第3話 VTuberアキナの配信

 晩飯を食べ終え、皿洗いは食器洗い機で自動洗浄されていく。便利なものがあるんだなぁ……。

 感心していると綾花が俺の服を引っ張った。


「どうした、綾花」

「そろそろ配信はじめるから、お兄ちゃんも付き合って」

「え、マジ!? でも、俺が出たら炎上しちゃうでしょ」

「大丈夫だよ。アキナの使い魔であるマフラーになってもらえば問題ないから」


 ああ、アキナの首に巻いてる黄緑のマフラーか。って、あれって使い魔だったのか。喋るのは知っていたけど、そんな裏設定があったなんて知らなかったぞ。


「でも、あのマフラーって誰か担当しているんじゃ。女性っぽいけど」

「あれはAIだよ。ほら、今技術の進歩が凄いじゃん~」


 なるほど――と、俺は納得した。

 今のAIは人間のように反応してくれるからな。VTuberの使い魔にすることも可能なわけか。天才の発想かよッ。


「はえー、驚いた」

「今回からお兄ちゃんが担当して」

「アキナの近くにいられるのは嬉しいけど、声がね……」

「大丈夫。ボイスチェンジャーもあるし」

「そこまで用意してあるのか。凄いな」

「普通だよ~」


 手をヒラヒラさせる綾花。

 本当、いろいろ驚かされるばかりだ。とにかく、今日はマフラーになって様子を見よう。


 配信部屋へ向かった。


 部屋はゲーミングルームみたいな構造だった。レインボーに輝いていますなぁ。


 ゲーミングPCに、キーボード、マウスや椅子など細部に至るまでゲーミング仕様。凄い金が掛かってそうだな。パソコンは、何十、何百万もしそうなモンスターマシンって感じだ。


 普通の高校生が所持できる代物じゃないぞ。稼いでいる綾花だからこそ、か。てか、夢ありすぎだろ。羨ましいなぁ。いやだけど、俺はもうここの住人だ。自由に使えるんだよな。最高かよッ。



「これが配信の裏側か。凄い配線の数だな」

「全部、パパのスタッフにやってもらったよ~」

「パパの? 綾花のお父さんが?」

「そうなんだ。わたしは個人のVTuberだからね」


 そういえば、アキナは企業に所属していないんだよな。個人で大人気なのは珍しいことだ。

 けど、アキナは見た目だけでなく声も可愛いし、それに話も面白い。ずっと聞いていたくなるんだよな。そのせいか、同接も五万以上を常にキープしている。それも毎日だ。

 それだけ人も多くなると投げ銭もたくさん入る。俺もその一人だったが、今日からはマフラーか。凄いぞ、これは。


 俺は、綾花の隣の席に座ることになった。こんな近くでいいのか……。


「このパソコン、使っていいのか」

「うん、それはお兄ちゃん専用でいいよぉ」


 これが俺のパソコン。

 軽くスペックを覗いてみると、CoreiXX、GForce RTX XXXX、メモリ128GB、SSD×4個……と何万もするパーツが組まれていた。

 まてまて、合計すると二十万は軽くいくぞ。


「こりゃ快適だ。サクサクだな」

「でしょー。わたしはパソコンのことあんまり詳しくないけど、不便はないよ」

「かなりのスペックだ。さすが金持ち」

「じゃあ、さっそく配信開始するね。SNSで告知はしてあるから、ぼちぼちね」


 そういえば、SNSでつぶやいていたな。二十時に配信しますって。アキナはいつもこの時間帯だ。

 今まで気づかなかったけど、女子高生だから帰って来てから配信という流れだったんだな。俺は部屋にある制服で理解した。


 横で腕を組んで身構えていると、綾花は手慣れた手つきで配信を始めていた。おぉ、こんな感じなのか。



「俺はどうすればいいかな?」

「今日は一言喋ってくれればいいよー。あとは見ていて」

「分かった。少し喋って後は視聴者として見ているよ」

「うん。途中でAIに切り替えるから安心して」

「分かった」


 考えたなぁ、さすがだ。

 感心していると、ぼちぼち配信が始まった。すでに来場してくる視聴者。またの名を“下僕”。人気者だから、一瞬で三千、五千と増えていく。


 アキナが一度配信を始めれば、SNSで話題になり下僕が増えていく。


 3、2、1とカウントダウン。ついに配信が始まった。



「こんこん~。今日もよろしくねー」



 おぉ、アキナだ。

 目の前に本物のVTuberアキナがいた。生で見られるなんてなんだか感動的だ。俺もアキナに合わせて挨拶だけ済ませる。いつも見ているからな、AIの見様見真似だが。



「こんにちは~」



 本当にボイスチェンジで声が変わってる! なんだかユニークな声だな。まさにサポートキャラというか。

 その一言で俺の仕事は終えた。あとはAIが勝手にやってくれる。


 俺はアキナの配信を側で楽しむ。

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