第9話 エルヴァ、死ぬ。
プレイヤーが回収して来た戦利品は、ゴールドマンの配下に納めるのが通例らしい。ゴールドマンが手ずから性能をチェックしたり、プレイヤーの資質を評価したりするのは、稀のようだった。
しかし、初めてダンジョンに潜った際には、才能を測るという意味も込めて、ゴールドマンが対応するのだという。
そのため、レイヴンの眼前には今、ゴールドマンがいた。
立ち机の上に置かれた戦利品2つと、溶解されてしまった剣とを眺めながら、ゴールドマンは、感心したように幾度もうなずきをくり返している。
「なるほど……。まずまずの成果だね。そっちの武器に関しては、スライムとの交戦でできてしまったものと推察する。そうだとすると、レイヴン君は、相手の攻撃を防ぐことも、逆に、完全に避けきってしまうことも、人並み以上にできるんだと、私は思うよ。力もそれなりにあるだろうから、オールラウンダーの方向性で、武具を固めていこうか。せっかくの速さが、重装備で潰されるようじゃ、もったいないからね。……いいだろう。もう一段階、上のランクを貸そうか。今の装備を外してくれるかい?」
「……えっ? いいんですか!?」
ゴールドマンの発言は、装備のグレードを上げるということにほかならない。
思ってもない提案に、レイヴンは驚いて聞き返していた。
そんなレイヴンの様子に、ゴールドマンは笑って答える。
「まっ、私なりに、レイヴン君には期待しているということだよ。そういう意味が含まれているのだと、思ってほしいな」
うなずき、やがて渡された新たな装備を、レイヴンはまじまじと見つめた。
心なしか、まとっているだけで、自分が強くなったかのような錯覚がして来る。
(まだ日は高い……か)
体に疲労感は覚えるものの、それとは比べ物にならないほど、元気がありあまっている。
レイヴンは、再び白塔へと足を向けていた。
※
それから3日ほど経っただろうか。
ようやく、ゴールドマンの配下による検品にも、慣れて来たという段階で、レイヴンは本人から呼び止められていた。
その顔つきは、これまでに見たことがないほどに険しい。
「レイヴン君、こっちに来てくれ」
指示され、検品の列から外れたレイヴンは、いかにも言いにくいことを話そうとしているゴールドマンの姿に、胸中の不安を隠せなかった。
「どうか……したんですか?」
何があったのか?
いいや、もっと直接的な表現をするなら、姉の身に何かあったのかと、そう聞いてしまいたかった。
だが、真実の暴露を恐れたレイヴンは、そういう遠回りな表現でしか、ゴールドマンに尋ねることができない。
「先ほど、ソバータウンにいる私の知り合いから、急ぎの連絡があってね――」
ソバータウン。
その地名がゴールドマンの口から発された時点で、レイヴンの恐れは確信に変わっていた。
「君のお姉さんが、息を引き取ったらしい。……力になれなくて、申し訳ない」
脱力。
体中の筋肉が、一瞬ですべてなくなってしまったかのように、レイヴンはその場にへなへなと座りこんでいた。
(間に……合わなかったんだ)
あれだけ必死にやったのに、姉の反対する気持ちさえ無視して、ダンジョンにすがったというのに、自分はついにエルヴァを助けることができなかったのだ。
襲われる絶望感と自己嫌悪に、レイヴンの視界は真っ黒に染まっていく。
「姉ちゃん……は、今……どこに?」
ようやくのことで絞りだした言葉は、ほとんど意味のないような問いだった。
沈鬱な表情を浮かべながら、ゴールドマンがそれに答えていく。
「カラサ病は、その死後に急速に感染者を増やす……。すでに手遅れかもしれないが、君自身を感染させたり、レイヴン君たちの故郷を、これ以上病気で蔓延させたりするのは、お姉さんの本意ではないはずだ。もしものときは、速やかに埋葬するよう、私のほうから頼んである。だから、会うことはもう……。それから、簡素な造りにはなってしまうが、家のそばに墓標も立てさせてもらうつもりだ。過ごした時間は短いとはいえ、私にも縁がないわけではないからね」
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