第13話 後悔



 あの日から一週間。

 

 私は奇跡的に腕と脚の擦り傷だけで軽傷であった。


 事故現場での目撃証言から状況を理解する事は出来たが、状況を受け入れる事は出来ずにいた。


 何故なら彼は、一度も眼を覚ます事なく病院のベッドに横たわっている。


 聞いた話しによると、私が帽子を追いかけ始めたのと同時に車の存在に気づいた彼が身を挺して守ってくれたみたいだ。


 怪我の状態は出血の量ほど酷いものではなかったが、頭への衝撃が彼の意識をどこかへ飛ばしてしまったらしい。


 意識が戻る事は可能性として低いとお医者さんから言われている。


 意識を取り戻したとしても後遺症が残る可能性が高いとも。


 私は悔やんでも悔やんでも悔やみきれずにいた。


 

 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 「ありがとね、今日も来てくれて。颯斗も喜んでるよ」


 「いえいえ」


 この一週間は毎日お見舞いに来ていたので、颯斗くんの母親とも仲良くなりつつあった。


 「その内ケロッと目を覚ます筈だから気長に待ってあげてね」


 「はい……」


 颯斗くんの母親は私に責任を感じて欲しくないと、優しく、気丈に、強い人を演じている。


 けれど私は知っている。声を殺して涙を流している颯斗くんの母親を。

 

 私が病室に駆けつけたあの日、個室のドアの隙間から微かな声を耳にした「私を一人にしないで、お願いだから帰ってきて……」と。


 だからこそ、私は泣いてはいけないと思った。


 「私一階の食堂でご飯を食べて来るね、申し訳ないんだけど颯斗の事見ててくれる?」


 「はい、ゆっくりして来てください」


 「助かるわ雨音ちゃん」


 三十分くらいしたら戻って来ると言い残し、その場を去ろうとした颯斗くんの母親が再び振り向いた。


 「眠ったままだけど耳は聞こえてるみたいだから何か話しかけてあげてね、雨音ちゃんの声は必ず励みになると思うから」

 

 私は枕元で語りかけた。





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