第9話 幸運の女神
はぐっと焼きそばパンを
……うまッ。
噛めば噛むほど幸せの味しかしない。
俺の脳内は今、幸福の絶頂にいた。
「ありがとう、綾花」
「ううん、いいの。お兄ちゃんを幸せにするのが、わたしの夢だから」
華やかに笑う綾花の表情も幸せそうだった。
俺は女神に拾われたのかもしれない。
しかし、なぜここまでしてくれる?
「なあ、改めて教えて欲しいのだが」
「きちんと事情を教えるね。実は――」
綾花が理由を話そうとした……その時だった。
こちらに猛接近する物体があった。
俺は綾花をかばうようにして避けた。
直後、それはドシャっと地面に落ちた。こ、これは……花瓶だ。
「上から落ちてきたのか!?」
見上げると、そこには人影があった。誰だ、分からん。
「え、なに……怖い」
「ここを離れよう」
校庭を立ち去る俺と綾花。
もしかしたらだが、あの伏見が俺を狙っている? ていうか、花瓶を落とすとか尋常じゃないだろ。これは立派な犯罪だぞ。
しかし、確証がない。
見上げた時、影が誰か特定できなかったからな。クソッ!
とにかく安全な場所へ避難しよう。
* * *
学校へ戻り、なんだかんだ時間が経って昼休みが終わった。綾花は心配そうにこちらを見た。
「お兄ちゃん、大丈夫かな」
「俺のことは気にすんな。綾花と一緒にいるようになってから幸運値が上がった気がするんだ」
「でも……」
「心配するな。その代わり……幸運を分けてくれ」
なに言ってんだ俺は。
そう思いながら頬を掻いていると、綾花は抱きついてきた。周囲の目を気にせず、大胆に。
「わたしの幸運、分けてあげるからねっ」
ぎゅぅぅっとされ、俺はマジで幸運値が上がった気がした。これなら、三日は余裕でがんばれるぞ。
気合が入ったところで、俺は綾花と別れた。
それと同時に誰かに見られているような気がした。……クソッ、誰なんだ。俺たちを監視しているヤツは!
教室へ戻ると退屈な授業が始まった。けど、俺はそれどころじゃなかった。いったい、誰が俺と綾花を狙っているんだ?
放課後、急いで教室を出ると――誰かに阻まれた。
「まて、啓之介!」
「ん?」
そいつは伏見だった。
またコイツか。
「貴様を不幸のドン底に突き落としてやる!!」
「なんでそんなしつこいんだよ」
「お前が憎い! お前が憎い! お前が憎い!!」
ボールペンを取り出し、攻撃してくる伏見。こ、こいつ……正気か!?
「やめろ。あぶねぇだろうが!」
「なぜお前なんだ。なぜお前がアキナの寵愛を受けているんだ!!」
「なに言っているんだ、お前は!」
アキナって、まさかVTuberの?
なぜコイツが。
まさかファンなのか。
「今日になって確信を得た。啓之介、お前の存在は万死に値する。死んで詫びろ!! この俺にな!!」
ブンブンとボールペンを振り回す伏見。目に入ったら失明だぞ。危険すぎるだろ。
俺はギリギリで回避していく。
あぶねぇなあ、もう。
なんとか逃げて廊下の曲がり角にきた。
ボールペンは俺の後頭部ギリギリをかすめた。ラッキー!
その時、ちょうど曲がり角から現れた体育系の教師・
「なにをしている、伏見!!」
「うわああああああああ、鬼怒先生! なぜ!!」
「なぜ、じゃない。ボールペンを振り回して危ないだろうが! 生徒指導室まで来なさい!」
「違う!! 啓之介が悪いんだ!!」
「春日井が? ふざけるな。春日井はなにもしとらんだろうが」
強制連行されていく伏見。
やっぱり、アホだ……アイツ。
なんにせよ、鬼怒先生が現れてくれたおかげで助かったぁ。
俺は階段を降りて昇降口へ。
そこには俺を待つ綾花の姿があった。
俺に気づいて健気に駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、待ってたよ~」
「帰ろっか」
「うん、帰ったらゲームしようね」
爽やかな笑顔を向けてくれる。
ああ、やっぱり綾花のおかげで俺は変わってきているらしい。確実に運が良くなっている。
よ~し、この調子でもっと幸運を掴んでやるぞッ。
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