第9話

この時の私は子犬といる時以外は心身共に限界を超えていました。でもそれは今だから分かる事です。

あの頃は私は何故仕事も学校も辞めなけれならないのか分かりませんでした。突然病院の先生達からは

「ちゃんと専門の病院で診てもらった方が良い」としか説明されず、学校はもう両親が退学届を出していました。けれどその時の私は病院や学校を辞める事に何の感情も湧きませんでした。子犬といられるならもういいやと思っていました。

実家に帰る前に父に電話で話した時父が

「子犬の名前を紗羅から別の名前に変えて欲しい」と言われました。何でも呼ぶイントネーションが父の名前に似ているから自分が呼ばれているようで嫌だという事でした。その頃には子犬も自分の事を「紗羅」だと思っていたので速攻でニュアンスの似ている「ソラ」に変えました。

少しくらい覚えるのに時間がかかるかなぁと心配していましたが、何の問題も無かった…。あんまりにもすんなり自分をソラだと認識した子犬にちょっと悲しくなりましたね。

「紗羅」っていう名前、結構飼う前から一生懸命考えて漢字も辞書で調べて考えたのになぁ…。

あっさりソラに順応しちゃってさ…。考えたの5秒くらいだぞ⁉︎あなたにとって紗羅もソラもあんまり関係ないんですね‼︎ちょっとショックです。

まぁそんな感じで子犬の名前がソラになりました。

実家に帰る時には母が迎えに来ました。

寮からの引っ越し準備は辞めると決まった頃から地道にコツコツしてたし物はあまり無かったのですぐ終わりましたよ。

引っ越す前の日に母はやって来て病院の方々と学校の先生達に挨拶しました。病院の先輩、同僚、後輩達や学校の友達には何も言いませんでした。

寮で一緒だった人達とは最後に挨拶して母とソラと一緒に寮を後にしました。

母は病院の先生達や学校の先生達と何やら話していましたが、私はもう関係ないと思っていたので何を話していたのか知りません。

さて母とソラと寮を後にしてからこれから実家に帰るとなり私は父に会う事、実家に帰る事で心の中で

そっと「死んでしまう事」を覚悟しました。

密かに「遺書」みないな物も書きました。誰宛でもないただ私が「死んだ後」のソラの事を頼むみたいな事を書いた物です。

そしてソラは新幹線以外の全ての乗り物に乗って私と母と一緒に実家にやって来ました。

実家にはすみれさんがいます。

二人の初対面です。

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