第2話 装甲列車を止めろ

 装甲列車が時速250キロで、走行している。

 光夜達は発砲しながら走る列車を止める為、列車に飛び乗った。

 光夜は列車の上を移動しながら、後方を目指す。


「凄ぇな。戦車の上にある、砲台まで装備してあるぜ」


 その様はまさに線路を走る、巨大戦車だった。

 機関銃は内部からコンピュータにより操作されている。

 これを止めるには、異能力者を倒すか、壊すかしかないだろう。


「はっ!」


 光夜は自らの異能力、ブルーヒートを解放した。

 膨大なエネルギーで肉体を強化し、怪力を発揮できる。

 彼の体が青色のオーラに包まれた。


 更にエネルギーを銃などに込めて、放出する事も可能だ。

 光夜はその性質を利用して、銃弾として拳銃にエネルギーを込める。

 そのまま発砲する列車の銃に向けて、エネルギーを放出した。


 銃口から青色の光線が飛んでいき、銃に衝突。

 列車の銃は爆発を上げながら、ボロボロに破壊された。


「まずは1丁。次」


 光夜は続けさまにエネルギーを放出し、銃を破壊していく。

 残すは丈夫に残る砲台と、機関銃のみとなった。

 この2つは装甲が分厚いため、光夜のエネルギーでは壊せそうにない。


「こちらFL、ヘリの到着はどのくらいだ?」

『大体5分後くらいかな?』

「それなら問題ない。それまでに砲台を片付ける」


 その通信が終えると同時に、機関銃の銃口が光夜の方を向いた。

 AI制御された銃は、光夜を最優先排除すべきと判断する。

 機関銃は実弾を発砲しながら、光夜の体に乱射していく。


「おっと。これはマズい……」


 光夜は慌てて屋根から飛び降りた。

 そのまま装甲車の側面に、ぶら下がる姿勢になる。

 機関銃は動けない故、光夜の姿を見失って発砲を止める。


「とんだ欠陥AIだな」


 光夜は側面を移動しながら、機関銃に近づいた。

 十分距離を詰めたところで、光夜は再び天上に上る。

 機関銃は光夜に気が付き、再び銃口を向けようとした。


「遅いぜ!」


 光夜は機関銃と列車の接続部を、手刀で切り裂いた。

 機関銃は列車の後方に落下し、その機能を停止させる。


「さてと。最後はあのでか物だけだな……」


 砲台は大きな音を当てながら、光夜に砲口を向ける。

 その動きに嫌な気配を感じた光夜は、咄嗟に左に飛んだ。

 次の瞬間、光夜の居た場所に向けて砲撃が飛んだ。


「あんなの当たったら、ミンチじゃ済まねえな……」


 光夜はありったけのエネルギーを、銃に込めた。

 膨大なエネルギーを詰める事で、爆弾として使用出来るのだ。

 光夜は砲台に向けて、エネルギーを込めた銃を投げつけた。


 銃は砲台の内部に入り込み、そのまま弾が詰まっている箇所に到達。

 光夜が指パッチンをしたと同時に、銃のエネルギーが放出される。

 砲台は大きな爆発を上げながら、粉砕された。


「今ので脱線しないとは、やっぱり思いな。この列車」


 光夜は改めて自らが乗る、列車の頑丈さを思い知った。

 砲台が爆発したと同時に、空からプロペラの音が聞こえる。

 光夜が見上げると、彼が呼んだヘリが上空を飛んでいた。


「ナイスタイミングだ。それじゃあ、作戦の説明をするぜ」


──────────────────────────────


 光夜が砲台と戦っているのと、同時刻。

 優也は運転席に向かって、走っていた。

 運転席はガラスが無く、代わりに籠の様な窓が付いていた。


 優也は側面にぶら下がり、運転席の出入口に向かう。

 その場所には指紋認証で解除できる、鍵がかけられていた。


「認証要らないんだよね。パスがあるから」


 優也はその場で、指を鳴らした。

 すると彼の体が装甲列車の、側面をすり抜けていく。

 優也は装甲列車の内部に侵入し、運転席に辿り着いた。


「へえ、完全AI制御の列車か。最高だね」


 優也が辿り着いた運転席には、人の気配はない。

 代わりに高度なコンピュータで、速度が制御されていた。

 優也はコンピュータにUSB端子を差し込み、自分のパソコンと繋いだ。


「でも残念。俺らにはハッキング検定1級が居るんだよね。そんな検定ないけど」


 優也の持っていたパソコンは、外部から遠隔操作が出来る。

 そのパソコンと接続した事で、外部から列車をハッキング出来る様になった。

 優也は無線でハッカーに連絡を取り、ハッキングの準備をした。


「さてと、終わるまで俺はパーティへ」


 優也は内部を移動しながら、後方の車両を目指した。

 AI制御とは言え、銃弾にエネルギーを込めた異能力者がいる。

 その為に自分達ガードの管轄になったのを、彼は忘れていない。


「くっそ! 何だよ! 次々と壊されているじゃねえか!」


 優也は最後尾の車両で、ヘルメットを被った人物と出会った。

 顔は見えないが声から、男性である事は確認できる。

 優也はゆっくりと男に近づき、肩をポンポンと叩いた。


「誰だ!?」

「こんにちは」


 優也は男の顔面を殴りつけ、横に吹き飛ばした。

 男のヘルメットにヒビが入る。

 男は頭を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。


「ごめん、ごめん! 手加減したつもりが、ヘルメット壊しちゃった」

