第3話 カーチェイス

 魔王の参謀、ガロベに襲撃された優也達。

 ガロベは再び魔方陣を作り、大量の魔物を召喚した。

 優也達は大勢の魔物に囲まれ、逃げ場を失っていた。


「取引と行きましょうか。そちらのお嬢さんを渡しなさい」

「断る」


 優也は拳銃をガロベに向けて、発砲した。

 ガロベは魔法を使って弾丸を止め、横に受け流した。


「やれやれ。話は最後まで聞くものですよ」

「俺は話し合う気はない」

「この状況下で、どうにかなるとでも?」


 ガロベを庇うように、大量の魔物が前に出た。

 倉庫を埋め尽くす程の量で、普通なら絶望する数だ。

 だが優也は諦めていないかった。


「テレポートしようとしても無駄ですよ。外にも兵隊を用意しているので」


 優也の動きに気が付き、止める様にガロベは言った。

 優也のテレポートは、範囲が限られている。

 更に集中する必要があるので、何度も使えるものではない。


「ガロベ。引きなさい。それ以上近づくと、私が魔法を放ちます」

「連続魔法ですがか? どうぞお放ち下さい」


 律は魔法を使用するため、魔力を腕に込めた。

 だが魔法が発動する事はなかった。


「貴方に対抗するため、こちらも色々準備をしていたのですよ」

「魔封じの結界を張ったのですね……」

「これで分かったでしょ? 貴方達に勝ち目がない事が」


 勝ち誇った態度で、再び前に出るガロベ。

 焦りを見せる律に、満足げな視線を向ける。


「良いですね。その目を見たかったんですよ」

「やれやれ。確かに普通なら諦めるけどよ……」


 優也の言葉と同時に、工場の外からエンジン音が聞こえて来た。

 次の瞬間車が壁を突き破り、工場内に侵入する。

 サイドガラスから光夜が飛び出して、優也達の下へ飛ぶ。


「俺らのリーダー舐めると、痛い目見るぜ」


 光夜はリモコンのスイッチを押した。

 すると車に詰まれていた、ダイナマイトが爆発する。

 魔物の群れが隊列を見出し、僅かに隙間が出来る。


「RR! 計算通りだ! 手はず通り頼む!」


 光夜は無線で瑠璃に、指示を飛ばした。

 再び壁を突き破って、工場に入る2台目の車。

 瑠璃が遠隔操作で操縦し、用意しておいた車だ。


「乗れ! ここから脱出するぞ!」

「流石光夜。スケールが違うぜ!」


 優也は律をお姫様抱っこして、後部座席に乗り込んだ。

 光夜は運転席に座り、手動モードに切り替えて運転をする。

 そのまま工場から脱出をした。


「絶対に逃がすな! あの鉄の塊を追え!」


 予想外の展開に、声を荒げるガロベ。

 魔獣たちは車を追うために、工場の外に出ようとした。

 その魔獣達の前に、瑠璃が操縦するドローンが10機現れる。


「なんだこの空飛ぶ、物体は? 小型飛空艇か?」


 ガロベが呆気に取られていると、ドローンが発砲を開始。

 ドローンには小型マシンガンが、取り付けられていた。

 銃弾に次々倒れていく、魔物達。


 ある程度数が減ると、ドローンはピッという音を立てた。

 音がドンドン早くなり、やがて感覚がほぼなくなる。

 次の瞬間ドローンはその場で自爆した。


「くっ……。不慣れな世界とは言え、やってくれますね……」


 爆発によって、召喚した魔物が全て倒された。

 ガロベは苛立ちながら、再び魔方陣を出現させる。

 そこから漆黒の馬車と、赤く燃える狂犬ケロベムを2体召喚する。


 ガロベは馬車に乗って、ケロベムに引かせた。

 ケロベムは指示通りに走り、車の後を追う。

 その嗅覚で位置を確かめながら、ケロベルは走り出した。


「絶対に逃がさんぞ……。転生者め!」


 ガロベは馬車に乗りながら、上空に魔方陣を作る。

 そこから大量の飛竜が現れ、空かも追撃を開始した。


──────────────────────────────


 光夜達は魔物から逃れる為、高速道路を走っていた。

 魔物は都内の一部にしか出現していない。

 魔物の勢力圏から逃れる為、東京から出ようとしていた。


「どうやらあのローブ野郎が、星みたいだな」


 光夜はアクセル全開で走りながら、口を開いた。

 ミラーを見ながら背後を確認する。

 

