第11話解答編

 ……目を開けると、クッションの上のトロイノイの寝顔が暗かった。

 ……首をかしげると、私の影で暗くなってるだけと分かった。


 意識を手放す直前、トロイノイに抱きついた記憶はありますが、押し倒したことは無い……はず。

 あそこから私が無意識に押し倒したか、トロイノイが自分で仰向けに寝転がったか……。

 ……どちらでもいいなと思い直し、トロイノイを起こさないよう、そっと腕や脚を解いて、トロイノイの着衣を眺める。


 前にジッパーがあるパーカーに、ボタンとチャックで開け閉めするタイプの長いズボン、それと靴下。

 私は意志を持って一度まばたきした後、トロイノイのパーカーのジッパーをなんとなく下ろす。

 パーカーの下は無地で丸首のシャツ。それをズボンにインしている。


 ……どうせ大体脱がすからいいやと、トロイノイのズボンのボタンとチャックを外し、トロイノイのパーカーの下のさらに下を暴く。

 タンクトップ……もっと言えばカップ付きのタンクトップか。


 一度トロイノイの上の服をある程度元に戻し、ズボンの開いてるチャックの間から見えるスパッツを眺めつつ、スパッツの下、いや、中の天国を想像しながら、手元に召喚した愛用のブリスターパックを口にくわえて、自分のズボン等を下ろ――

「何やってんのマギヤ……?」

 ――そうとしたら、トロイノイが起きた。


 トロイノイがまばたきで目を閉じたのと同時に時を止める。

 トロイノイは、目の前の私に夢中……私に夢中、ふふ、いい響き……で、自分のズボンないし着衣の乱れにまだ気付いてないはず!

 まばたき撮影した、私に脱がされる前のトロイノイの写真を参考に、トロイノイの着衣を本気で戻す。

 少し呼吸を整え、トロイノイの前に座る。……移動したら逆に怪しまれうるので。

 さ、テイクツーと行きましょう。


 トロイノイをどうにかごまかし、顔を拭く用のフェイスタオル――ちゃんと綺麗な奴です――も渡して、トロイノイが洗い場へ行くのを見送る。

 ……まだ駄目、今度トロイノイが、したいとか、していいとか言うまで、我慢我慢。


「マギヤ、そろそろ出れる?」

 ああ、そういえば、ここ会議室でしたっけ。

 トロイノイが何時まで予約してたかは見てませんが、そう言うとなると、もう出ないとなんでしょう。

「いつでもいいですよ」



 会議室を出ると、外の窓から夕日が差し込んでいた。

「トロイノイ、顔を洗い終えてすぐ、時間を確認してたようですけれど、何時と出てました?」

「確か、四時前ぐらいだったと思うけど」

 ……夕食はまだ先か。そう思うと自然と口に出た言葉があった。

「……ヴィーシニャさんに、謝らないと……」

 ……ヴィーシニャさんに謝るなら、……独りじゃ駄目だ。

「……一緒に来てくれますか、トロイノイ」



「ヴィーシニャさん。この度は申し訳ございませんでした!」

 謝罪が先! お辞儀は後! 角度は九十超えてビシッと!

 顔を上げていいと言われて顔を上げるときに、頭を振って髪を直さないように、予め魔法などで固めておくか、振って直さなくていいほどの髪量にするといいでしょう。

 ……ふざけたマナー講座みたいなこと言ってますが、ヴィーシニャさんに「申し訳ない」のは、本心ですよ。

 「命だって惜しくない」も本心なのに……。

 「自分を大事にして」だなんて……ヴィーシニャさんはともかく、トロイノイまでそう言うとは……。

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