第10話 ヤンデレ義妹

 ウキウキ気分で自宅のマンションを目指す。

 マンションに戻れば、また綾花と二人きりで幸せな時間を過ごせる、そう思った。だが、コインに表と裏があるように……幸運があれば不幸も訪れた。


「啓之介」

「……!?」


 名前を呼ばれ、振り向くとそこには義理の姉の春日井かすがい 小春こはるが立っていた。

 ウソだろ……なんで、ここに。

 姉ちゃんは県外の大学に行ってしまって、地元には帰っていなかったはず。


「家を追い出されたんだって?」

「……つい最近まで不登校だったからな」

「VTuberにハマっていたせいでしょ」

「う、うるさいな。姉ちゃんには関係ないだろ」

「関係はおおありよ。ていうか、その隣の女子は誰よ」


 俺の隣で慌てている綾花。そりゃそうだよな。


「義妹だ」

「は?」


 当然の反応をする姉ちゃん。

 ついでに俺の頭にチョップしてきた。痛ぇ。


「なにすんだよ!」

「あんた、ついに女子高生を誘拐とか!」

「なわけないだろ。この子と同棲というか、一緒に住んでいるんだが」

「はぁ!? 嘘でしょ」

「本当だ。なあ、綾花」


 俺が振ると、綾花はうんうんとうなずいた。


「本当です。わたしとお兄ちゃんは兄妹です。あなたこそ、誰ですか」

「私は春日井 小春。この馬鹿の義理の姉よ」

「……え」

「知らなかったの?」

「……はい」


 あぁ、言ってしまったか。

 別に秘密にするつもりもなかった。

 いつか言おうと思ってタイミングを伺っていたのだが、こんな時に。


「綾花、悪い。姉ちゃんのことは今週中には白状しようと思っていた。すまん」

「べ、別に気にしてないよ。ただ、驚いた」

「すまん。でも、この姉とは何もないからさ」


 俺がそう弁明すると、姉ちゃんは俺にわざとらしく抱きついてきた。


「そんなことありませーん。私と啓之介は、ご覧のとおりラブラブだもん」


 ちょ、マジかよ!!

 姉ちゃんって、俺のこと嫌いだったはず。疎んでさえいたはずだ。なんだこの変わりよう。今までの姉ちゃんじゃねえぞ!!



「お前誰だ!」

「失礼ね。お姉ちゃんよ、あんたの」



 んなアホな。

 こんなの姉ちゃんじゃねえ!

 とにかく逃げるぞ。


 俺は姉ちゃんから離れ、綾花の手を引っ張った。そのまま逃走した!



「すまん、姉ちゃん!」

「啓之介……!」



 * * *



 マンションまで戻り、エレベーターに乗った。

 運動不足のせいで息が上がってキツイ。

 姉ちゃんのせいで酸素不足だ。くそう。


 汗を拭っていると、綾花がようやく声を発した。



「……ねえ、お兄ちゃん」

「な、なんだ」


「あの人、本当に姉なの?」

「義理の姉さ。血は繋がっていない」


「大問題じゃない! お兄ちゃん……まさか、綾花とは遊びだったんじゃないよね?」


 恐ろしい声で俺を睨む。

 いつもの綾花じゃない!

 ホラーすぎて怖すぎるって。

 しかも、いつの間にかカッターナイフを取り出しているし……! なんか血のような赤い液体がポタポタ滴っているし、危ない危ないって!!


「待て、落ち着け!」


 なだめようとすると、エレベーターの扉が開いた。

 扉の前にはマンションの住人らしき男性が青ざめてこちらを見ていた。



「うああああああああああ!!!」



 誤解された。

 今の絶対に誤解されたあああああああああ!!



「お兄ちゃんはわたしのなの……。誰にもあげない。奪わせない……絶対に、絶対に」

「分かった。分かったから、綾花。カッターナイフはしまってくれ。銃刀法で捕まるから!」


「綾花を裏切ったら殺すからね」


 目がマジだ。

 まさか、綾花がここまで他の女子に過剰反応するとは。しばらく、姉ちゃんとは会わない方が良さそうだ。



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