第3話 戦車と追いかけっこ

 光夜と優也は独断で、捜査を続けていた。

 装甲列車を走らせた組織、アルタを放置する訳にもいかない。

 かつての資料を読み漁りながら、アルタの秘密に迫る。


「分かっているアルタのアジトには、何もねえな」


 光夜は無駄足だと思いながらも、アルタのアジトを探っていた。

 現在のアジトが見える所になるなら、とっくに残党を逮捕出来ているはずだ。

 だが今は手がかりが少ない。優也に資料漁りを任せて光夜は運転を続けた。


「なあ光夜。もしこの事件が本当にアルタのせいだったら、どうなる?」

「俺らが逮捕したのは4人。普通に考えて、残党の数はもっと多いだろう」

「あれ以上の事をやらかす可能性が、あるって言うのか?」


 既に空は赤く照らされ、あと数時間で日が沈む。

 1日に2件も大事件を起こしたアルタの残党。

 光夜はこれで済むはずがないと、警戒態勢を続けていた。


「流石にこれ以上は、何も無いと思うけど」

「あんな列車を用意するような奴らだ。これで終わりとも思えない」


 光夜は経験から、嫌な予感がひしひしとした。

 杞憂に終われば良いと、本人は思っている。

 だが彼の気持ちを嘲笑うように、次の事件は置き始めていた。


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 アルタの残党リーダー、或鷹 波抜あるたか はばつは街に出ていた。

