第6話 一日一回ハグとちゅー

 水着に着替え、バスルームへ。

 温泉みたいに広くて清潔感ある空間。なんだろう、凄く異次元です……。高級ホテルの温泉をそっくりそのまま持ってきたような贅沢さがあった。


 ジェットバスがあるとかマジかよ。しかも見晴らしもいいから夜景も最高。


 更に水着姿の綾花が出迎えてくれた。

 うわぁ、花柄ビキニ……エロいです。じゃなくて、可愛い。胸、大きいな……。はぁ、なにこの幸せ。ありがとうしかない。


「お、お待たせ」

「待っていました、お兄ちゃん。さあ、座って」


 バスチェアに座れと催促され、俺は素直に従った。


「これでいいか」

「うん。じゃあ、洗うね」


 シャワーを当ててくる綾花。

 細い指で俺の背中に触れ、程よい加減で洗ってくれた。く、くすぐったい……。しかも、これは非常にドキドキする。こんな経験初めてだからッ!


「そ、その……綾花」

「……お兄ちゃん、わたし……」


 突然、綾花が声を震わせていた。

 様子がおかしかった。

 俺は気になって振り向いた。


「泣いているのか……?」

「あのね、わたしずっと啓之介お兄ちゃんと同棲するのが夢だったんだ。やっと実現できて嬉しい」


 夢……そんな、こっちこそ遠い存在の憧れであり、夢だった。


「どうしてこんな俺を拾ってくれたんだ。メリットなさすぎだろ」

「お兄ちゃんは覚えてないかもしれないけど、小学校の頃に助けてくれたから……」


 小学校の頃?

 う~ん……さすがに思い出せない。俺、馬鹿だから。けど、それを素直に白状するのも違うと思った。だから俺は胸に留めることにした。


「そ、そうだったな。うん」

「覚えてくれてた?」

「なんとなくな。小学校の頃の記憶って曖昧でさ」

「そっか。それでもいい。お兄ちゃんがいれば、それでいいの」


 俺の背中に抱きついてくる綾花。……胸、柔らかい。胸が当たって感触がっ。


(…………ぷしゅぅ)


 これは刺激が強すぎる……。


「あ、綾花。そろそろ浴槽へ」

「そうだね。じゃあ、先に入ってて」

「了解」


 体を流してもらい、俺は先にジェットバスの中へ入った。丁度良い温度の湯加減だ。しかも、ジェットがマッサージになって最高に気持ちいッ!

 なんかいい香りもするし、綾花のスタイル抜群なボディも堪能できて脳が回復していく。


 昨日まで家で普通の暮らしをしていたはずの俺が、ここまで逆転できるとはなぁ。


 気分よく夜景を眺めていると、綾花が入ってきた。足細いな……。


「ここは最高だな」

「VTuberがんばって良かった」

「やっぱり、儲かるんだ」

「うん、いっぱいお金貰ってるから。でも、お金じゃないよ。みんなを幸せにするのが、わたしの使命だからね」


 プロの志がまぶしい。

 けど、やっぱり高収入なんだなと納得した。しかも、綾花――いや、アキナはまだまだ伸びしろがある。ピークに達してすらいない。これからもっと人気が出てNo.1になれば、一生安泰かもしれない。

 ここまで世話になっているし、俺も手伝ってやりたいな。


「俺になにか出来ることはあるか?」

「え」


 意外そうに言葉を漏らす綾花。


「なんでそんな驚く!?」

「や、お兄ちゃんは働かなくていいよ?」

「なぬ?」

「養ってあげるって言ったじゃん。おこづかい、いっぱいあげるからね」


 マジカヨ。

 なんつーか、ヒモだな。男としてかなり情けないのだが、確かに俺に能力があるかどうかと言われれば微妙なところ。今日の初配信だって緊張で一言しか発せられなかったし、一生挨拶だけの使い魔だ。


 しかし、逆に考えれば俺は不便なく、一般家庭の生活水準よりも快適に過ごせるわけだ。この環境を手放すには惜しすぎる。公園で野宿がしたいか? したくないね!


「いいのか?」

「その代わり、わたしを甘やかせてね」

「そんなことでいいならお安い御用だ」

「一日一回ハグとちゅーしてね」

「……なッ」

「あとあと、寝る時は必ず一緒の部屋。お風呂も一緒ね」


 むむ、なかなか高度な要求だな。けど、住まわせてもらう以上は、それくらいはしないとか。ええい、こうなったら、綾花を支えて満足させてやる。それが俺の使命だ。

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