第2話 異世界からの襲撃

 優也と律は街を出歩いていた。

 まずゲームセンターに律を案内する優也。


「ゲームは好き?」

「あんなのは不良遊びと言われて、やらせてもらえなかったわ」

「いつの時代の価値観? 君も大変だね」


 優也はお札とコインを両替する。

 初心者の律の為、2人で出来るゲームを探した。


「初ゲーム、やってみる?」

「ええ。実は前からやってみたかったの」


 2人はゴーグルをつけて、VR体験型のゲームをした。

 初めてのプレイでたどたどしい律。それをフォローする優也。

 律は初めての体験に、夢中になってプレイした。


「どう? 面白かった?」

「悪くなかったわ。でも異世界の刺激は、こんなものじゃないわ」

「なら異世界では体験できない、特別な世界をご用意しよう」


 優也が次に向かったのは、宇宙科学研究所だった。

 そこでは無重力と太陽系が再現された、体験が受けられる。

 優也は宇宙服を着て律の手を握り、無重力室に入る。


 無重力初体験の律は上手く動けず、くるくる回っていた。

 優也は優しく動き方を教え、少しずつ前に進めるようになる。


「これが……。宇宙……」

「君が転生した時には、この施設はなかったからな。どうだい?」

「凄い奇麗……。夜空とは全然違う……」


 異世界には宇宙とういう概念が、小さかった。

 どの種族も世界は1つで、惑星が複数あるとは考えていない。

 律もその価値観にそまり、宇宙の事など考えた事はない。


「この世界は謎に満ちている。科学が進んでも、宇宙や地球の事が分からない」


 優也は深海の謎や、人の魂についての話をした。

 人がどれだけ科学を発展させても、地球の全てを解き明かしていない。

 優也は律に、この世界の魅力を知って欲しかった。


「小さな冒険だったけど、どうだったかな?」


 優也達は研究所から出て、小さな丘にやって来た。

 個々には天文台があり、優也は近くの売店で飲み物を買う。

 彼女に飲み物を渡しながら、不安そうに聞いた。


「悪くなかったは……。でも異世界の方が、楽しかった」

「そうか。まあこの程度で勝てないよな」


 優也は予定調和と言わんばかりに、軽く返した。

 2人で夕日を眺めながら、飲み物を飲む。

 律は夕日を見ると、何故か悲しい気持ちになる。


「俺も昔はそうだった」

「え……?」

「この世界に退屈して、絶望して……。異世界への夢を見ていた」


 優也の言葉に心から驚く律。

 今の彼からは想像もできないような、過去だった。


「昔さ。俺は虐められていたんだ」

「とてもそうは見えないわ」

「俺の場合両親に恵まれていたからな。直ぐに相談できた」


 優也の両親は子供の事を考えて、母親の実家に引っ越した。

 そこは日本海に浮かぶ小さな島で、喜美島と呼ばれている。

 優也はその引っ越しによって、大きく運命を変えられる。


「そこで今のチームメンバーと、幼馴染達と出会ったんだ」

「それでどうなったの?」

「人を怖がっている俺を、まるで旧知の仲の様に扱ってくれた」


 特にリーダー格だった光夜は、優也と気が合った。

 2人は直ぐに友人となり、やがて親友と呼べる仲となる。

 

「あいつら好奇心旺盛でさ。いつもみんなで冒険していた」

「冒険……? 小さな島で?」

「子供にとっては、知らない場所は全て冒険さ」


 優也もその冒険を楽しんだ、1人だった。

 押し込められた好奇心を、引っ張り出された感覚だった。

 優也は再び明るさを取り戻し、今のような性格になった。


「あの時の楽しい気持ちが忘れられない。俺はもっと未知な世界を知りたい」

「未知の世界……」

「この世界にはまだ未知が溢れている。俺はそれを見てみたいんだ」


 科学技術と異能力者により、急速に発展した社会。

 その社会が何を解き明かし、何処に進むのかを知りたい。

 優也はその歩みを止めないため、ガードに入り人々を守る事にした。


「この世界も異世界も変わらない。未知と刺激に溢れている」

「でも……。私はこの世界が退屈にしか見えませんわ」

「しょうがないさ。この世界は大人が好奇心を押し込めちゃうからね」


 好奇心が強い子供は、大人から迷惑がられる。

 だから子供は大人になるにつれ、好奇心を殺していく。

 だからこの世界を退屈だと感じると、優也は考えていた。


「俺は君に思い出して欲しいんだ。この世界への好奇心を」

「好奇心……」

「もう1度聞くよ。君はどうしてこの世界に戻って来たんだい?」


 先程の優也の質問に、律は答えられなかった。

 それは自分にも答えが分からなかったからだ。

 だが魔王を倒して世界を救った時、自分の使命が終わった様に感じた。


「君はこの世界に帰って来て、その力で一体何がしたい?」


 優也は彼女が答えやすくなるように、質問を変えた。

 律は胸に手を当てて、必死で考える。

 力を宿した自分に何が出来て、何をしたいのかを。


──────────────────────────────


 紫に光る魔方陣がビルの屋上に出現した。

 そこから黒いローブの人物が、生える様に飛び出す。

 周囲を見渡しながら、初めて見る光景に戸惑いを見せる。


「これが異世界だと? 我々の世界とはまるで違うではないか……」


 魔王の参謀ガロベは、律を追ってこの世界にやって来た。

 魔王の魂を宿した球体を持ちながら、体復活の為の準備をする。

 想像を超えた高い建物から、下を見下ろすガロベ。


 そこには無数の人間が、初めて見るものに乗りながら移動していた。

 それを見てガロベは、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。


「さあ現れよ。我がの魔物たちよ。この世界を混沌へ導いてやれ」


 ガロベは空に、巨大な魔方陣を出現させた。

 赤紫に光るその魔法陣から、無数の異世界からの魔物が現れる。

 その中で一番危険だったのが、マンモスに似た魔物だった。


 マンモスに似た魔物、モースマンは巨体を地面に下した。

 走る車を踏みつぶしながら、ビルに体当たりをして粉砕する。

 この世界の人間を見ながら、ガロベは愉快そうに笑った。


「なんだこの世界は? 魔法も騎士団もないではないか!」


 逃げ惑う人々を見ながら、ガロベは次々と魔物を召喚する。

 

