第12話解答編

 謝罪を終えて、ヴィーシニャさんの部屋も遠ざかった頃、私は同行してくれたトロイノイを引き止め、抱きしめたいと懇願する。

 ……なんとなく抱き心地に心もとなさを感じていると、トロイノイがこう聞いてきた。

「マギヤ、あたしといて苦しくない?」

 ……どうしてそんなことを?

 疑問混じりにいいえと答えると、トロイノイは私に抱きつかれてる隙間から手を伸ばして、私の顔をトロイノイに向かせ「……あたしに嘘ついてない?」と尋ねてくる。


「……トロイノイの素晴らしさや尊さでクラクラしたり興奮しすぎたりはしますけど、結論苦しくないの『いいえ』です。嘘じゃありません」

 ……さっきのあれは嘘に入るでしょうか? 私は目覚めないトロイノイの下の着衣をある程度脱がせて犯そうとしたらトロイノイが起きたので、ごまかしたあれは。

 そもそも噓とはなんだ?

 偽ること、ごまかすこと、……人を傷つけること。

ああダメだ、ごまかしたといった時点で嘘だ。

 確か準強制性交等って未遂でも罰せられるんでしたっけ?

 いやだ自業自得だとしてもトロイノイと別れたくない――

「…………わか」

「れませんよ、絶対に」


 最初は会議室で寝てるトロイノイを犯そうとしたことだけ言うつもりでしたが、気が付けば、もっといろいろ話してしまいました。


「え、待って、いきなり何?」

「もう貴方に、嘘や隠し事は出来ない、したくないと思ったら、自然と多量に出てました」

「全部本当なの……?」

「もちろん。それに、まだ途中なんですが、続けても?」

「……いっぱいあるようなら今度でもいい? もうすぐ夕飯だし、地味に手首が痛いし」

 ……そういえば、元々夕飯への時間潰しも兼ねて謝罪に行ったんでしたっけ。

 あと、ずっとトロイノイの手首を握りぱなしなのに、言われてやっと気が付きました。

「それもそうですね。次のデートまでに、己の罪を洗い出し、数えておきます」

 ……手首に握り跡は、無いか。……キスマークなら付くかな。

 ……付かない、まあいいか。



 ……ウリッツァに嘘がバレてた……。おのれプリストラ……余計な入れ知恵を……。

 いや、私も私ですが……、だって期間限定としても私の想いに応えてくれるという言葉を忘れて、今更ヴィーシニャさんのことを言い出すなんて……。憎たらしい雌兎が……。

 ……死ね、死ね、死ね、死ね……! ああくそ、またヴィーシニャ……さんに良からぬことを考えてる……。



 気晴らしに鳥を百羽ぐらいとうかと思ったら、遅い時間な関係か、十羽しかいなかったせいで、十羽しか射てなかった……。


 この殺した鳥は……凍らせてバラバラにして犬にでもやりましょう。


 ……少し気が紛れたので明後日提出の宿題でもやりますか。


 ……今日の朝食は……チキンジンジャースープと目玉焼きとバケットとサラダにしますか。


 デザートにチョコトリュフがある……いただこう。


「……ウリッツァ、垣を取り繕うの取り繕うは『let's make a bird』じゃないと何度言えば……。よく小さい括弧に文を入れようと思いましたね」



 ……今日はトロイノイとデート♪

 えーと、前回どこまでトロイノイに話しましたっけ?

 トロイノイのことが二つ、ヴィーシニャさんのことも二つ、ウリッツァと……母のことが少々。

 …………いけない、トロイノイが呼んでる。

 トロイノイのそばまで来て……たまらずトロイノイを抱き寄せる。

 トロイノイが私を心配して名前を呼ぶ声は聞こえてるが……離れたくない。

 今ここに巨大隕石か何かが降ってきたらトロイノイと共に死ねる気がする。

 ……もし、今私といるのがヴィーシニャさんだったら、ヴィーシニャって呼び捨てしてビクッとなるヴィーシニャさんの柔らかい髪を優しく撫でて……はぁ……。

 ……少しだけ離れて、実際に目の前にいるトロイノイが私を心配してくれている目や顔と、真っ直ぐな髪を眺めて、トロイノイの後頭部に手を添え、髪にキスする。

「……ごめんなさい、行きましょうか」

 ……話す罪が、増えたな……。

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