第8話
「ちっさ!」
それが母がソラを初めて見た時の第一声でした。
ソラは5ヶ月を過ぎてても本当に小さい子犬でした。まだ両手に乗るくらいしか大きくなかったんです。黒タンのソラ。まだこの時は紗羅という名前だったので母に「この子が紗羅って言うダックスの子犬だよ」と紹介して母と対面させました。
母は思っていたのよりかなり小さな子犬でビックリしたらしいです。
私の精神的な支えだと言って飼う事を父に認めさせたのでもう少し大きな子だと思ったそうですが、5ヶ月にしてはかなりの小ささに私がちゃんと世話をしているのか心配になったそうです。
しかし精神的な支えである事は私の様子を見て感じたそうです。
そんな様々な事を考えていた母と子犬を2人っきりにして私はさっさと仕事に行きました。
この当時の私は仕事場ではちょっと浮いていました。心療内科に通院している事は看護師長と病院の先生しか知らないので、毎週ある曜日になったら病院を休む私に先輩や同僚、後輩達から反感を持たれていました。そして病院や学校での私の様子はプライベートの時とは違い鬱状態でした。その時は私自身普通にしているつもり…むしろ子犬を飼い始めてから精神的に安定していると思っていました。
しかし安定しているのは子犬の前だけでそれ以外の私は自分でも気づかないくらい徐々に精神的に追い詰められていたようです。
普段からあまり先輩や同僚、後輩達とは交流を持っていなかったのでプライベートの私を知らないのですよ。ただ子犬を飼い始めたとしか知らない。
病院や学校での私はもう取り返しがきかないくらいヤバかったらしいです。
そんな状態だと気づかない私は調子が良いと思っていました。全部子犬が私の元に来てくれたから毎日が充実していると思っていました。
それくらい子犬は私の精神的な支えでした。
子犬のおかげだなぁとノンキに思っていた私。周りはこのままではヤバい!と見て分かるくらいに不安定な状態でした。
さて子犬と二人っきりにされた母はどう子犬と接すれば良いのか分からなかったそうです。
すみれさんが我が家に来た時はほぼ成犬でしたからね。なのに目の前の子犬は両手に乗るくらいしかない。しかも飼い始めたばかりなので躾の真っ最中。
私は仕事に行く前に母に子犬の世話の仕方を紙に書いて渡しておきました。
母はそれを参考にしながら子犬と過ごしたようです。なのでソラの初めての散歩は母がさせました。
本当なら初めての散歩は私だったのに!
母はすみれさんと同じようにトイレの躾やご飯の世話を頑張ってくれましたが、なにぶんすみれさんよりかなり小さい。こんな小さな子犬とは接した事は無い。さてどうしたもんか…。
そんな母の心境など知りもせず子犬はあっさり母に懐きました。まだ人見知りする頃じゃなかったのです。陽気に遊んでくれる人がいる!と大ハッスル。
いつも通り暴れ回ったそうです。
すみれさんは我が家に来た時から大人しい子だったのでこんなに暴れ回る子犬に母はついていくのに精一杯だったそうですよ。なんか思ってたのと違う!何でこんなに小さいのに元気なの⁉︎何でこんなに走り回っているのに疲れないの⁉︎何でこんなに小さいのにモリモリご飯をたくさん食べるの⁉︎
分からない事だらけみたいでした。
夜、部屋に帰って来たら母は疲れていました。
母よ、子犬とすみれさんを比べてはいけないよ。子犬ってこれが当たり前だから。すみれさんが大人しすぎるんだよ。
そう諭しました。母は疲れていましたが子犬が自分にも懐いてくれたのが嬉しかったそうです。一緒にいて子犬の性格がよく分かったみたいですね。
次の日母は病院の先生から呼び出さられました。
私には教えてくれませんでしたが多分私がヤバい状態だと伝えられたんだと思います。
母は先生と看護師長と話し合いをした後実家に帰って行きました。
それからしばらくして私は病院と学校を辞めて子犬と一緒に実家に帰る事になりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます