第8話 打倒、スライム。
レイヴンは、ひたすらにスライムの攻撃を避けていた。
防戦一方。
交互にくり返される体当たりのせいで、反撃する暇がない。
(くそっ……!)
しかし、糸口はつかめた。
分裂後のスライムは、酸液の攻撃をして来ないのだ。
おそらくは、体が小さくなったために、できなくなったのだろう。
前後から同時に、体液を放出された場合には、装備が完全にダメになる恐れの高かったレイヴンとしては、うれしい誤算だった。
おまけに、体当たりのスピードについても、完全体よりかなり遅い。
これは、単に相手が疲れはじめた、という影響だけではないはずだ。やはり、分裂する攻撃は、向こうにとっても、最後の切り札だったということなのだろう。
それならば、やりようはある。
「いい加減に見飽きたぜ!」
気合を入れる掛け声とともに、レイヴンが一気に横跳びをする。
ダンジョンの壁までさがって、スライムの射線を無理やり狭めた。
びゅん。
目論見どおり、スライムの体当たりが誘導される。
「かかったな……」
こうなっては、見事なコンビネーションは、かえって仇となる。
単発の攻撃も、同じ方向から飛んで来るならば、対処は容易だ。
「せやぁあああ! うりゃぁあああ!」
交互に剣を振りぬいて、飛来するスライムの体を切り裂いた。
ぼとり。
四つに分かれた水の塊が、レイヴンの左右に落下する。
注意深く眺めてみても、今度は動きだす様子がない。
(一度、子供になってしまえば、さらに分裂することはできないってわけね……。学んだぜ)
やがて、レイヴンの見ている前で、エネミーの体は、ダンジョンの地面に吸いこまれるようにして、にわかに消えていった。
「――ったく、珍妙な造りだな!」
呆れたようにレイヴンはつぶやくが、それと同時に、別のことも覚えざるをえなかった。
すなわち、いくらエネミーを倒したところで、戦利品は獲得できないということである。
(動きには、もう慣れた。……スライムだけなら、殺すのも難しくはない)
しかし、物資を獲得できないようじゃ、自分の装備は変わらない。ゴールドマンの言葉を借りれば、最弱のままということになる。
それでは困る。
(ただでさえ、剣にかなりのダメージを入れちまった)
手ぶらで帰るのはまずいだろう。
ゴールドマンにしてみれば、生きて帰るのは絶対条件。そんなことを達成しても、レイヴンに、白塔攻略の素質があるという証明にはならない。
どうにかフロアを駆けずり回って、2つの装備を手に入れたものの、それは、獲得したというよりも、他のプレイヤーがあえて拾わなかったものを、仕方なく回収したと言わざるをえないほどに、残念な品質の武具たちであった。
(ひとまずは、戻るか……)
ダンジョンには窓がない。
一度、中に入ってしまえば、外の様子が全くわからなくなるため、自分がどのくらいそこにいるのかという、時間の感覚が失われてしまう。
まだ昼になったばかりという気もするし、すでに日没であってもおかしくないとも思われる。
いずれにせよ、これ以上、荷物を増やすのは危険だろう。
今のレイヴンの力では、身軽に動けなくなってしまうからだ。
レイヴンは、ゆっくりと来た道を引き返していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます