウィルスプログラムに侵されている」

「変なサイトにアクセスした記憶はないけど」

「リアルな痛みも衝撃も、脳を誤認させる事で無理矢理再現している」


 光夜が吹き飛ばされた理由以外は、説明が出来る状態だった。

 何者かが脳波に飛ばす電子信号を書き換えているのだ。

 脳に直接アクセスするFARSだからこそ、その刺激を再現できる。


「質量がある理由は分からないけど、アレは間違いなく映像だよ」

「でも実際町は破壊され、俺達は追い回されているぞ!」

「でも生体反応もなし。異世界の魔物とも考えられない」


 瑠璃が解析している間も、サメが口から火球弾を飛ばす。

 光夜はハンドルを回しながら、必死に回避する。

 瑠璃は遠心力も気にせず、解析を続けていた。


「このデバイス。勝手に動いて、ガードの施設を攻撃している」

「マジかよ。そんな危険なプログラム誰が何の為に作ったんだ?」

「理由は分からないけど、誰が作ったか分かる。FARVの制作者だよ」


 瑠璃は最新のセキュリティーソフトを、インストールしていた。

 そのソフトを通り抜けて、ウィルスが感染する可能性は低い。

 そこから導き出される答えから、瑠璃は状況を推理した。


「多分発売される前から、予め仕組まれたプログラムだよ」

「仕様通りって事? 開発者悪質だな!」

「リーダー。今強制終了する。衝撃を受けた答えは、後ろにあるはずだよ」


 瑠璃は高速タイピングで、FARVを強制終了させた。

 すると消えていたはずのデバイスが、2人の耳に現れる。

 

「感触を消して、視覚情報を書き換えただけだったみたい」

「なるほど。トリックが分かれば、どうって事無いな!」


 光夜はサイドミラーから、背後を見た。

 先程までサメだったものは、大量のドローンに代わっている。

 ドローンが実際に周囲を攻撃して、物理現象を見せていた。


「アレってガードの攻撃用ドローンじゃん」

「なるほど。それなら簡単だよ」


 瑠璃は高速でドローンを、ハッキングした。

 そのまま自爆装置を発動して、背後のドローンを爆破する。

 爆風で車はやや前方に吹き飛ばされる。


「リーダー最悪だよ。ガードの施設が乗っ取られている」

「マジかよ……。あそこにはヤバい兵器がタンマリあるぜ」

「特にヤバいスーパーマキシマム砲がチャージ中。後5分で都市部が吹き飛ぶ!」


 光夜達がガードの支部に行くのは、どれだけ急いでも10分はかかる。

 更に施設を取り戻すには、ハッキングする時間も必要となる。

 光夜はここで、丁度駅の車庫がある事に気が付いた。


「瑠璃。アレ買い取った!」

「了解! 本当は良くないけど……。鉄道会社の人、ごめんなさい!」


 瑠璃はハッキングをして、コンピューター制御の電車を走らせた。

 光夜は車から瑠璃を抱えて飛び出し、走る電車に飛び乗った。

 ガラスを割って瑠璃を放り込み、光夜は屋根の上に上る。


「駄目だよリーダ―! これでも4分かかる! そんな時間じゃ……」

「施設を取り戻すのは後だ! 取り合えず衝撃に備えてろ!」


 瑠璃は電車を最高速度まで上げて、必死で走らせた。

 光夜がここで、2丁の銃を取り出す。

 グラップ銃と呼ばれるもので、発射すればロープを放出する。


「緊急事態だ! 誰も屋上にいるなよ!」


 光夜はガードの施設を確認すると、剣を取り出した。

 異能力を使って青い斬撃を、電車の進行方向へ発射。

 線路が壊れて穴が開く状態になる。


「瑠璃! 最前列だけ切り離せ!」

「了解!」


 瑠璃は光夜の指示通り、最前列の車両だけ切り離した。

 光夜は速度に乗ったまま、前方の穴にグラップ銃を発射。

 ロープを穴の両端に引っ掻けて、異能力を使って思いっきり引っ張った。


 すると線路が上方向に、曲がり始める。

 列車は猛スピードで曲がった線路を走り、そのまま上空へ。

 光夜はガード施設と逆方向に、剣先からの光線を放った。


「これで止まれ!」


 ガードの施設スレスレの所で、光夜は電車から飛び降りる。

 電車はスーパーマキシマム砲の砲口へ、飛んでいく。

 そのまま砲口を踏みつぶして、発射を阻害する。

 

 行き場を失ったエネルギーがその場で暴発する。

 ガードの施設の屋上が、大爆発を起こして崩れ去った。

 幸いにもシャッターが下りていたので、内部に衝撃波は知らない。


「一番上に、メインコンピュータがあって助かった!」


 光夜はそのまま屋上から飛び降り、メインコンピュータに向かう。

 そこにUSBを刺して、瑠璃がハッキング出来るようにする。

 爆発が合図になって、瑠璃はハッキングを開始。


 高速ハックで、次々とシステムを取り戻していく。

 隔壁は開けられ、屋上に自動消火システムが作動。

 危機一髪で都市部の消滅を回避した。


「ふぅ……。今回何円使った?」


 光夜が壁にもたれかかった、膝を曲げた。

 なんとか危機を回避し、ホッと一息つく。

 そこに一滴垂れる液体があった。


 次の瞬間天気が激変して、大雨が降り始めた。

 雨のおかげで爆発した部分が消火される。

 だが先程まで晴天。光夜は妙な気配を感じた。


『リーダーヤバいよ! これ火星衛星上にあった、海造る奴!』


 取り戻した回線で、瑠璃が通信を開始する。

 上空に違和感を覚えた瑠璃は、瞬時に解析を開始。

 すると日本上空に、人工衛星が止まっているのがみえた。


『このままじゃ水没は間違いなしだよ!』

「一難去ってまた一難かよ! 何つぅ日だ!」


──────────────────────────────


 大学の研究室。教授は変わらず、スナークスと会話していた。

 彼の集めたデータと、自分の技術。

 この2つを合わせれば、家族を取り戻す事が出来る。


「遂に完成したぞ。質量を持った映像だ」


 教授は長い研究の末、遂に触って温かみも感じるARを開発した。

 そのアバターの1つに、妻と娘の人格AIを宿す。

 AR限定とはいえ、家族を取り戻そうとしていた。


『おめでとう。ついに完成させてくれたね!』


 スナークスがパソコン内から、祝福の言葉を向ける。

 2年もかけたプロジェクトが、遂に完成しようとしていた。

 自分が設計開発したFARVを装着して、遂にその時を迎えようとする。


「スナークス。初めてくれ」

『教授、良くやってくれたね。家族と再会、本当におめでとう。そして……』


 スナークスは開発した、妻と娘のAIを教授に渡した。

 教授は急いでAIを映像に組み込む。

 AR技術を使って、教授は家族と再会をする。


 その時にパソコンから、スナークスのデータは消えていた。

 スナークスはドローンカメラから、教授の様子を見つめていた。


「永遠に幻の中を彷徨うが良い! アハハ!」

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