第2話
……あの、どこから話していいのか分からないんですが、まず私についてお話します。
先程お伝えした通り、私は梶野梨奈といいます。今年で二回生になりました。専攻は社会学で、社会心理学の授業で岡崎先輩を何度か見かけたことがあります。
ええと、あとは何を話せばいいんでしょうか。自分のことと言ってもあまり人と話すのを得意としないので何から話していいのか……。先程も言った通り、あまり友人がいないもので、自発的に話すことがあまりないといいますか……。
……あ、そんなことはどうでもいいんでしたね。奇祭の話でした。話が最初からずれてしまって申し訳ありません。
奇祭というのが、私の成人を祝うちょっとしたお祭りのことなんですけど、少しだけ変わってて。変わってるというのが、ここじゃなくて遠く離れた山村で行われるんです。
なんで突然山村が出てくるんだという話ですが、その、そこが私の母方の祖母の住む村でして。そこでは誰かが成人する度に、神様であるすかわて様にあんなに小さかった子供がこんなに大きくなりましたと報告をするんです。
私はあまりその村にルーツはないんですが、母が今年で二十歳になるのならお祭りをしようって。祖母もそのつもりのようで、村ぐるみで準備をしているそうなんです。
なぜ伝聞系なのか、ですか? ……あ、すいません、これを言うのを忘れてました。私の両親は私が小さい頃に離婚していまして。私の親権は父がとったので、私はあまり母の記憶がないんです。母もですし、母方の祖母の記憶も。
あ、気を使わないでください、私は慣れてますしそれで不便な思いをしたことはありませんから……。それに父も母とは時折合わせてくれたので、完全に記憶がないだとか、関わり合いがなかっただとかそういうことではないんです。節目節目には必ず母も含めて食事に行きましたし、母や母方の祖母からお祝いをもらうこともありました。なので、没交渉だったってわけじゃないんです。父はあまりいい顔はしませんでしたけど。
話が逸れましたね、すいません。あまり話すのが得意じゃないのですぐこうやって話がずれてしまってごめんなさい。奇祭についてに話を戻しますね。
そのお祭りは村ぐるみで行うのに、当の本人も祭りに参加するその家の人も祭りの詳細を知らないんです。おかしいですよね、そんなの。成人を祝うお祭りなんですから、お祭りの主役になる家は準備することとか沢山あるはずなのに何も教えてもらえないんだそうです。
なので、私もお祭りの詳細は知りませんし、何度母に聞いても教えてくれませんでした。母も知らないんでしょうが、私としては詳細の分からないお祭りに参加を差せられる私の気持ちになって欲しいと言いますか……。とにかく、現時点でそのお祭りに関して分かることがないので私は不安で仕方なくて。
それに、そこまで徹底して秘密にしているお祭りなのに、母はお友達を連れておいでと言うんです。矛盾してると思いませんか?
普段、村の人間にも隠しているお祭りなのにですよ? 村の外の人間を連れてきて参加させるなんて、やってることがちぐはぐじゃないですか。
正直に言うと、私はこのお祭りが怖いです。先程もお伝えしましたが、お祭りの詳細は何も分かりません。説明されてませんし、インターネットで必死に調べましたが何も出てきませんでした。
え、参加するつもりなのか、ですか? ……母が参加してほしいと言っているので参加するつもりで考えていますが、本当に参加していいものなのか分からなくて。それでこちらを頼らせていただいた次第です。
オカルト研究部の噂はよく耳にしています。なんでも岡崎先輩がなんでもぱぱっと解決してしまうのだとか。それが神がかってるから、色んな方面から色んな話が持ち込まれていていつも部室には誰もいないんだとか。でもその割には生活感があるというか……すいません、こう、散らかってますよね。言い方が悪くてごめんなさい、でもこれ以上どう言っていいのか分からなくて……。気分を悪くしてしまったらごめんなさい。
そんな岡崎先輩が一緒に来て下さったら私は安心だなと思って、依頼に来た次第です。岡崎先輩が忙しいのは存じ上げてます。聞いた話ですけど、学長や学部の先生からも依頼を受けてるだとか……。え? そんなことはない? そんな、ご謙遜を……。
あ、とにかく、です。私は成人を祝うお祭りのことをあまり信用していないというか、得体の知れないものだと思っているので一人では参加したくないんです。最近妙な空耳も聞こえていて寝不足な中、あまり気を遣うようなところに一人でいたくないというのが本音です。
……え、空耳が何かですか? 私が疲れてるだけだと思うんですけど、どこからともなくかんからり、かんからりって下駄の音がするんですよね。空耳なのでどこかで下駄を履いた人が歩いてるとか、そんなことはないんですけど。ふとした瞬間に耳につくので気持ち悪いなって……。
空耳の話は置いておいて、いかがでしょうか。岡崎先輩さえよければ、一緒にお祭りに参加してくださいませんか。謝礼とかは出せないので、お忙しければ蹴っていただいても構いません。その場合は私一人で頑張って参加することにします。母とも久しくあっていませんし、この機会に顔を見るのもいいかなって思ってるので……。
え、岡崎先輩以外に人が増えてもいいか、ですか? それは構わないと思います、できるだけ大勢でと言われたので。多分母や祖母からしたら私は大切な一人娘
一人孫ですから盛大にお祝いをしたいんだと思います。なので人が増える分には何も問題はないかと……。
……え、それなら受けてくださるんですか? 本当によろしいんですか、岡崎先輩は多忙な方だって聞いてたので断られるつもりで来たんですが、本当にいいんですか?
ありがとうございます、受けていただけると思っていなくて今凄くほっとしてます。でしたらお祭りの詳しい日程や交通手段について、また後程詳しく共有させていただければと思いますので連絡先を伺ってもいいですか?
本当にありがとうございます、なんだか救われた気持ちです。では、当日も何卒よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます