3章 AIからの侵略

第1話 誘惑者

 海上に突如現れた、武装船。

 機関銃やミサイルで港を攻撃しながら、抵抗を続ける。

 謎の集団によって作られたこの船に、ガードは対抗していた。


「こちらKM! 敵の砲撃が激しい! ヘリじゃ近づけない!」


 ヘリの操縦士、工藤巫女が通信で叫んだ。

 上空にも弾を飛ばす武装船の影響で、航空機を飛ばせない。

 ヘリからの狙撃は困難な事を、巫女は告げた。


『問題ない! 地上から突っ込む!』


 チームリーダー、光夜が通信で答えた。

 物凄いエンジン音と共に、船に近づくバイクが空から見えた。


「アンタ、一体何をする気!?」

『なにって……』


 光夜はバイクにありったけの力を込めて、ウィリーを開始。

 そのまま港の端から高く飛ぶ。

 発砲する弾を弾きながら、バイクで船に体当たりをした。


 船は真っ二つに割れて、各所から大きな爆発を上げる。

 船の上に着地した光夜は、沈む前に調査を開始。

 船は完全にAI制御で、人が乗っている気配がない。


「またAI制御の兵器……。今月で3回目だぞ」


 光夜はそのまま爆発する船から、脱出をする。

 この奇妙な戦艦とは、既に2回も戦闘していた。


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 とある大学の研究室。教授の男がパソコンに食いついていた。

