クライマックス VS魔王

 都市部の高速道路上。魔王とガロベ、2人の捜査員が睨み合っていた。

 互いのあいだには電流が流れるような痛みが、肌に現れる。

 魔王からの威圧が、2人に言いようのない緊張を走らせた。


「我が部下達が世話になったようだな」


 魔王は片手を前に突き出した。


「つまらない物だが、礼を受け取れ」


 魔王は手から強烈なエネルギー波を放った。

 紫色の光弾が光夜目掛けて、一直線に飛んでいく。

 光夜は背中剣を鞘から抜いて、構えた。


「つまらないもんには……。とりゃあ!」


 光夜は剣を振り回し、エネルギー弾を魔王に跳ね返す。

 魔王は仁王立ちで光弾を受け止める。

 エネルギー弾が爆発するが、魔王には傷1つつかない。


「お気に召さなかったか?」

「ああ。どうせくれるなら、もっと良い物をくれよ」

「ふむ。ではそうしよう」


 魔王は両手を掲げて、エネルギーを溜めた。

 先程の10倍はあるであろう、巨大なエネルギー弾が一瞬出現。

 魔王は両手を振り下ろして、光弾を飛ばした。


「バッター構えて……。打ったぁ!」


 光夜は剣をバットに様に振り回し、光弾を再び跳ね返す。

 光弾は上空に飛んでいき、少し進んで爆発をした。

 

