第14話 狭間
あれ、これは夢だろうか。
身体がふわふわして宙を浮いている感覚。そして僕の好きな雨の音がする。
いつになくリラックス出来た状態で胸の辺りが暖かい。現実とはかけ離れた感覚。けれど頭は冴えていて色々な事柄を理解出来る。
僕はあれからどうしてしまったのだろう?
遊園地からの帰り道。雨音を追って車道に飛び出し、気付けば夢の世界にいる僕。
いや、これは夢なのか?
視界は霞んで周りを見渡す事が出来ない。身体も思うようには動かない様だった。けれども何処か居心地が良い。不思議な状態である。
僕の身体の中に雨の音が静かに響く。
ポツリポツリ。
優しくてそれでいてどこか暖かみを感じられる。
こんな雨の音は初めて聞く。
心地よい音に耳を澄ます。
何処か遠くで声が聞こえる。
とてもとてもか細くて今にも消え入りそうな声。
雨の音から声の方に耳を研ぎ澄ます。
『ごめんなさい……』
どうやら謝っているようだ。
どうしてこの声の主は謝っているのだろうか。
『あなたに話してない事があるの、今まで黙っていた事が……』
話してない事?僕に?
『もし本当の事を話したら嫌われたりするんじゃないかって、怖くて……』
僕は声の主の話しに耳を傾けた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
『あなたと初めて話したあの公園で、私は一つの秘密にしていた物を置き忘れた。
それはあなたが手にしていた花柄のケース。あのケースの存在をあなたに知られたくなかった』
『実はね、あなたと同じクラスになってすぐ、あなたに一目惚れしたんだ。けれど恥ずかしくて中々話しかけられなくて四月も終わろうとしていた』
『私はいつものように学校に行く前に、あの公園のあのベンチに座って、今日は橘くんと話せますようにって願掛けして公園を出たの』
『そしたら始業時間ギリギリな事に気がついて、焦って学校に向かった』
『私っておっちょこちょいな所があるから一つの事に集中すると他の事を忘れたりしちゃってさ』
『学校が終わって教科書とかをバッグに入れている時にケースがないって、そこでようやく気が付いて』
『公園に忘れたんだってすぐにピンと来たから急いで向かったけど、時すでに遅し』
『ケースはあなたの手の中にあった』
『そのケースのお陰であなたと話す機会が出来たけれど、知られたくない秘密を知られてしまったと思った』
『けれどあなたは、そのケースがなんなのか理解していなかったみたいで私はホッとした』
『本当はその時にあなたに正直に話していれば、今こんな事にはならなかったのかも知れない』
少しの沈黙と共に声の主は話しを続けた。
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