第6話解答編
かわいい、好き、抱きたい、吸いたい……包まれたい。
トロイノイへの発作的衝動? 衝動的発作? とにかく、目の前のトロイノイが欲しくて欲しくてたまらない。
私に、視線と感情が物体となって相手に刺さる魔法等がかけられていたら、トロイノイが死にうる気すらする。
……ある意味トロイノイの急所ばかり見てるから余計に。
私の視線に気付いたトロイノイが「何?」と尋ねてきた。
こちらに振り向いて揺れ動く長すぎない濃い茶髪、私を見つめる翠玉の瞳、滑らかに動く唇……、私に尋ねるトロイノイの愛らしさの前に平静を装いながら、何を言おうか考えようとした直前、トロイノイの制服のネクタイが目にとまる。
「……ネクタイ、歪んでます。……整えましょうか?」
なんとなく紡いだ私の言葉に、トロイノイは自分のネクタイを見たあと、「じゃあお願い」と承諾してくれた。
トロイノイのネクタイを整えるためにネクタイを持った瞬間、これで思いっきりトロイノイの首を絞めて――ひどいことをする邪念を振り払いながら、トロイノイのネクタイを整える。
「ありがと、マギヤ」
……好き。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き、大好き、愛してる、結婚! 子づくり!! 一家心中!!!
ああ……抱き寄せたい、いやまだ駄目だ、今異性の記憶が無いってことになってるから!
トロイノイ限定で取り戻したことにするにしても、きっかけが小さすぎる!
トロイノイから抱きに来るなりキスしにいくなりぐらいは無いと、説得力皆無!
……以上の事柄が一秒かからずに浮かんだ後、冷静にトロイノイに、どういたしましてを言う。
トロイノイがどこかへ行くのを見送ると、私は即座に男子トイレの個室前に
魔法で便座を持ち上げつつ、ベルトを外し、スラックスと下着を脱ぐ。
それで私は正常位の如く、薄暗い中でも真っ白く見える便器に、濁った白をぶちまけようと己を罰する。
こちらからあまり目視できない最奥へ向かって液を注ぐ、という点では性行為も排泄も大差ない。
いやむしろ、私が排泄しようとしているのは精液の方だから、もうこれは性行為でいい。
声を抑えきれないまま、破壊的性衝動のまま、目の前が真っ白になる。
……便器の白、出たものの白、あふれる白、紙と紙を取る手の白。
もうすぐ次の授業の時間……時を止めよう。……まだ目の前の白が強すぎる。
なぜかトロイノイよりヴィーシニャさんの名が頭に浮かび、さらなる情欲を白濁にして吐き出す。
……十から先を数えるのを放棄したほど吐き、力尽きかけた所で呼吸を整え、冷水で手と顔を洗い、トイレを出る。
止まった時の中、ほとんど人のいない静かな廊下を、悠々と歩いて次の授業場所に向かい、現地に着いてから時間停止を解除し、授業に戻る。
……あれから三日三晩、私は、どうしたらトロイノイが私に抱きついてくるか、考えてみた。
結論、直接頼もうと思う。
今のまま放置してたら、そのうちトロイノイ欲が爆発……いや暴発する。
それで、トロイノイの背後にすり寄り、名乗りもせずに抱き寄せ、髪や服の襟周り等からわき立つトロイノイの匂いを堪能したのち、その耳やうなじ周りを舌なめずりし――後ろから無理矢理トロイノイと交接するのは絶対に避けなければならない。
私は、放課後、体育館棟裏に来るよう、トロイノイを呼び出す。
ああ……ちゃんと来てくれたトロイノイ……。
……好き、はぁ、はぁ……。
トロイノイが私に呼んだ理由を聞いてる……そうだ、本題を言わなきゃ……
「ネクタイを整えたあの日から、貴方のことで頭がいっぱいなんです。……どうしたらいいでしょう?」
……うん、あの頼みは、直接口に出すと記憶喪失を怪しまれるかもしれませんし、トロイノイに対処を委ねる方針でいいでしょう。
さあ、トロイノイはどう動く?
……トロイノイが答えないまま、どれぐらい経ちました?
五分? 十分? 興奮しすぎて時間感覚に自信が持てない。
そうだ、トロイノイの後ろに時計があったはず、あれを確認すれば。
えーと、えーと、あれ? 時計が読めない? ちょっと眼鏡の望遠魔法をオンにして……あれ、はっきり見えるのに……何時だ、今?
……トロイノイ? あれ、トロイノイの声がなんだか遠い。
……あれ、トロイノイから血の匂い……そういえば、一昨日頃からなってましたっけ。
いやでも、なんでいま嗅げて……?
目の前の白から、明るい部屋と私を覗き込むトロイノイの顔に変わる。
トロイノイの顔のある方に首を向けると、トロイノイの手がスカート内部を守る。……いい匂いなのに。
というか、私なんでここに? トロイノイに、あの……と声をかけてみる。
「あ、マギヤ! ここがどこか分かる?」
「……聖女邸の医務室ですか?」
「九足す九の答えを、小指を一とした2進数で示して」
「えっと十八ですから十六と、二の……こうですね」
そう私が答えるとトロイノイは、よかった……! と寝てる私に抱きついてきた。
どうにか抱き返そうとしたら、「あ、ごめん!」と離れられる。
「……離れなくていいのに。だって私達、恋人同士……ですよね?」
「え、マギヤ、記憶戻ったの……?!」
「……トロイノイのことだけ、ですけど。……一度医務室を出ましょうか」
私達は医務室の人に挨拶した後、医務室を出る。
出てすぐ、私はトロイノイに、こっちを向くよう頼み、改めて抱き締める。
頭がトロイノイのことしか考えられなくなる前に少し離れて、トロイノイの頬に手を添える。
「これから離れてた分も含めて、いっぱい愛し合いましょう?」
緑色にきらめくトロイノイの瞳に映る自分の笑顔。
トロイノイの瞼越しに、そっと口付けた。
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