002 ガラスペン

「岡崎さん、今回のガラスペンは有隣堂に売ってて良かったですね」


 〔文房具王になり損ねた女〕の二つ名を持つ、有隣堂書店の文房具バイヤーの岡崎弘子が俺様ブッコローをキッとにらんだ。

先程、第二回の「ガラスペン」のyoutube録画を終えたばかりである。


 「ガラスペン」とは丸い球体のガラスを引き伸ばして作られたガラス製のペンで、細い空洞がある本体に毛細管現象を利用してインクを引き上げて文字を書くことが出来る。

 紙に文字を書く時に、シャカシャカとした何とも味わい深い書き味があり、カラフルなインクを水で溶かして色変えも出来るので、手紙などを書く時になかなか優雅で良い。


「いえいえ、キムワイプも私の〔岡崎百貨店〕に置かせて貰うことなったので。やっぱり、youtubeの力は偉大ですね」


 低く神秘的な声音こわねの岡崎弘子の声がブッコローの身体を揺さぶる。


 「有隣堂しか知らない世界」というyoutubeチャンネルの第一回配信で、理系の実験室などで愛用されてる高級ティッシュ〔キムワイプ〕を紹介したのだが、有隣堂では取り扱いがないというオチがついた。

 その伝説の第一回配信が面白く、好評だったので、〔キムワイプ〕を横浜桜木町有隣堂の新書店〔ストヨコ〕内の〔岡崎百貨店〕という文房具バイヤー岡崎弘子の売店に置くことを有隣堂の社長が許可したのだ。

 だが、その〔キムワイプ〕でビールのグラスを拭くと、残ったビールが微妙に増えていくという怪現象があり、それは勇者ブッコローによって秘かに解決されたのだ。

ここまでが前回までのあらすじである。


「ブッコローさん、このガラスペンを色彩雫いろしずく紫陽花あじさいのインクにつけて自分の願いを紙に書くと、願いが叶うと言われてるのよ」


「そうですか。岡崎さん、今度、有隣堂の7000円のガラスペンとAmezonの200円のガラスペンとの対決企画をしますので、その後の企画でその話をまたやりましょう」


「わあ、楽しみだわ。では、ブッコロー、お疲れ様、また次回の配信でね」


 岡崎弘子は素直に喜んでいた。

 実はこの岡崎弘子の正体は異世界から来た魔女だという。

 この「自分の願いを紙に書くと、願いが叶う」という話も何となく怪しいのだが、また後で検証してみよう。


「勇者ブッコローよ! その魔女〔岡崎弘子〕のガラスペンは要注意だぞ!」


 岡崎弘子が消えると同時に、また怪しい秘密結社「KAWAKAMI」の茶色のトリさんが現れた。


「え? また来たの?」


 ちょっと呆れ顔で塩対応してみた。


「何を言う、あの魔女〔岡崎弘子〕の魔力を侮るでない! 前回も苦労したろう」


 確かに苦労したが、それはあんたの対魔法アンチマジックキッチンペーパーが微妙な魔法アイテムだったからではないかな。


「ちょっと、試しにこのガラスペンで文字を書いてみます」


 トリさん死ねと書いてみた。

 書いた途端に、トリさんが地面に落ちてきた。

 ドサリと。

 ヤバい、このガラスペン呪いのアイテムかも。


「……大丈夫だ。 これぐらいの呪いは変わり身の術で回避可能だ。今、死んだのは私の身代わりのトリさんだ。気にするな。それにこの魔術はガラスペンではなく、この美しい色彩雫いろしずく紫陽花あじさいのインクが原因なので、このインクさえ使わなければ大丈夫だ。確かに、とても美しいインクで惜しいが、私が回収しておく」


「そうなんですね。なんだ。今回は簡単に解決しましたね。トリさんお大事に」


 トリさんは大丈夫だと言っていたが、クチバシからちょっと血を流していたので、本当はかなりのダメージがあったに違いない。



           ※※※




 今日もyoutube動画の収録や魔女〔岡崎弘子〕の魔術災害の解決とかで、〔ストヨコ〕書店を出たのは24時を回っていた。

 隣りの店舗の〔ワークマン女子〕から、先日、出会ったというか、一目惚れした女の子が出できた。


「あ、〔有隣堂しか知らない世界〕のブッコローさんじゃないですか? 私、あのチャンネルのファンなんです」


 今日の彼女はオレンジ色の登山コーデの服で決めていた。脚も美しい。


「あ、私、本郷萌といいます。握手して下さい。いいですか?」


 脚もいいが、愛らしい瞳も可愛い女の子だ。

 ブッコローは手というか、右翼を差し出した。

 彼女の柔らかい手の感触が何とも心地良かった。

 癒される。






〔参考動画〕


【飾りじゃないのよ】物理の力で文字を書く!ガラスペンの世界~有隣堂しか知らない世界002

https://youtu.be/BanYVWRVZ90

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R.B.ブッコローしか知らない異世界書店〔ストヨコ〕 坂崎文明 @s_f

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