「ああ。間違いない。奴をこのまま放っておけねえけどさ……」

「彼女の安全確保が先か……」


 優也は律の手を握りしめた。

 彼女の体は震えていた。恐怖心を感じたのだ。

 異世界に行ってから、力を得て恐怖を感じた事がなかった律。


 魔物との戦いで初めて感じる無力感。

 律は本当の自分が弱い存在である事を、思い出していた。

 優也に守られなければ何も出来ない自分を、彼女は責めていた。


「私は……。何の役にも立てない……」

「お嬢様、自惚れるのもいい加減にしろよ」


 優也は優しい口調で、怒る言葉を発する。

 優也に手を握られて、律はどこか温かいものを感じていた。


「君は1人の人間だ。人は生まれた時から、適材適所がある」

「私は1人の人間……? 適材適所?」

「君は君に出来る事をすれば良い。ここは俺らの仕事。それだけの事さ」


 優也の言葉を聞いて、律は心に届く何かを感じた。

 この世界に帰って来て、自分の存在意義を無くした気がした。

 異世界に居た時は常に英雄視され、存在価値を感じていた律。


「君は君のままで良い。君のやりたい様に生きるだけで、価値があるんだ」


 律は胸に手を当てて、自分のやりたい事を考えた。

 自分がこの世界に戻って来た理由。やりたい事。

 様々な思いを巡らせて、心の声に耳を貸す。


「お話中の所悪いが、追いでなすったぜ」


 光夜はサイドミラーから、猛スピードで近づく馬車に気が付いた。

 馬車は車を弾き飛ばしながら、車を超えるスピードで走る続ける。


「このマシンに追いつけるとは。こりゃ逃げ切れないな」


 光夜はサイドガラスを開けて、拳銃を取り出した。

 拳銃を持った手を窓からだし、サイドミラー越しに狙いを定める。

 そのままケロベムの足に向けて、発砲をした。


 エネルギー弾は見事に命中するが、ケロベムの堅い皮膚に阻まれる。

 ケロベムは更に速度を上げて、光夜達と横並びになった。

 馬車はそのまま車に向けて体当たりを開始する。


「速さだけが取柄じゃないんだよ。このマシンは」


 光夜は急ブレーキをかけて、体当たりを回避した。

 そのまま再びアクセルを踏み、馬車の真後ろに回る。

 ケロベムは急に止まる事が出来ず、背後を取られる形となった。


「普通の銃じゃ効かない。優也、トランクからケースを取り出してくれ」


 優也は指示された通り、トランクからケースを持って来た。

 そのまま走行中の車内で、助手席に移動する。

 優也がケースを開けると、そこには巨大なライフルが入っていた。


「対戦車用ライフルだ。人に向けるのは違法だが、化け物なら良いだろう」

「ガラス割るけど、良いの?」

「気にするな。俺の車じゃない」


 優也は助手席の背もたれを倒し、腹ばいになった。

 スコープを覗き、ケロベムの胴体に狙いを定める。

 だが車が激しく揺れるため、上手く狙いが定まらない。


「10秒後に一気に突っ込む。反動にだけ気を付けろ」

「適当に撃っても当たるって事ね。了解!」


 光夜は再びアクセルを全開し、馬車との距離を詰めた。

 車にブルーヒートの力を込めて、速度を更に上げる。

 

「5……。4……。3……」


 光夜は馬車にぎりぎりまで近づくまでの、カウントダウンを開始。

 フロントガラス越しに見える馬車が、徐々に大きくなる。

 優也は息を吸いながら、引き金に指をあてる。


「2……。1……。0!」


 光夜の『ろ』と同時に、優也は引き金を引いた。

 優也の放った弾は馬車を貫通し、ケロベムの胴体に当たる。

 堅い皮膚をも貫通し、1体のケロベムはその場で倒れ込んだ。


 光夜は馬車に当たるスレスレでハンドルを切り、そのまま追い抜く。

 優也はしっかり座席にしがみついて、遠心力に耐えた。

 ケロベムが1体倒された事で、馬車のスピードが下がる。


「おのれ! 飛竜部隊! 追撃をしろ!」


 馬車の背後から飛竜が光夜達に向かって、飛んで来た。

 飛竜は火球弾を飛ばしながら、光夜達の車を狙う。

 光夜はハンドルを切りながら、火球弾を回避する。


 そこへ援軍として駆けつける、巫女が操縦するヘリ。

 美里が異能力で雷を操り、飛んでいる飛竜を落としていく。

 巫女もヘリの機関銃にエネルギーを込めて、飛竜を撃ち落とす。


「なるほど。この世界の騎士団は優秀ですね」


 馬車の中で足を組みながら、拳を握りしめるガロベ。

 苛立ちを隠せなくなり、歯ぎしりを繰り返す。

 ガロベは杖を出現させて、馬車から顔を出す。


 そのまま杖から光線を発射して、光夜達前方の道路を粉砕する。

 粉砕された道路は車が落ちるくらいの、穴が開く。


「やべぇ!」


 光夜はハンドルを切って、アクセルを思いっきり踏んだ。

 車に込めるエネルギーを増やし、反対方向を拭いて前進。

 車はギリギリの所で止まり、光夜はそのままブレーキを踏んだ。


「やれやれ……。やっと追いつけましたな」


 ガロベは馬車から降りて、車に杖を向けた。

 光夜達も車から降りて、ガロベと対峙する。

 ガロベは持っていた魔王の魂を、懐から取り出した。


「これは奥の手だったのですが。仕方ありません」


 ガロベは魔王の魂に、魔力を込め始めた。

 魂は青紫に発光し、光夜達の視界を奪っていく。


「最後の素材は手に入りませんでしたが、これから手に入れれば良い」


 魔王の魂はその場で、大きな黒煙を上げた。

 光夜達が視界を取り戻すと、煙の向こうに影が見える。

 人の2倍はある巨体に羊の角が生えたような、影だった。


「不完全ですが、魔王様! 復活です!」


 煙から顔が銀色で、黒いマントを付けた人物が姿を現わす。

 鋭い爪を動かしながら、首を回して体の調子を確かめる。

 不完全ながら復活した魔王は、威圧感を周囲に放っていた。


「申し訳ありません。少し手間取ってしまいまして」

「致し方あるまい。この状況ではな」


 魔王は異世界にて復活した。

 以前より弱体化しているが、それでも十分すぎるほどの力がある。

 

「直ぐに力を取り戻す。その為に……」


 魔王は口角を半分あげて、光夜達を指さした。


「あいつらを血祭りにあげねばな」

「聞いたか光夜? 俺達を血祭りだってよ」

「はん。上等じゃねえか」


 光夜達は律を庇うように、前に出た。

 2人共手を鳴らしながら、魔王達を睨みつける。


「地球人を舐めんなよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る