04_魔法の杖
3人は、しばらく意識を失った後、目を覚ます。
沼に飲み込まれたどり着いた場所。そこは地下の世界だった。
3人は、目の前に広がる地下世界の光景を目の当たりにして、
「な、なんだ……これ」
「どうなってんだよ」
「こんなに、たくさん魔法の杖があるなんて」
目の前の光景を見て、3人は全く同じ感想を持った。地下世界の地面には、数えきれない程の魔法の杖が刺さっている。全く形も色も同じ杖だ。天井からは、先程、3人を飲み込んだ沼の泥が垂れている。
3人が地下世界に目を奪われていると、再び声がした。
「ようやく目を冷ましたようだな。待ち侘びたぞ。それでは試練を始める」
謎の声が言った直後、食い気味にプクロウは言った。
「ふざけんなよ!ささっと魔法の杖をよこせ!」
レオも
「そうだ、そうだ!試練なんてどうでもいい」
「二人とも……」
上野は、二人の様子を見て呟いた。
「な、なんだ、その態度は!大人しく従え!どうやら状況を理解していないようだな。上を見てみろ」
3人は、謎の声に言われた通り上を見た。
「おい、まじかよ……」
「こんなの聞いてないぞ」
「天井の泥が迫って来てる」
次第に、沼の泥が上から3人の方まで迫っていた。上から、迫る泥に飲み込まれれば、今度こそ命はない。
「ようやく、状況を理解したようだな。すでに試練は始まっているのだよ」
「どうか、天井の泥を下げてくるのだけは勘弁していただけないでしょうか?」
プクロウは、謎の声に対する態度を一変させ、敬意を込めて土下座をする。
「これは試練だ。そんなサービスするわけ無いであろう」
謎の声の返答に、プクロウは舌打ちをする。
「ちっ、やっぱそんなうまく行かないか」
「プクロウ、切り替えが早いよ……」
上野は、プクロウの態度の変わりっぷりに呆れる。
「試練と言っていたな。俺たちがその試練をクリアすれば、ここから生きて帰れるということだな?」
レオは、冷静に謎の声に質問をする。
「もちろんだ。お前たちが生き残るにはその道しかない。だが、安心しろ。試練の内容はとてもシンプルだ。ここにある魔法の杖から、本物を選んで手に触れるだけだ」
この中から、本物を見つける。
泥に飲み込まれる前にそんなことできるの……。
数えきれない程の魔法の杖を目の前に、上野はつい悲観的になる。
「本物は、一番奥の方にあるとかそういう卑怯なことしてねーだろな」
プクロウは、苛立ちの込もった声で叫んだ。
「教えるわけなかろう。これは試練だ。ちゃっかりヒントを出すとでも思ったか。魔法の杖にふさわしいものであれば、本物の杖の存在を感じ取れるはずだ。私からは以上だ。それじゃあな」
「おい、待てよ!」
「……」
謎の声からの返事が帰ってこなくなった。
「どうする。まず、作戦を考えるか」
レオは、作戦を考える時間を取ることを提案する。
「作戦も何も、しらみつぶしに杖に触っていくしかねーんじゃないのか」
プクロウは、そんな時間はないと反対する。
二人が話している間、上野は魔法の杖と地下世界を見て、何かを思い出しかけていた。
この地下世界、見覚えがある。
そして、魔法の杖。ひと目見た時から、感じていた。
新しいものに出会ったという感じでなくて、懐かしさを感じる。
私なら、本物を見つけられるかもしれない。
上野は、目をつむる。心身を落ち着かせて、周りの気配を感じ取ることだけに集中する。
感じる。
一つだけ、一際大きな力を宿した杖が。
こっちだ。
上野は、強い魔力を放つ魔力の杖を感じ取り、その杖の方へ進む。
「どうしたんだ、あかり。まさか、本物が分かったのか」
レオが、迷いなく杖に向かっていくのを見て言った。
「うん、分かったかもしれない。強い力を感じるの」
「まじか!やるな、あかり!」
プクロウは驚きの声を上げる。
上野は、本物と思われる杖の前まで行くと立ち止まった。
これだ。これだけ、他のものとは明らかに違う感じがする。
天井の泥は、思ったよりも迫って来ていた。地面に大量の泥が激しく降り注ぐ。
時間はない。これでなかったら、もう杖を探すすべはない。
上野は緊張していたが、一旦、深呼吸をし気持ちを落ち着かせると、目の前にささる魔法の杖に触れた。
触れると同時に、杖の魔力が上野に流れ込んできた。そして、昔の記憶を思い出す。
この世界で、生まれイラカという名前で育ったこと。
生まれつき、強い魔力を持つ特殊体質だったこと。
幼くして、魔法使いとなり、茨の女王を村から守ったこと。
その後、異世界から来た岡部美和とカカノ村で出会ったこと。
茨の女王を倒すために彼女と旅をしたこと。
苦楽を共にし、彼女と親友になった時のこと。
一度に、多くの記憶が上野の頭の中で思い出された。
「私は、イラカ。この世界の住人だったんだ。この杖で、茨の女王と戦っていた。なら私は、どうして異世界にいたんだろう」
上野は混乱していた。一部の記憶は、まだ思い出せずにいた。岡部美和とともに、茨の女王を倒すために旅をしていたところまでは思い出せたが、そこから先がどうしても思い出せなかった。
「あかり!?」
彼女の名前を呼ぶ声がする。
「やったな。泥の進行が止まった」
レオは安心した様子で上野に微笑んでいた。
「本物だったんだ。それが本物だってどうして分かったんだよ?」
プクロウが、興味深そうに上野に尋ねる。
