第4話 交差
屋根付きベンチの周りは雨が優しく支配していた。しとしとしと。今日はいつにも増して素敵な雰囲気の装いを感じる。
「ねえねえ、さっきの彼女て言葉、
あれはどういう意味での彼女なの?」
咄嗟に出た言葉だった為、状況説明の回帰を迫られあたふたしていたが真正面のベンチに座る水元さんを横目に視線を泳がせながら答えた。
「彼女は……女性って意味をさしての彼女だよ……うん」頬が熱い。
水元さんは僕の返答を「ふふ〜ん」とニヤニヤしながら目を細めた。
その場の雰囲気を誤魔化すように僕はペットボトルジュースを口にする。
彼女とは彼女としての意味で発した言葉だけれども、男を追い払う為の嘘として出た言葉だった為水元さんへの返答には意味を捻じ曲げて説明した。
「私は彼氏いないし、彼女としての意味での彼女でも良かったんだけどな〜……な〜んてね」
まさかの不意打ちに口からジュースを吹き出しそうになりむせ返った。
「ゲホゲホ」
橘くん大丈夫?とは心配してくれてはいるものの笑いながら話す水元さんは小悪魔のように見えた。距離感は近いし、さりげないボディタッチなんかもあるし、完全に僕は手のひらで転がされている。水元さん恐るべし。
僕のむせ返りが落ち着くと、水元さんは立ち上がって周りを見渡し話し始めた。
「この公園のこの場所って良いよね、私昔から好きなんだ。騒音や喧騒が周りになくて、ここだけが静寂に包まれている感じ」
僕はその言葉に、分かると心の中で呟きながら水元さんの話しに聞き入った。
「実は酷い天候じゃない時には、登校する前にこの場所に寄ってから学校に行ったりしてるんだ。そうするとリラックスして学校に臨めるというか頑張れる気がして。
たまにのんびりし過ぎて遅刻しそうになっちゃうけど」
そんな話しを聞いて親近感を感じた。僕から見る水元さんは、明るくて愛嬌があって悩み事なんて無い人のように見えたから。
「僕も同じだよ。水元さんとは逆に、学校が終わってからの放課後の時間でだけど、人があまり居ない雨の日限定で、ここのベンチに座って雨の音を聞いてリラックスするんだ。普段は音が苦手な部分がある僕だけど、雨の音は大好きなんだ」
沈黙が流れる。変な事を言ったのかと心配になり水元さんに目を向けると、少し顔を赤らめてモジモジしている。
(あれ?恥ずかしくなる様な事言ったのかな?)
水元さんは少し間を置いて口を開いた。
「あの、良かったらこれからは……」
神妙な間に僕は唾をごくりと飲み込んだ。
「雨音って名前で呼んでくれるかな?」
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