「このふざけた野郎が!」


 男は人差し指を優也に向けた。

 その指からオレンジ色の光線が発射され、優也に飛んでいく。

 優也は大きくジャンプして光線を避け、その場で指パッチンをする。


 音が鳴るのと同時に、男の周囲に赤色のカードが出現した。

 カードは男の周辺を高速で回ると、1本の輪っかに変化する。

 輪っかは縮小され、男の体を拘束する。


「降参する気になった?」

「……」

「一応言っておくけど、もう直ぐハッキング終了。この列車も停止」


 優也は紫に光るカードを取り出し、男の首元に当てた。


「素直に負けを認めた方が、格好良いよ?」

「馬鹿め!」


 男は隠し持っていたリモコンのボタンを押した。

 次の瞬間優也の乗っていた車両が切り離される。

 同時に切り離された車両が、反対方向へ速度を上げた。


「この列車の制御コンピュータは、前後に2つあるんだよ」

「うわぁ~。これ最悪。やっちゃった?」

『問題ねえよ』


 光夜が無線で、優也に伝えた。


 彼は切り離された車両の上に、偶然乗っていた。

 前方の車両が止まったのを確認すると、無線で指示をだす。


「結果は違うけど、後は任せた」


──────────────────────────────


「了解した。こちらMF、これより作戦を開始するよ」


 ヘリに乗る黒い髪の毛を結んで、ポニーテールにした少女。

 緑色のワンピースと、下にクリーム色の短パンを履いている。

 彼女は不動美里。光夜や優也と同じチームのメンバーである。


「それじゃあ、ありったけの力を込めるよ!」


 美里は巨大な鉄の棒を、ヘリの下から垂らした。

 棒の先は円状になっており、電車の幅程の直径がある。

 美里は鉄の棒を握ると、自身の異能力を思いっきり解放した。


「ううう!」


 美里の異能力、それは電力と磁力を操る能力だ。

 性格にはあらゆる波動をコントロールできるのだが。

 彼女自身はその力の全てを、発揮できていない。


 美里が力を込めた事で、鉄の棒は電磁石へと変化した。

 その結果鉄の塊である装甲列車は、磁石に引っ張られる。

 その結果電車は空に浮かび、前に進まなくなる。


「優也。歯を食いしばって、捕まってろよ!」


 装甲列車をヘリとくっつける訳にはいかない。

 重さでヘリが墜落する可能性があるからだ。

 光夜は浮遊する装甲列車から飛び降りて、その側面を蹴り飛ばした。


 装甲列車は隣の線路まで吹き飛ばされ、横倒しになる。

 美里は磁力を止めて、装甲列車を落下させる。

 大きな音と共に、装甲列車はついに停止した。


「よう、優也。生きているか?」

 

 光夜は無線で優也の安否を確認した。


『俺は飛べるからね。何の衝撃もねえよ』


 優也は超能力で浮遊し、落下の衝撃を防いだ。


──────────────────────────────


「そうか。今回も失敗か……」

『はっ……。申し訳ございません』

「失敗したのは貴様ではない。謝る必要はないさ」


 トランシーバーを握りしめながら、フードの人物は通信を切った。

 今にも握り潰しそうな勢いで、トランシーバーを握っていた。


「流石はガードと言った所か。この程度では、たおせんか……」


 フードの人物はワイングラスを、持った。

 そこに赤ワインを入れ、歩きながらゆっくりと口にする。

 全て飲み干した後、フードの人物はグラスを背後投げ捨てた。


「やはり俺自らが出なければ、ならぬか」


 その人物は遂にフードを取った。

 そこからは青色に光る、スキンヘッドの男性の顔が現れる。

 この人物は自らこう名乗る。サンダトロンと。


「ガードよ。我らの星を返してもらうぞ」


──────────────────────────────


 装甲列車が止まった場所。光夜達は現場検証に立ち会っていた。

 辺り一面が破壊されつくされ、地獄絵図となっていた。

 光夜はやれやれと肩をまわしながら、装甲列車を見つめる。


「こんな化け物、一体どこで手に入れたんだか」


 全体が武装の列車など、日本に容易く持ち込めるものではない。

 それを車庫に気づかれずに居れるなど、異能力者の仕事だろう。

 光夜はそう思い、今回の事件が組織的なものだと判断した。


『こちらMM! リーダー! 分かりましたよ!』

「こちらFL。何が分かったんだ?」

『犯人の正体です! 列車のコンピュータに、形跡が残っていました!』


 RRと言うコードネームの人物。

 その人物こそが列車をハッキングして、止めた本人だった。

 正体は三日月 瑠璃という名の少女だ。


『連中はアルタの残党です』

「アルタ? 2年前に潰された、犯罪組織の名前か……」


 2年前アルタと言う、異能犯罪組織が世間を騒がせていた。

 だが本格的な混乱が起きる前に、掃討作戦が実施された。

 その時リーダーの人物を逮捕した事で、アルタは一気に壊滅に追い込まれた。


『ここから連中の目的を、割り出しました』

「それくらい俺にも分かるけど、一応聞こうか?」

『アルタのリーダーの釈放。連中はその取引の為に、一連の事件を起こしています』

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