 先日不幸な事件で妻と娘を亡くした教授。

 その悲しみから逃げる様に、彼は仕事に没頭する。


「ん? うん?」


 突然パソコンの画面に、ノイズがかかった。

 ディスプレイの故障かと思い、しばらく様子を見ていた。

 ノイズが酷くなると同時に、パソコンの画面が崩れていく。


 画面が切り替わると同時に、ノイズが完全に消えた。

 画面は渦が動きながら、表示されていた。

 渦の中心に青色の球体が、表示されている。


『貴方の言いたい事を代弁しよう。なんだこれ?』


 画面の向こう側から、『そいつ』が語り掛けて来る。

 異様な光景に逃げ出すと言う発想が欠ける、教授。

 ただ唖然としながら画面を見つめていた。


『私の名前はスナークス。遠い場所からやって来た存在さ』

「私に……。何の用だね?」

『貴方の願いを叶えにやって来た。これだよ』


 画面ある画像が表示される。

 それは教授の家族写真だった。

 もう戻らない幸せの頃の、家族の画像だった。


『貴方は取り戻したいのだろ? かつての幸せを』

「だが、それは叶わぬ願いだ……」

『叶えられるさ。私、いや貴方と私ならね』


 教授の視界に魔物の様な存在が、出現した。

 本物の魔物ではなく拡張現実、【AR】の存在だ。

 この研究室の名前は、拡張現実研究室だった。


『私が持って来たものと、貴方の技術が揃えば、願いは叶う』

「私の技術……。FAR(物理的拡張現実)の事か?」

『その通り! やはり貴方は最高のパートナーだ!』


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 休日。光夜は瑠璃に連れられて、カフェに来ていた。

 瑠璃は最新のAR端末、FARVに夢中だった。

 耳に取り付けるだけで脳を刺激し、ARを見せてくれる。


 数日前に発売された端末で、世間を熱狂させていた。

 脳を直接刺激すると言う革新的な技術で、感じられるARを実現。

 物理的に触る感触を得られるARを、世間はFARと呼んでいた。


「なんで休日に、お前のゲームを手伝わないといけねえんだよ」

「ARって凄いんだよ! リーダーもやってみたらわかる」

「昔ラノベ映画で見た機械が、実現するとすげぇと思うが……」


 光夜はあまり乗り気がしなかった。興味がない訳ではない。

 先日から起きている事件が気になって、休日を満喫できない。

 瑠璃のはしゃぎっぷりを見て、羨ましく感じる。


「やっぱり気にしているの? 戦艦騒ぎ」

「ああ。今月にぶっ壊した戦艦は3隻」


 それらは全てAIで制御された、戦艦だった。

 得体の知れないものにジャックされた、旧式戦艦。


「問題は残骸のログを見ても、制御していたAIが見つからないって事だ」


 AIが制御していたなら、当然ログが残っているはずだった。

 だが戦艦を調べても、あらゆるデータが消された痕跡がある。

 戦艦には誰も乗っていないにも関わらず、データだけは消されていた。


「つまりデータだけが、壊される直前に抜かれた事になる」

「外部からハッキングすれば、可能だけど……」

「俺がいつ戦艦を壊すかなんて、誰にも予見できないはずだ」


 光夜は確かに壊される直前まで、戦艦の動きを確認していた。

 周りは避難していて、人影が居ない事も確認済みだ。

 ならば敵はどうやって、データを抜いたのかが問題になる。


「俺にはこちうが、デモンストレーションに見えてならない」

「何かの前ぶりって事? 考えすぎじゃ?」

「だと良いが……。って、人が大事な話をしてから、ゲームを辞めろ!」


 瑠璃は光夜の話を、半分聞き流していた。

 カフェで開かれたコラボイベントに夢中だった。

 クリアすれば、ゲームに関連した景品が貰えるものだった。


「リーダーだってゲーム好きなはずじゃん。休日ぐらい仕事を忘れたら?」

「確かにその通りだけど……。何か引っかかるんだよなぁ」


 瑠璃が正しいと思いつつ、光夜は休日を楽しむ気になれない。

 だがこれ以上考えても、答えは出ないと改める。

 光夜は今日1日休んで、明日から調べれば良いと考え直した。


「それにしても、凄いガジェットだな。これ」


 光夜はFARVを起動して、拡張現実に触れてみた。

 チョンっと押せば、画面の文字がゆっくりと動く。

 実際に触っているかのような感覚が、光夜の指に戻って来る。


「力加減で速度が変わるとか、物理演算どうなっているんだ?」

「質量もリアルだよね。凄いよね!」


 瑠璃は昔からこの手の技術が、大好きだった。

 10歳の頃にはネットゲームで遊んでいた。

 中学に上がった頃にはメタバースに、没頭していた。


「そのうち球技のボールも、必要なくなっちゃうかもね」

「浸透すればな。そんな時代が来るだろう」


 ちなみのこの世界のスポーツは、異能力使用が禁じられている。

 会場を壊しかねないからだ。


「さて、リーダー! 私のレベル上げに付き合ってよね!」

「はいはい。どうせやる事もねぇし」


 瑠璃はAR型のオンラインゲームに、夢中だった。

 そのレベル上げの為、光夜を引っ張って来たのだ。


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 宇宙に浮かぶ人工衛星。

 その1つが不審な動きをした事に、観測所は気づいた。

 その衛星は火星開拓で重要な役目を担うものだった。


 火星の海を復活させて、酸素を作り出す人工降水機。

 火星周辺を回っていたはずの衛星が、地球に進路を変え始めた。

 衛星は全部で8つ。その内の1つだけが、不審な動きを見せた。


「どうなっているんだ? 何故急に進路が変わった?」


 衛生管理の責任者が、オペレーターに問い詰める。


「分かりません! 突然こちらかの入力を、受けつけ無くなりました!」


 衛星は地球からの信号を無視し、真っ直ぐ地球に向かっていた。

 もし地球で誤作動すれば、海が出来る程の豪雨が振ってしまう。

 それを回避するために、オペレーターは急いで正常に戻そうとした。


「あの衛星はAI管理されているはずだ。ハッキングなど、ほぼ不可能だろ!」

「分かりません! プラネットワークにも、一切の形跡なし!」


 地球からプラネットワークにアクセスすれば、絶対にログが残るはずだった。

 だが人工衛星を攻撃する信号は、『地球から』は発信していない。

 

「後どれくらいで、地球に到達する?」

「スーパーマキシマムエンジンが起動! 後1週間で日本上空に……」

「何って事だ……。絶対に回避するぞ!」


──────────────────────────────


 光夜の休日中は、優也がリーダーとなってチームを指揮する。

 今日も国道に武装したフォーミュラーカーを持ち込んだ、敵と対峙する。

 通常の車では追いつけない為、優也達はへりで追跡をしてた。


「こんな時に光夜が居てくれれば、地上から行けるのに!」


 優也は文句を言いながら、ヘリからダイブする。

 フォーミュラーカーの近くまで、落下する。

 そのままテレポートして、フォーミュラーカーの上に乗っかる。


「シートベルト締めたの? ん?」


 優也はそこでおかしな事に気が付いた。

 カーには確かに人が乗っているが、無反応だった。

 それどころかシートベルトもせずに、吹き飛ばされずに運転している。


「なんだ? 何かおかしいぞ?」


 優也は不気味に思い、牽制として光るカードを投げつけた。

 カードが当たったフォーミュラーカーは、一瞬で姿を消した。

 勿論優也が異能力で消したのではない。勝手に消えたのだ。


「なんだ? 映像……。だったのか?」


 優也は足元の感覚を、思い出した。

 確実に上に乗った、感触を足の裏に感じた。

 間違いなく触れられる何かが、さっきまであった事になる。


 だが優也は更に奇妙な光景を、目撃する事になる。

 先程まで吹き飛ばされていた車も、ノイズがかかったエフェクトが発生。

 そのまま空中で消滅した。


「な、なんだ!? 確かに吹き飛んでいたはずだ!」


 優也はこの時気が付かなかった。

 自分の周囲に見えない、ドローンが飛んでいた事に。

 それはAIによって動く、自動制御ドローンだった。


──────────────────────────────


『やはり貴方は凄い! あんな凄い装置を開発するなんて!』

「いや。君が持って来てくれた、プログラムのおかげだ」


 FARVの開発者。スナークスと教授が、画面越しに会話していた。

 ARのプログラムを開発したのは、教授だった。

 そのほかリアルな物理演算を持って来たのは、スナークスだ。


『予定通り。彼らから、記憶を拝借して来たよ』

「本当に可能なんだろうな? 触れられるAIを作る事が」

『大丈夫。直ぐに出来るよ。その前に……』


 研究室の窓から、1つのドローンが入って来た。

 先程優也が居た現場に現れた、透明なドローンだった。

 

『次のフェーズを開始しよう』

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