「杖から強い魔力を感じたの。それに、私はこの杖をかつて、使っていたから」
「使っていた?それって……」
横で聞いていたレオが、疑問を投げようとするが、投げかける前に、謎の声が響き渡る。
「よくぞ。試練を乗り越えた。イラカ様、大きくなられましたな。前に見た時は、あんなにも小さかったのに」
天井の泥の一部が、盛り上がって顔が現れた。謎の声の主だ。上野が、本物の杖を選んだことで、彼女が杖の持ち主であるイラカであることを確信したようだ。
彼は、上野のことを知っているようだが、上野は、彼のことをまだ思い出せなかった。
「ごめんなさい。私、昔の記憶が曖昧であなたのこと思い出せないの」
上野は、申し訳なさそうに答えた。
「うーむ、どういうわけだか記憶が喪失されているようですな。私は、デイデイ。沼地の妖精でございます」
「デイデイ……。懐かしい響き。私とデイデイはどんな関係だったの?」
「旅の仲間というところでしょうか。茨の女王を倒すべく、イラカ様とともに旅をしていました」
プクロウとレオは、二人の話を聞いていたが、話について行けていなかった。
「二人は、知り合いなのか。何が何だかだぜ」
プクロウは、困った顔をする。
「あかり。杖に触れた時、様子がおかしかったな。何かあったのか?」
「そうね……。二人に私が杖に触れて思い出したことを言わないとね」
上野は、思い出した昔の記憶についてリオとプクロウに一通り説明した。二人とも、にわかには信じられない風だったが、理解を示してくれた。
「信じられない話だが、本当は、あかりはこちらの世界の住人で、かつて茨の女王から村を守った魔法使いってことだな」
プクロウは、腕組みをし言った。
「うん、そういうことなの。簡単に信じられないと思うけれど」
「俺は信じるよ。あかりがこの杖の魔法使いだって」
レオは、上野に向かって力強く言った。
「ありがとう。信じてくれて」
上野は、微笑みを浮かべるとレオは顔を赤らめて視線をそらす。
「ああ……」
「話を聞いたところによると、異世界に向かわれた時の記憶についてないようですね。奥に
デイデイは、思い出したように言った。
「石碑?」
「ええ、この先にある石碑を見て、異世界に行くことを決意していらっしゃったようだったので」
「石碑に、私が異世界に行くことになった手がかりがあるかもしれないわね」
「デイデイ、お前は何か知らないのか?あかりが、異世界に行った理由とかさ」
プクロウは、一連の話を聞いてデイデイに尋ねる。
「残念ながら、あまり知らない。詳しいことは聞かされてはいなかったからな。私が最後に聞いたのは、ここで魔法の杖を守ることと、100年後ぐらいにまた杖を取りに戻って来るという言葉だけだ」
デイデイは、当初のことを思い出しながら語った。
「100年後、普通なら、もうこの世を去っていてもおかしい月日だ。それに、何故100年後に杖を取りに行く必要があったんだろう」
レオは、デイデイの話を聞いて疑問を抱く。
「まあ、ここで話していても仕方がない。とりあえず石碑のあるところまで行ってみようぜ」
プクロウは、石碑に行くことを提案する。
「そうね。行ってみましょう」
上野たちは、石碑のあるところまで向かった。地上から漏れた光が、巨大な石碑を照らしていた。
石碑には、巨大な茨の化け物の前で、魔法使いと剣士が杖と聖剣を掲げ交わらせている絵が描かれている。絵の下には、文字が刻まれている。
『未来の救世主に告ぐ。世界は◇に包まれる時、光輝く聖剣と杖が共に交わる。□△の魔法が世界を照らし、◇の化身、力を失い枯れ果てる。されど、その姿は一つにあらず、決して油断することなかれ』
「ところどころ、文字が潰れて読めないわね」
「肝心なところが読めないじゃねーか。出し惜しみせずに全部教えてくれよ」
「この石碑に描かれた聖剣と杖。俺たちの持つ聖剣と杖に似ていないか。果たして、これは偶然なのか……それとも……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
レオが、話していると突然、激しい地震が起こる。
なに、この揺れ。
とても大きい。
「大変です!イラカ様!地上が茨に包まれています。ついに、茨の女王が、茨の侵攻を始めたようです」
デイデイが、慌てた様子で地上の様子を上野に報告する。
「茨が……分かったわ。私達は今すぐ茨の城へと向かったほうが良さそうね」
「カカノ村の人たちのことが、気になる」
レオは、カカノ村の人たちのことが、頭に過る。
「でも、ここまで来るのに最低でも1時間は経ったよな。すぐには、たどり着けないかもしれない」
プクロウは、不安を口にする。
「それなら大丈夫。今の私なら、魔法で一瞬であなた達をカカノ村まで連れていける」
私たちを閉ざし大地よ、その身を開き、地上へと誘わん。
上野が呪文を唱えると、天井の泥に穴が空いて、真っ青な空が見える。
ウドイ。
上野たちは不思議な光に包まれると、光は目にも止まらない速度でカカノ村に移動した。
茨の侵攻を止めなければ、世界は茨に包まれる。
そうなれば、人々は、茨の呪いに苦しめられることになる。
絶対にそれだけは阻止しないといけない。
私たちなら茨の女王を倒せるはず。
きっと。
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