「早く来い、転生者よ。これ以上、故郷を壊されたくなければ」


──────────────────────────────


『都内警備中の全捜査員! 緊急事態発生!』

「そりゃ緊急事態でしょ! これは!」


 マシンガンを片手に、ガーゴイルの群れを撃ち落とす美里。

 異能力を駆使してガーゴイルを痺れさせ、銃弾を当ててトドメを刺す。

 空が制圧されてヘリを飛ばせないため、巫女も戦いに参加していた。


「特にアレはヤバいよね?」


 巫女は暴れまわるモースマンを指さした。

 モースマンは怪獣の様に、ビルを倒しながら走る。

 車よりも速く、皮膚が堅いため銃弾を通さない。


『KM! MF! 空から援護を頼む!』

「こちらMF。FL、どうするつもり?」

『スーパーマキシマム砲の使用許可が出た。空は大丈夫だ!』


 スーパーマキシマム砲とは、小惑星程度なら消し去る高出力ビーム砲だ。

 地上に放つわけにはいかないが、空の魔物を消し去る事は可能だった。

 2人は空をスーパーマキシマム砲に任せ、ヘリの準備をする。


「こちらMF。FL、今どこにあるの?」

『あのでかぶつに突撃中』

「突撃中って……。何をするつも……」


 美里はモースマンに向かって走る、ダンプカーを見つけた。

 光夜が何をしようとするのか理解する。

 ダンプカーはモースマンに向かって、突撃をした。


 モースマンにダンプが当たる直前に、光夜はフロントガラスから脱出。

 直撃と同時にガソリン部を銃で撃ち、ダンプを大爆発させる。

 周囲に乗り捨て垂れた車と同時に、モースマンの足に爆発のダメージを与えた。


「どうだでかぶつ! 流石にこれは効いただろ?」


 モースマンは爆発の衝撃で体勢を崩し、その場で倒れ込んだ。

 光夜はすかさず異能力を発動し、剣でモースマンの頭を切り裂いた。

 突き刺さった剣から光線を発射し、モースマンの体を半壊させる。


「航空機の安全も確認した。撃てぇ!」


 光夜の指示と共に、削空が青と白の光線が空を覆った。

 空を制圧したガーゴイルの群れは、一瞬で消滅する。

 美里と巫女はヘリに乗り込み、空から地上の様子を調べる事にした。


 光夜は地上からヘリの飛び立ちを確認する。

 そのまま地上を襲撃する魔物を、銃で次々と打ち殺す。

 

「敵の規模がでけぇ。ヘリから支援頼む!」


 美里はヘリに積んでいた、バズーカを取り出した。

 地上に向けて砲撃し、魔獣の群れを爆発させていく。


「2人共。ここは頼んだ。俺は優也達を探しに行く」


──────────────────────────────


 魔獣の群れは優也達が居た、展望台までやって来ていた。

 優也は光るカードを投げつけて、魔獣の群れを倒していく。

 律も魔法や自分の能力を使って、魔獣を倒していく。


「こいつら私が転生した世界に、魔物達わ」

「へえ。随分と人気者だね。次元を超えたストーカーとは」


 優也は超能力を使って、ガスボンベを魔獣の群れに投げつけた。

 ガスボンベにカードを投げつけて、その場で爆発させる。

 それでも魔獣の数は、減りそうにない。

 

「何が狙いなんだろう? 俺には君を狙っているように見えるけど?」

「分からないわ! ただその意見には賛同する!」

「やっぱり次元を超えたストーカー? 法整備しなきゃ!」


 優也は律の手を握りしめた。

 テレポートを行い、1度魔獣の群れから撤退をする。


「流石に多勢に無勢だ。引こう」

「必要ありませんわ。もっと多い数と、私は戦ってきたのよ」

「頼もしい事。でも護衛されている身なのを忘れるな」


 優也は律の手を引っ張り、その場から逃げ出す。

 他のメンバーとの通信を行い、状況を確認する。


「こちらYS。魔獣の群れに襲われている。オーバー」

『FLだ。GPSで位置を確認。援護に向かう』

「お前が居れば、100人力だよ」


 優也は魔獣から隠れるため、廃工場に向かった。

 この辺りなら人も居ないので、最悪戦闘になっても被害を抑えらえれる。


「ごめんなさい……。私が帰って来たせいで、この世界を巻き込んでしまって」

「論点を間違えるな。パニックを起こしたのは連中だ」


 優也は工場の奥に律を隠しながら、拳銃を構えた。

 被害が余りにも大きいため、律は自責に囚われていた。

 そんな彼女の手を、優也は優しく握りしめる。


「大丈夫。直ぐ終わるよ。俺の仲間を信じろ」


 優也は優しい声で、宥めるように言った。

 そんな2人に近づく足音が聞こえて来る。

 優也は警戒しながら、その人物に拳銃を突きつけた。


「こんな所に居ましたか。転生者様」

「誰だ? 彼女の知り合いか?」

「我が名はガロベ。魔王様復活の為、その血をいただきます」

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