 赤いゴーグルを片手に、透視された視界で街の地下を見つめる。

 彼は街の電線を、ゴーグルで見ていた。


「美しい……」


 月明りが照らし、どのビルもライトアップした時刻だった。

 或鷹は街の光を見つめながら、その言葉を呟いた。

 人が作り出した光、その美しさに或鷹は見とれていた。


「もうじきこの光が、我が物に……」


 或鷹は自らの異能力を発動した。

 それは体を電気を操り、自らの体を電子化する異能力。

 美里の電力を操るとはまた違う。自由にネットワークを行き来出来る異能力だ。


 ネットワーク技術が進んだこの世界には、ネットが繋がらな居場所など少ない。

 特に都会の真ん中となれば、繋がらない方が珍しい。

 それつまり、全てが或鷹の思い通りに動くと言う事だった。


──────────────────────────────


『都内全域のガード隊員! 緊急事態発生!』

「今日は良く緊急事態が発生するな! 今度はなんだ!?」

『都内全域……。電……』


 イヤホンからノイズ混じりの、通信が入る。

 光夜は聞いていられなくなり、思わずイヤホンを外した。

 状況を確かめようと、1度車を停止しようとした。


 だがカチッと言う音と共に、車のロックがかかる。

 同時にアクセルが勝手に踏まれ、ハンドルも動き始めた。


「なんで自動運転モードが、オンになっているんだよ!」


 光夜は文句を言いながら、シートベルトを外した。

 車は建物に向かって、一直線にアクセル全開で進む。

 光夜はフロントガラスを叩き割り、優也と共に車から脱出。


 危機一髪の所で脱出に成功し、2人は無傷で車を降りた。

 だが衝撃で車が炎上し、ガソリンが漏れ始める。


「最悪。また始末書書かないと」


 光夜と優也は後方に逃げる。

 数秒後に車が爆発を起こし、2人は爆風に吹き飛ばされる。


「一体何が起きて……」


 光夜は言葉を詰まらせる。

 目の前には全ての電気が消えた、街が広がっていた。

 代わりに自動運転の車や、ネット機器が爆発を起こしている。


「あったね……。あれ以上……」


 優也は目を細めながら、溜息を吐く。

 光夜が懐からスマホを取り出し、様子を確かめた。

 画面がノイズで全く見えなくなっている。


「最悪。街中の電子機器が使えなくなってやがる」


 光夜は舌打ちしながら、街の真ん中にある巨大モニターを見た。

 明らかに意図的都しか思えないほど、モニターだけが奇麗だった。

 モニターは砂嵐が流れている。だがそこから音声が聞こえて来た。


『私はアルタの幹部だ。聞こえるか、ガード諸君よ』


 或鷹はモニターを通して、ガードに告げる。

 その姿は砂嵐で隠されて、光夜達には把握できない。


『今直ぐ我らのボスを釈放しろ。この騒ぎは前哨戦に過ぎない』

「なに……? この野郎、まだ何かする気なのか?」

『3時間以内に要求が呑めない様なら、空港と病院を襲撃する』


 空港を襲撃されると、飛行機が着陸出来なくなる。

 病院は避難できないような患者を、多く抱えていた。

 もしそのような事が起きれば、大惨事になる事は間違いないだろう。


『私は体を電子化して、ネットワークを移動出来る。捕まえようとしても無駄だぞ』


 近くの変圧を壊しながら、或鷹は告げた。

 都市部の電子機器は全て乗っ取られたと言っても、過言ではない。


『良い返事を期待している。それではこれで失敬するよ』


 最後に巨大モニターを爆発させて、或鷹のメッセージは終わった。

 光夜は拳を握りしめながら、歯を食いしばった。


「ふざけるな。そんな要求を呑める訳がない」

「だが飲まなければ犠牲者は、100人で済まないぞ」

「だったら3時間以内に、奴を捕まえれば良い」


「どうやって? 通信機も使えないのに」

「追跡は出来る。奴の胴体は1つだ」

「なるほど。ハックされている場所があれば、そこが居場所って事ね」


 光夜と優也は拳銃を取り出した。

 騒ぎが起きている場所を探し出し、或鷹を追跡する。


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「私と勝負しようなんて、良い度胸しているじゃん!」


 銀髪の髪の毛を後ろでくくった、小柄な少女。

 ネットカフェにピンクのパジャマ姿で居座っている。

 高速タイピングをしながら、猛スピードでハッキングを繰り返す。


 彼女の正体はが『三日月瑠璃』。

 脳の処理能力が異常に早い、高速ハッカーの異名を持つ少女だ。

 瑠璃はその能力を活かして、或鷹から街を取り返していく。


「妨害電波発信源特定。逆波長電波放出」


 瑠璃はただのハッカーではない。

 光夜達に様々なガジェットを提供する、発明家でもある。

 戦闘で発揮しない、裏方作業に特化した異能力の持ち主なのだ。


「通信機能回復。リーダーに報告」


 瑠璃はヘッドホンを付けて、マイクで光夜と連絡を取る。

 彼女の出した逆電波によって、妨害電波が打ち消された。

 その結果通信が回復し、光夜達と連絡が取れるようになった。


「こちらRR。リーダー、聞こえる?」

『わりぃ! 今超取り込み中!』


 通信機の向こう側から、物凄い爆発音が聞こえてきた。

 瑠璃が思わずヘッドホンを遠ざける程の、大きな音だった。

 その後何かが崩れるような音が、聞こえて来た。


「状況を教えて頂戴。私ならなんとか出来るかも」

『軍の戦車! ハッキング! 追い回されている!』


 再び聞こえて来た爆発音から、瑠璃は全ての状況を理解した。

 光夜の現在位置をGPSで確かめる。


「リーダー、聞いてちょうだい。今からその辺りのネットワークをダウンする」

『そいつは助かる。奴の逃げ場を無くせる』

「でも代わりに戦車をどうにかしないといけない。この意味分かる?」


 光夜達で戦車をどうにかするしかない。

 装甲列車よりも遥に強力な戦車を、光夜達は相手取る必要がある。


『奴はあそこから出るつもりはないだろう。頼んだ』

「了解。それじゃあ半径2キロ圏内の、あらゆるネットワークを切るよ」


 瑠璃は高速ハッキングで、僅か30秒ほどで作業を完了した。

 様々な機器を伝わって、次々とネットワークを遮断していく。


「さてと。後は……。RRよりMFへ」

『通信が復活した!? こちらFM。どう行動すれば良い?』

「リーダーがまた死にそう。至急ヘリで救援に向かって」


──────────────────────────────


 光夜達は戦車に、追い回されていた。

 戦車は砲台で発砲しながら、街を混乱に陥れる。

 砲台以外にもマシンガンなど、使用出来る装備全てを利用していた。


「光夜、幸いあのタイプの戦車は旧式。最新式は極秘で、一個人が操れるものじゃないからな」

「旧式でも新型でも。100年前のものでも、生身で勝てる相手じゃねえ!」


 戦車は光夜達を追い回しながら、再び発砲した。

 弾はガソリンスタンドに辺り、大きな爆発を発生させる。

 戦車は道路の車を押しつぶしながら、光夜達を追跡していた。


「優也! キャタピラをチェーンソーで、斬るとかできる?」

「あのタイプはキャタピラ式じゃねえ! 斬るもんがない!」

「なるほど! 道理で小回りが利いている訳だ!」


 光夜は弾を回避しながら、戦車に向かってエネルギー弾を放った。

 だが頑丈な戦車には、傷1つつかない。

 光夜は溜息を吐きながら、前に走り続ける。


「しょうがない。落とすぞ」

「やっぱりそれしかない? ホームレスの人、ごめんなさい!」


 光夜と優也は振り返り、同時に地面に向けてエネルギーを発射した。

 光夜達と戦車の間に大きな穴が開き、戦車は下水道に落っこちる。

 戦車はこの程度では壊れない。光夜は即座に戦車の上を目掛けて、ダイブした。


「内部に入ってしまえば、こっちのもんだ!」


 光夜は戦車の上に着地。ハッチから内部に侵入する。

 内部のコンピュータに、USBを差し込む。

 そのままマイクに向かって、叫んだ。


「RR! 今だ! 爆破しろ!」


 光夜はハッチから、急いで外に出ようとした。

 だが何者かに足を引っ張られ、戦車の内部に引き戻される。


「そうはさせん。この俺と遊んでくれよ」


 或鷹がコンピュータから実体かし、光夜を妨害する。

 

「なるほど。人がいないのに、砲弾が装填されるのがおかしいと思った!」

「爆破出来るものならしてみろ! 貴様も吹き飛ぶぞ!」

「そんな脅しが通用すると思うのか?」


 光夜は或鷹を蹴り飛ばし、再びハッチの外に向かう。

 そのまま戦車の上から道路に向かって、ジャンプする。


「俺に構うな! 爆破しろ!」


 瑠璃は光夜の指示通り、戦車の自爆装置を発動した。

 戦車は大きな爆発を上げて、都内の道路を真っ二つに割る。

 近くの建物も崩壊し、路上に壊れた下水道が剝き出しになった。


「まったく。俺の超能力が無ければ、お前は死んでいたぞ」


 優也は光夜を掴みながら、浮遊していた。

 上空に逃げる事で、爆発の衝撃から逃れていたのだ。


「いつもの事だろ?」

「そうだな」


 2人はサムズアップして、勝利を確信した。

 だがそんな2人を他所に、爆炎から1本の稲妻が現れる。

 生きていた或鷹が姿を現し、光夜達と向かいあった。


「さあ! 第2ラウンド開始だ!」

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