「お互い出し惜しみはなしだ。最終決戦と行こうぜ」

「確かに。貴様ら相手では、遊んでいる暇はなさそうだ」


 魔王は前進に力を込め始めた。

 それに呼応するように、高速道路にヒビが入り始める。

 優也は危険を感じて、車や光夜と共に下道にテレポートした。


 本気になった魔王は、その気迫だけで高速道路を破壊する。

 ゆっくりと下道に降り立つ魔王。そこ体を包む様に紫のオーラが発生する。

 魔王が立つだけで、周囲の物体が圧力をかけられて凹み始める。


「失礼。不完全とは言え、少し力を出し過ぎたみたいだ」

「そう言う台詞は、自分が有利になってから言うんだな」


 光夜はブルーヒートの力を、完全に開放した。

 光夜を包む青色のオーラが増幅する。

 筋肉が少しだけ膨れ上がり、瞳の色が水色に変化する。


「それじゃあ本戦に行くか!」


 光夜は魔王に向かって、走りだした。

 力を解放した事で、常識を超えたスピードで魔王に近づく。

 急激な変速に魔王は一瞬だけ、戸惑いを見せた。


 光夜はその隙に魔王の顔面を殴りつける。

 すかさず反対の拳で魔王の頬を殴りつけ、最後に回し蹴りを行う。

 魔王は背後に吹き飛ばされ、ビルに直撃。


「ほう。中々やる。しかしこの程度では……」

「終わらないから安心しろ」


 光夜はサブマシンガンに、エネルギーを込めた。

 そのまま魔王が叩きつけられたビルに向かって、発砲する。

 その威力によってビルは倒壊し、魔王が瓦礫の下敷きになる。


 光夜は瓦礫に向かって、手榴弾を投げつけた。

 その爆発によって瓦礫は吹き飛び、煙から魔王の姿が現れる。

 流石の魔王もダメージを受けて、余裕の表情を無くす。


「どうよ。これが俺流の挨拶って奴さ」

「あまり思い上がるなよ。人間」


 魔王は魔法を使って、周囲のビルを引き抜いた。

 そのまま横向きにして、自分の背後に一列に並べる。

 そのままミサイルの様に、引き抜いたビルを光夜達に投げつけた。


「優也! 全部撃ち落とすから、後は任せたぜ!」

「了解! 軽く投げ返してやるぜ!」


 光夜はマシンガンを使って、ビルを粉々に砕く。

 優也が超能力を利用して、壊れたビルの破片を魔王に投げつけた。

 魔王も対抗として、次々とビルで相殺していく。


 周囲のビルが無くなった事で、魔王は乗り捨てられた車を投げつける。

 光夜はサブマシンガンをしまい、素手で車を弾く。

 そのまま魔王に近づき、拳銃を発砲する。


「この程度で倒せるとでも?」


 魔王は発砲された弾を、魔法で弾き飛ばした。

 光夜は構わず魔王に突撃する。


「俺は囮だよ」


 光夜が合図を出すと、魔王の周囲にある車が浮遊する。

 幾つもの車が魔王を包み込む様に、投げつけられた。

 魔王は車の大群に教えせられ、身動きを封じられた。


「アディオス」


 光夜は魔王を包んだ車に、銃弾を飛ばした。

 銃弾はガソリンを刺激し、車を爆発させる。

 それに誘爆される形で、周囲の車も爆発した。


「見よ! これが魔王の力だ!」


 煙から飛び出る様に、魔王が空に飛び始めた。

 マントがボロボロになりながらも、魔王はまだ動ける。

 強い憎悪を抱きながら、光夜達を街ごと吹き飛ばす準備を開始。


「させるかぁ!」


 光夜は高くジャンプして、魔王と同じ高度まで飛んだ。

 魔王の顎にアッパーをして、魔王を空よりも高く吹き飛ばす。

 魔王は大気圏を突破して、そのまま宇宙まで吹き飛ばされた。


「今だ! 優也!」

「うおおおおおお!」


 優也は宇宙に浮かぶゴミや、壊れた人工衛星を集めた。

 それを隕石の様に魔王にぶつけて、地球に向かって落とす。

 魔王は大気の摩擦に焼かれながら、再び地球へと戻って来た。


 魔王は光夜達が居る付近に落下して、大きなクレーターを作る。

 落下の衝撃波すさまじく、光夜達も吹き飛ばされる。

 そのまま宇宙ゴミの塊は、大きな爆発を上げた。


「そんなバカな……。魔王様が只の人間なんぞに……」


 爆炎から魔王は姿を現わさなかった。

 今度こそ倒された魔王。思わず絶句するガロベ。

 目の前の2人に恐怖を抱き、その場から逃げ出そうとする。


 だが2人はそれを見逃さなかった。

 優也がテレポートをしてガロベの前に現れる。

 そのまま頭に向けて拳銃を、突きつけた。


「よくも街を混乱させてくれたな」


 優也は引き替えを引いて、拳銃を発砲した。

 拳銃はガロベの脳を突き破り、そのまま死滅させる。

 参謀と王が死んだ事により、世界に現れた魔物達は統率を失う。


「凄い……。あの2人……。神の力もなしに魔王を倒しちゃった……」


 一部終始を見ていた律は、ただ驚くしかない。

 自分が転生し、長年かけて倒した魔王軍は倒された。

 残党とは言えたった1日で倒された魔王軍。


 律は改めて自分の力は、ちっぽけなものだと思い知らされた。

 だが今度は絶望したりしない。優也からの言葉を思い出す。

 自分のやりたい事をやれば良い。律はついにやりたい事を見つけたのだった。

──────────────────────────────


 ガード東京支部。魔王軍を壊滅させた後、光夜達は報告に戻った。

 光夜は気を聞かせて、1人で報告に向かった。

 現在ロビーに優也と律が残されている。


「私はずっと寂しかったのかもしれません」


 律は優也の隣に座って、自分の本心を打ち明ける。

 何故この世界に戻って来たのか、その理由を彼女は見つけた。

 

「確かに異世界では仲間が居ました。でも私は英雄として祀り上げられました」


 劣勢だった人間軍を、たった1人で逆転させた英雄。

 その為仲間達は律を、特別な存在として扱っていた。

 だがその重圧は、律の心を次第に蝕んでいく。


「私はただ1人の人間として、生きてみたかったのかもしれません」

「君は1人の人間さ。異世界でもこっちでもね」

「はい。今回の事件で私も弱い人間の1人だと、思い知らされました」


 何も出来なかった自分を見て、律はそう感じていた。

 だが優也達も特別な訳ではない。彼らも人間の1人なのだ。

 律と彼らの違いは、強い信念だと彼女は感じていた。


「私はお父様が怖かったのです。力を得ても、どこか逆らえなかった」

「だからわざと誘拐されたんだね?」

「はい。お父様が私を愛しているのか。それを確かめてみたかった」


 狂言ではない。本当の誘拐事件だった。

 それを利用して律は、父親の愛情を確かめようとした。

 もし見捨てられたら、再び死ぬことを決断していたくらいだった。


「でも私はもう逃げません。父と真正面から話合ってみせます」

「そっか。上手く行くと良いね」

「はい。私はこの力の事を明かして、貴方達の様に信念に基づいて生きてみます」


 律は一礼をして、ロビーの出口へと向かった。

 微笑みながら手を振る優也を、チラっとだけ見つめる律。


「ありがとう。私の最初の友達、坂巻優也さん」

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